2024年10月03日
【短編小説】『無表情の仮面』9
⇒【第8話:同情と罪滅ぼし】からの続き
<登場人物>
◎リオラ
♀主人公、16歳
西の国の魔法学院・高等科に在籍
◎エルーシュ
♀リオラの母親、32歳
◎アシェラ
♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳
◎クラヴィス
♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍
◎オルニス
♂クラヴィスの父親、32歳
南の国の国防軍・魔法部隊隊長
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【第9話:笑顔を奪ったもの】
私はリオラ。
行方知れずの母親を探して、
南の国まで旅をしてきた。
私は旅立つ前から予感していた。
いくつもの国を脅かす”冷眼の魔女”は
きっと私の母親だろうと。
そんなわけない、
人違いであってほしいと願った。
けれど、
冷眼の魔女を見るアシェラさんの表情は、
私の淡い期待を打ち砕いた。
アシェラ
『…ウソ…でしょ…お姉ちゃん…。』
アシェラさんはショックで放心していた。
彼女にとっては、
母親の顔を覚えていない私より
よっぽどタチの悪い再会だった。
リオラ
(オルニスとの約束!…戦ってはダメ!)
(逃げなきゃ!)
私は全身の震えをこらえながら、
オルニスへ救難信号の魔法を飛ばした。
私たちにできるのは逃げ切ること。
オルニスが精鋭部隊を率いて助けに来るまで。
エルーシュ
『…逃がさないよ。』
お母さん…もとい冷眼の魔女は、
ほぼ無詠唱で追撃の火炎魔法を撃ってきた。
模擬戦闘で対峙した暗黒魔導士とは
比べ物にならないほど速かった。
リオラ
「…アシェラさん!目を覚まして!」
アシェラ
『…ハッ!』
ドン!
間一髪、
アシェラさんは魔法バリアを張ってしのいだ。
エルーシュ
『…アシェラ、やるじゃないの。』
『…少しは楽しめそう。』
アシェラ
『お姉ちゃん…止め…!』
アシェラさんが言い終わるヒマもなく、
炎の連撃が飛んできた。
リオラ
「…対火魔法で逸らして…!」
「…いけない!速すぎる…!」
私とアシェラさん2人がかりで
魔法バリアを張ったが、
リオラ
「……バリアが破られ…!」
アシェラ
『…リオラ!こっち!私の法衣の中へ!』
リオラ
「え…!」
ゴォォォォォ!
リオラ
「ああぁぁぁ!」
魔法バリアが破られ、
私たちは炎に飲み込まれた。
リオラ
『アシェラさん…また私をかばって…!』
アシェラ
『大丈夫…魔法の法衣で軽減したから…。』
暗黒魔導士との戦闘で学んだ私たちは、
魔法バリアを込めた法衣を着ていた。
たいていの魔法攻撃に耐えられるが、
冷眼の魔女の力は「たいてい」ではなかった。
アシェラ
『とても逃げ切れない…。』
『リオラ!私が足止めする!』
『先にオルニスのところへ行って!』
リオラ
「アシェラさんだけ残して行けないよ…!」
アシェラ
『私なら大丈夫。』
『お姉ちゃんの魔法は小さい頃から見てきた。』
『弱点だって見逃さないよ!』
アシェラさんはそう言って、
強力な風の魔法を身にまとった。
リオラ
「炎に対して、冷気じゃなくて風…?」
アシェラ
『お姉ちゃんの火炎魔法のクセなの。』
『これで全部逸らしてやるんだから!』
エルーシュ
『…ふん、覚えていたか…。』
『…あれから私が成長していないとでも?』
アシェラ
『風よ…我を守護せよ…!』
アシェラ
『…リオラ!早く行っ…?!』
ゴォォォォォォォォォ!
風魔法が吹き飛ばされ、
さらに強力な炎がアシェラさんを襲った。
アシェラ
『うぅ……。』
リオラ
「お母さん…?」
「あなたは私のお母さんなんでしょ?!」
エルーシュ
『……。』
リオラ
「もう止めてよ!」
「この人は妹のアシェラさんだよ?!」
「私は娘のリオラ?!覚えてない?!」
アシェラ
『お姉ちゃん…もう止めて…。』
エルーシュ
『…とどめ。』
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
アシェラ
『…どうしてこんなことを…?』
エルーシュ
『…復讐。』
アシェラ
『…復…?』
エルーシュ
『こんな世界に価値はない。』
『誰も私を愛さない世界なんて滅ぼしてやる…!』
私には、冷眼の魔女の動機は
あまりに歪んでいるように思えた。
けれど、アシェラさんは納得していた。
冷眼の魔女…もとい、
お母さんは私を育てたのと同じように
スケジュール管理されて育てられた。
親からの愛情を受けられず、
生後3ヶ月で”無表情の仮面”を着けた。
『親は私より魔封じの秘術の研究が大事なの?』
なんて言えないまま、憎しみを募らせていった。
まさかそれが
将来の自分を封印する切り札なんて思わないまま。
アシェラ
『…お父さんもお母さんもね…。』
『お姉ちゃんを愛していなかったわけじゃないの!』
エルーシュ
『…娘を冷たいスケジュールに当てはめておいて?』
『…魔法の研究を優先しておいて?』
アシェラ
『きっと…守りたい人のための研究だったんだよ…!』
エルーシュ
『…何を今さら。』
アシェラ
『2人でお父さんたちに逢いに行こうよ!』
『理由を直接聞いてみようよ?』
エルーシュ
『…それは…もうできない。』
アシェラ
『どうして?』
エルーシュ
『数年前から行方知れずなんでしょ?』
『魔封じの秘術を完成させた者は。』
アシェラ
『そうだけど、きっとどこかで生きて…。』
エルーシュ
『私、いくつの国を負かしてきたと思う?』
アシェラ
『それは…。』
エルーシュ
『どれだけの魔術師を討ち取ったと思う?』
アシェラ
『まさか…お父さんとお母さんも…?!』
エルーシュ
『さぁね…その中にいたかもね。』
アシェラ
『…え…。』
エルーシュ
『…復讐と言ったでしょう?』
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
冷眼の魔女の全身に、
巨大な魔力が溜まっていくのがわかった。
人間の身体に留めておくには
大き過ぎる魔力。
もし暴発したら、
この一帯の景色が変わってしまうだろう。
アシェラ
『お姉ちゃん…それ以上はダメだよ!』
『身体が壊れてしまう!』
エルーシュ
(…ごめんね…私の巻き添えにして…。)
『…悪いけど消えてちょうだい…。』
『この世界ごと…!』
リオラ
「お母さん、やめてーーーー!!!」
パキィィン…!
リオラ
(……何…?今の音…。)
暴走した魔力が
いよいよ爆発すると思われた瞬間、
ふいに何かが割れる音がした。
エルーシュ
『う…うぅ……!』
冷眼の魔女の顔から、
何かのカケラがポロポロと落ちていった。
それは彼女が生後3ヶ月で
外せなくなった”無表情の仮面”だった。
アシェラ
『…初めて見た…お姉ちゃんの泣き顔…。』
無表情の仮面が割れ、
あらわになった彼女の顔は
涙でぐしゃぐしゃだった。
それは私が魔法学院を休学する前に、
雨の帰り道で泣いた時の顔。
16歳の孤独な少女の顔だった。
暴発寸前だった彼女の魔力は
どんどんしぼんでいった。
オルニス
『やっと見つけた!』
『2人とも無事ですか?!』
その時、
私たちの救難信号を受けた
オルニスが駆けつけた。
リオラ
「オルニス…!」
「アシェラさんの手当てをお願い!」
オルニス
『わかりました!アシェラさん、こっちへ!』
アシェラ
『うぅ…。』
オルニス
『冷眼の魔女…ようやく逢えたな…!』
『今度こそ”仇”を討たせてもらう…!』
⇒【第10話:守りたい人がいる】へ続く
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