2024年09月18日
【短編小説】『無表情の仮面』4
⇒【第3話:泣いて支えて】からの続き
<登場人物>
◎リオラ
♀主人公、16歳
西の国の魔法学院・高等科に在籍
◎エルーシュ
♀リオラの母親、32歳
◎アシェラ
♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳
◎クラヴィス
♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍
◎オルニス
♂クラヴィスの父親、32歳
南の国の国防軍・魔法部隊隊長
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【第4話:スケジュールと秘術】
<22年前、西の国:王都>
(エルーシュ10歳、アシェラ0歳)
?
『……ル…シュ…。』
『……エルーシュよ…。』
エルーシュ
『…んん…誰…?』
?
『エルーシュよ、起きなさい。』
エルーシュ
『…ハッ!』
父親
『魔法の勉強中に居眠りとは何ごとかね?』
『帰省中だからといってダラケてはいけない。』
エルーシュ
『お…父さま…。』
父親
『寝ていた時間分、スケジュールが遅れた。』
エルーシュ
『ごめんなさい…。』
父親
『16時から実戦訓練だ。』
『準備しなさい、私は研究に戻る。』
エルーシュ
『はい…。』
母親
『今15時30分?』
『アシェラのオムツ交換の時間ね。』
『エルーシュ、訓練場へ行っていなさい。』
エルーシュ
『お母さま、さっき…。』
母親
『何?』
エルーシュ
『アシェラが”お腹が空いた”と。』
母親
『あの子が言ったの?』
エルーシュ
『いえ、そういう泣き方をしていました。』
母親
『アシェラの夕食は17時。』
『まだスケジュールの時間じゃないから。』
エルーシュ
『ですが、アシェラが泣いて…。』
母親
『予定をきっちり守れる子になるためよ。』
エルーシュ
『……。』
母親
『今日の訓練は火炎魔法。』
『教則本16ページの応用から。』
『早く行って、魔力を練っておきなさい。』
エルーシュ
『…はい…(アシェラ…すまない…。)』
ーー
<その日の夜>
母親
『エルーシュ、あなた…。』
『訓練場に行く前にアシェラにご飯あげたでしょ?』
エルーシュ
『はい、アシェラがお腹を空かせた顔を…。』
母親
『間食になるから困るの。』
『おかげであの子、夕飯を残したんだから。』
エルーシュ
『アシェラは泣いて訴えていましたよ?』
母親
『あの子の将来のためだから仕方ないの。』
『栄養バランスのスケジュールも立ててるんだから。』
エルーシュ
『…そこまでスケジュール通りにしなくても…。』
父親
『エルーシュ、もうすぐ20時だ。』
『今日の復習を始める、書斎へ行きなさい。』
エルーシュ
『お父さま、アシェラの話はまだ…!』
父親
『我々を困らせないでくれ。』
『今、重要な”封印魔法”の研究を進めている。』
『知らないわけじゃないだろう?』
エルーシュ
『心得ています…。』
父親
『時間をムダにできないんだ。』
『2人のためでも、世界のためでもある。』
エルーシュ
『…わかり…ました…。』
…………。
ーー
<現在、南の国:国境付近の山地>
スヤスヤ…パチッ
エルーシュ
『…また…昔の夢か…。』
『お父さまも、お母さまも…。』
『”スケジュール”とか”まだ時間じゃないから”とか。』
『いや、私には憎む資格なんてない。』
『私はリオラに同じことをしてしまった。』
『挙句あの子を見捨てて、世界を恐怖に陥れて…。』
スッ
エルーシュ
『私の表情…。』
『こんなに色々考えても変わらないのか。』
『もう外せないのかな…?”無表情の仮面”。』
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
エルーシュ
『いけない、また憎しみが戻って来た。』
『もう少し感傷に浸らせてほしかったのに。』
『憎しみの炎よ、私を包みなさい。』
『次の相手はどこの国防軍?』
『どこのエリート魔法部隊?』
『すべて滅ぼしてやる。』
『忌々しいあの男も、冷たい両親も。』
『私の穢れた血を分けた…あの子も!』
ーー
<現在、南の国:国境沿いの街>
リオラ
「着いた、ここが国境沿いの街かぁ。」
アシェラ
『遠かったね。』
『もう十分、旅行した感じ。』
リオラ
「王都は近いの?」
アシェラ
『ここから数日かな。』
リオラ
「うへぇ…さらに数日…。」
アシェラ
『今日は休みましょう、雨が強くなる前に。』
リオラ
「うん。」
小雨が降る中、
私たちは宿屋のある繫華街へ向かった。
リオラ
「そういえば、この街にあるんだよね?」
「魔法学院の系列校。」
アシェラ
『………。』
リオラ
「…?アシェラさん?」
アシェラ
『えっ?あ、ごめんね!』
『ちょっとボーっとしちゃった!』
リオラ
「…大丈夫…?」
アシェラ
『あ、あはは!大丈夫!』
魔法学院の系列校の話になった途端、
アシェラさんの表情が曇った。
そういえば、アシェラさんの両親は
どこかの魔法学院の教師って聞いたような…?
だとしたら話題を間違えたかもしれない。
私が悶々としながら歩いていると、
アシェラ
『あれがそうじゃない?』
見慣れた作りの建物が見えてきた。
門には「南の国・魔法学院」の文字。
アシェラ
『西の国の学院と同じ造りだね。』
リオラ
「一瞬、帰ってきたって錯覚しちゃった。」
「…あれ…?」
アシェラ
『どうしたの?』
広い校庭の先、
玄関口から1人の少女が出てきた。
傘もささず、表情を崩さず、
それでもよく見ると泣いていた。
アシェラ
『あの子…どうしたのかな?』
私には、あの少女が
魔法学院での自分と重なって見えた。
ダダッ
アシェラ
『…リオラ?』
私は傘を握りしめ、少女へ駆け寄っていった。
⇒【第5話:雨中の魔法特訓】へ続く
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