2024年09月27日
【短編小説】『無表情の仮面』7
⇒【第6話:魔界との模擬戦闘】からの続き
<登場人物>
◎リオラ
♀主人公、16歳
西の国の魔法学院・高等科に在籍
◎エルーシュ
♀リオラの母親、32歳
◎アシェラ
♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳
◎クラヴィス
♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍
◎オルニス
♂クラヴィスの父親、32歳
南の国の国防軍・魔法部隊隊長
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【第7話:人間に近づいて】
暗黒魔導士の猛烈な吹雪攻撃が続いた。
リオラ
「アシェラさん!こっち!」
私は手負いのアシェラさんを引っ張り、
吹雪の直撃を避けた。
リオラ
「ハァ…ハァ…。」
アシェラ
『リオラ、ありがと。』
『ごめんね、お荷物になっちゃって…。』
リオラ
「ううん、私が深追いしたせい…。」
今は何とか避けていても、
魔法を無効化されている以上、
こちらには攻撃手段がなかった。
そうこうしているうちに
寒さで眠くなってきた。
リオラ
(どうしよう…眠ったら最後…!)
(……”眠ったら”…?)
そういえば私たち…。
猛烈なブレス攻撃を浴び続けて、
心配はそっち?
なぜ凍傷で力尽きるでもなく、
この程度のダメージで済んでいるの?
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アシェラ
『服に込めた魔法バリアは生きて…。』
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リオラ
「それだ!道具に込めた魔法なら…!」
「アシェラさん!ロッド借りてもいい?」
「炎のロッド!」
アシェラ
『…いいよ…魔力は充填してあるから…。』
リオラ
「ありがと!」
”ロッド”は
特殊な魔石をはめ込んだ杖の一種。
魔石にあらかじめ魔力を込めておけば、
間接的に魔法を放出できる。
昔の魔石は数回使うと砕けてしまったが、
今は改良されて何度でも魔力を充填できた。
再び、暗黒魔導士の吹雪攻撃。
リオラ
「やッ!」
私が炎のロッドを振りかざすと、
火炎がほとばしり、吹雪とぶつかって消えた。
リオラ
「防げた…!」
「これを繰り返して上昇気流を起こせば…!」
激しい温度差で小さな竜巻が発生。
魔法遮断の霧が徐々に散っていった。
リオラ
(相手は吹雪で攻めてくるだけ。)
(接近してこないってことは…。)
(それほど光魔法を恐れているってこと!)
紫の霧が薄れ、
私の手に魔力が戻ってきた。
私は相手に気づかれないよう、
光属性の攻撃魔法を準備した。
ビュオォォォォ!
ひときわ大きな竜巻が
私と暗黒魔導士の間に吹き荒れた瞬間、
リオラ
「今だ!光の槍!」
ビュン
ドッ!
私が竜巻の陰から撃った光の槍の1本が
暗黒魔導士を直撃。
今度こそ倒した。
リオラ
「ハァ…ハァ…勝った…!」
オルニス
『お見事。』
オルニスが幻影魔法を解除すると、
景色が荒野から訓練場に戻った。
リオラ
「あれ?傷がない?」
オルニス
『お2人とも、素晴らしい戦いでした。』
リオラ
「あの…アシェラさんの傷は?」
オルニス
『魔法を解けば消えますよ。』
『幻影ですから。』
リオラ
「…よかった…。」
安堵感とともに
私の全身から力が一気に抜け、
その場にへたり込んだ。
オルニス
『アシェラさん、さすがです。』
『魔法遮断の霧を見抜くとは。』
アシェラ
『わ、私はリオラのお荷物になってしまって…(汗)』
オルニス
『リオラさんの魔法も素晴らしい。』
『その若さで高威力の光魔法を使いこなすとは。』
リオラ
「私、アシェラさんを手負いに…。」
オルニス
『ははは、戦闘については良い経験になったでしょう。』
リオラ
「なりました…。」
「魔法そのものを無効化する相手がいるなんて。」
「教科書で読んだことがあるだけでした。」
アシェラ
『私も実際に見たのは初めてです。』
オルニス
『高位の魔族は、魔法以外の多くの切り札を持っているそうです。』
リオラ
「あの時、接近されたらやられていました…。」
オルニス
『危ないところでしたね。』
『とはいえ魔族との戦争は過去の話。』
『現代であんな状況に遭遇することはまずないでしょう。』
アシェラ
『私も精進します…!』
『この子を守るために付いてきたので!』
リオラ
「アシェラさん…。」
オルニス
『実に頼もしい。』
『お2人とも、前線部隊へ合流してください。』
アシェラ
『あ、ありがとうございます!』
オルニス
『1つ約束してください。』
リオラ
「約束?」
オルニス
『もし冷眼の魔女に遭ってしまったら逃げること。』
『決して交戦せず、助けを呼んでください。』
アシェラ
『わかりました!』
コンコン、ガチャ、
クラヴィス
『パパ!お弁当届けに来たよ!』
オルニス
『クラヴィス、ありがとう。』
クラヴィス
『今日はお客様が来てるの?』
『って、先週のお姉ちゃん!』
リオラ
「クラヴィス、先週ぶり。」
アシェラ
『あの後、大丈夫だった?』
『魔封じの秘術の試験。』
クラヴィス
『うん、先生もクラスのみんなもびっくりしてた!』
『”いつの間にこんなに上達したの?”って。』
『教えてくれてありがと!』
アシェラ
『そっか、よかったね!』
クラヴィス
『私もう大丈夫。』
『クラスのみんなに何を言われても言い返してやるんだ!』
オルニス
『お2人には感謝しかありません。』
『娘にこんなに良くしてもらって。』
クラヴィス
『リオラちゃん…どうしたの…?』
『悲しそう…。』
私の”浮かない表情”に気づいたオルニスは、
アシェラさんへ視線を移した。
アシェラさんは一瞬、視線を落とし、
苦笑いで返した。
オルニス
(そういうことですか…。)
(リオラさんの心の傷が…。)
クラヴィス
『私、リオラちゃんの笑顔が見たい!』
リオラ
「え?」
クラヴィス
『リオラちゃん、こんなに優しいから。』
『悲しそうな顔じゃなくて笑顔を見たいよ。』
…そっか…私、
オルニスやクラヴィスの前でも、
「浮かない顔」ができるようになったんだ…。
アシェラ
(……リオラ、よかったね…。)
(”無表情の仮面”を外せるようになってきて。)
私は「母親を探す旅」という方便を立てて、
学院から逃げるように休学した。
こう言うと変だけど、
この旅で少しだけ人間に近づけた。
人のあたたかさに触れるたびに、
私の”無表情の仮面”が剝がれていったから。
⇒【第8話:同情と罪滅ぼし】へ続く
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