2024年09月21日
【短編小説】『無表情の仮面』5
⇒【第4話:スケジュールと秘術】からの続き
<登場人物>
◎リオラ
♀主人公、16歳
西の国の魔法学院・高等科に在籍
◎エルーシュ
♀リオラの母親、32歳
◎アシェラ
♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳
◎クラヴィス
♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍
◎オルニス
♂クラヴィスの父親、32歳
南の国の国防軍・魔法部隊隊長
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【第5話:雨中の魔法特訓】
私は雨の中を歩く少女に追いつき、
私が持っていた傘の下に入れた。
少女
『…?』
リオラ
「悲しいの?もう大丈夫だよ。」
少女
『あ、ありがと…。』
『…(ビクッ)?!』
少女は私を怖がった。
私が”無表情”だったから。
アシェラ
『大丈夫、怖くないよ。』
そこへアシェラさんが
笑顔で駆け寄ってきた。
リオラ
「怖がらせてごめんね。」
「私、笑うのが苦手なの。」
「泣いていたから心配になって。」
アシェラ
『はい傘、濡れちゃうよ?』
少女
『あ…ありがとう…ございます。』
『あの…お姉ちゃんの傘は…?』
アシェラ
『予備があるから大丈夫!使って?』
ニコリ
少女はアシェラさんの笑顔を見て、
やっと少し安心してくれた。
近くに公園と、
屋根付きのベンチがあった。
私たちはひとまずそこへ避難し、
魔法で少女の濡れた服を乾かした。
少女
『さっきはありがとう。』
『私の名前はクラヴィス。』
『魔法学院の初等科に通ってるの。』
アシェラ
『私はアシェラ、よろしくね。』
リオラ
「私はリオラ。怖がらせてごめんね。」
「さっきはどうして泣いてたの?」
クラヴィス
『私、魔法の成績が良くないの。』
『それでクラスのみんなに色々言われて…。』
『今日は傘を持ってきたのに、ロッカーになくて…。』
リオラ
「…(ズキッ)!」
クラヴィス
『玄関で困っていたら、みんなに笑われて…。』
アシェラ
『それで、悲しくなって飛び出してきたの?』
クラヴィス
『うん…。』
それは私が休学前に
クラスメイトからされたことと同じだった。
クラヴィスの涙に、
学院での私の姿が映った気がした。
リオラ
「……(ゴゴゴゴゴ…)!」
クラヴィス
『お姉ちゃん、どうしたの…?怖いよ…。』
リオラ
「ご、ごめん!」
私は全身から漏れ出した怒りの魔力を
慌てて引っ込めた。
リオラ
「どんな魔法が上手くできないの?」
アシェラ
『私たち、少し魔法の心得があるの。』
『力になれるかも。』
クラヴィス
『本当?』
『お姉ちゃん、もしかして西の国から来たの?』
リオラ
「そうだけど、どうして知ってるの?」
クラヴィス
『パパが言ってた。』
『近々、魔法が上手なお姉ちゃんが来るって。』
『パパは任務でなかなか会えないから…。』
『その人たちに聞いたらいいよって。』
アシェラ
『任務?』
クラヴィス
『うん、パパは王都で魔法部隊の隊長をやってるの。』
『すごく強くて、魔法も上手いんだ。』
アシェラ
『もしかしてパパの名前は…。』
クラヴィス
『オルニス。』
オルニスは、
機関長が紹介してくれた
南の国の魔法部隊・隊長の名前だった。
リオラ
「実は私たち、西の国の機関長の紹介で…。」
クラヴィス
『お姉ちゃんたちがそうなの?』
『パパより強い?』
リオラ
「それは自信ない(汗)」
クラヴィス
『じゃあ「魔封じの秘術」に詳しい?』
アシェラ
『?!!…魔封じ…。』
「魔封じの秘術」は魔法学院の必修科目で、
私も初等科の時に習った。
世界を危機に陥れる存在が現れた時に備え、
各国で研究が進められている秘術。
どんなに魔力が強い者でも、
宝石の中へ封じ込めてしまうという。
ただし未完成で、
どれくらいの相手に通じるかわからない。
とある魔術師夫婦が
完成させたという噂もあるけど、
2人とも数年前から消息を絶っていた。
アシェラ
(お父さまとお母さまが研究していた魔法…。)
(そして、エルーシュお姉ちゃんから表情を奪った…!)
リオラ
「アシェラさん?どうしたの?」
「そんなに震えて…。」
アシェラ
『な、何でもないよ!』
『私たちも基礎ならわかるから!』
クラヴィス
『ほんと?じゃあ教えてくれる?』
アシェラ
『もちろん!』
『それじゃ、つまづいてるところを教えて?』
ーー
それから数時間、私たちは
クラヴィスとの魔法特訓に熱中した。
気づけば雨は上がり、
辺りが暗くなり始めていた。
クラヴィス
『お姉ちゃん、ありがとう!』
リオラ
「よかったね、できるようになって。」
クラヴィス
『私、もう大丈夫!』
アシェラ
『そろそろ学院の長期休み?』
クラヴィス
『うん、明後日から。』
『パパが寮まで迎えに来てくれるの。』
リオラ
「うっ…。」
私はクラヴィスの嬉しそうな顔を見て、
胸が締めつけられた。
長期休みの前、
学院の寮生の親が迎えに来るたびに
「どうして私はああいう経験ができないの?」
という”声にならない悲鳴”を
押さえつけて過ごしてきた。
リオラ
「…よかったねッ…!パパが来てくれて…!」
私は精一杯、
嬉しそうな声色を作ってみせた。
夜になり、
クラヴィスと別れた私たちは
雨上がりの繫華街へ向かった。
宿に着き、荷物を降ろしてホッと一息。
リオラ
「アシェラさん、ご飯食べに行こ?」
「南の国の名物料理!」
アシェラ
『その前に…止むまで待ってから。』
リオラ
「止むまで?雨ならもう上がって…。」
ぎゅっ
リオラ
「…?!」
アシェラ
『…ヤセ我慢してる子が”泣き止むまで”ね?』
『悲しかったよね、寮に誰も迎えに来なくて…。』
ポロ、ポロ、
リオラ
「…どうして…いつもバレちゃうの…?」
ニコリ
アシェラ
『…理由なんて要らないでしょ?』
私、この人に頼りっぱなしだ…。
アシェラさんだって辛いはず。
蛮行を繰り返す魔女が姉かもしれないんだから。
なのに、彼女はずっと
私のお母さんとお姉さんの代わりでいてくれる。
アシェラさん、この恩は必ず返すよ。
今は、もう少し泣かせてね…?
⇒【第6話:魔界との模擬戦闘】へ続く
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