アフィリエイト広告を利用しています

広告

この広告は30日以上更新がないブログに表示されております。
新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
posted by fanblog

2024年11月20日

【恋活】『過去の未練も引き連れて』

恋活や婚活の本を読んでいると、
『過去の恋人への未練をすべて断ち切りなさい』
という心構えがよく出てくる。

確かにその通り。

僕は”過去の恋人への想い”が残ったまま
目の前の人に向き合える自信がないし、
その人を「昔の恋人の代役」として見てしまったら、
自分の不誠実さがイヤになる。


ただ、こうも思う。
「過去の未練をすべて断ち切って、
 新しい恋に生きられる人がどれだけいるだろう?」


V系バンド『シド』の『レイン』という曲に、
こんな歌詞がある。

 鳴りやまない 容赦ない思い出たちは 許してくれそうにもない
 目を閉じれば 勢いは増すばかりで 遠巻きで 君が笑う


たとえ思い出の品をすべて捨てても、
心に刻まれた思い出は消せない。

恋を探すほとんどの人が、多かれ少なかれ
”過去の想い人”を引きずりながら前進していると思う。


それを『未練がましい』と嫌う人もいるだろうし、
消せない思い出の背負い方に答えなんてない。

できるとすれば
「過去の恋人の思い出が今の自分を作ってくれた」
と考えること。

そして未来の自分を作ってくれるのは
”遠巻きで笑う君”ではなく、これから出逢う想い人。

断ち切れない未練なら、
いっそ付いてきてもらおう。

過去の誰一人欠けても、今の自分はいないから。





⇒他記事
【恋愛格差】『恋なんて諦めたはずだったのに』

【短編小説】『白だしうどんは涙色』全2話

【短編小説】『鳥カゴを打ち破って』全4話


⇒参考書籍








2024年11月18日

【自分の可能性】『モデル時代の全身タイツCM出演経験』

モデル活動をしていた頃、
地方の中小家電メーカーのCMに
「全身タイツ姿」で出演したことがある。


風貌は
「#ペプシマン」で検索してくれたら話が早い。

新製品の空気清浄機のCMで、
キャストは細マッチョ〜ややムキムキの男性モデル4人。

絵面は
『晴れた日の川沿いを全身タイツ姿の4人で行進する』
 ※ユニークな歩行フォームで


オーディションはボロボロで
「確実に落ちた…」と思ったが、
僕は当時からバスケをやっていて
身のこなしが評価されたらしい。

撮影の流れは
現地集合⇒着替え⇒歩行フォーム指導・練習(1時間くらい)
⇒撮影⇒VTR確認⇒現地解散
だったと思う。

あれが撮影現場とわからなければ、
ランニングの人たちから国家権力への
通報があっても驚くまい。


幸い(?)顔は出ていないので、
CMを観た知人からどうこう言われることはなかった。
※事務所内ではひっそり話題になった

もらった出演料は1万数千円で、
あの規模のCMとしては高額だった。

惜しむらくは、
今そのCMを探しても見つからないこと。
放送期間が極端に短かったのか、絵面の問題か。

そして致命的なのは、僕は出演者なのに
家電メーカーの名前を忘れてしまったこと。
当時の自分の意識の低さが悔やまれる。

それでも、あの経験は
「自分の体型とスポーツ習慣が売り物になる可能性」
を感じさせてくれた。

引っ込み思案で
スクールカースト下位だった僕でも
モデルをやれたことで、

学校での評価は社会の一面でしかないことを学んだ。



⇒他記事
【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』全5話

【短編小説】『なぜ学校にはお金の授業がないの?』全7話

2024年11月17日

【恋愛格差】『恋なんて諦めたはずだったのに』

僕は6年前に離婚した時
「この先もう恋なんてできないんだ」と諦めた。

もともと引っ込み思案で
自分から相手にアプローチできなかった僕が、
人生で何度か恋愛できたこと自体が奇跡だった。

「そんなことない!まだいけるよ!」

もう1人の自分からの叫び声が
頭の中にずっと響いていた。が、

『年収300万円以下で恋人ができる確率は●%』
のような、不安を煽るデータに抗えないまま5年が過ぎた。

「もう1人でいいや。
 バスケや草野球の仲間と過ごす時間が幸せ。」


それに偽りはないが、諦めから目を逸らす自分もいた。

なのに、6年目の今年から
恋を諦め切れない自分がどんどん大きくなってきた。


槇原敬之さんの
『もう恋なんてしない』という曲に、こんな歌詞がある。

 一緒にいるときは
 きゅうくつに思えるけど
 やっと自由を手に入れた
 僕はもっと淋しくなった


僕は矛盾の塊だ。

もう恋なんて諦めたはずなのに
『きゅうくつと自由と淋しさ』を
また欲しがっているんだから。

「子どもが欲しいわけじゃないし、
 今さら再婚なんて望んでいないけれど、
 また恋がしてみたい。仲間とは違う心の支えが欲しい。」


それはワガママだろうか?
法律婚をゴールとしない関係を
望むなんて不誠実だろうか?

そう思うと怖くて誰にも相談できなかった。


今も怖いけれど、
今年は男女問わず新しい出逢いがすごく増えた。
僕の諦めが解けてきたからだろう。

手探りでも、怯えながらでも、
1つ1つの出逢いを大切に進んでいこうと思えた。

 もし君に一つだけ
 強がりを言えるのなら
 もう恋なんてしないなんて
 言わないよ絶対


『強がり』ではなく、いつか本心からそう言えるように。





⇒他記事
【短編小説】『涙を包むラベンダー』(1話完結)

【離婚からの立ち直り】『心の痛みの治癒期間を終え、再出発』



2024年11月16日

【愛着障害】『頂き女子の「心の涙」』

少し前に「頂き女子」の事件があった。
僕は彼女の"頂きマニュアル"の
該当箇所が多めなので気をつけようと思う。

これまでの人生でネットワークビジネスや宗教、
女性への援助活動への勧誘を受けたことがある。

幸いにも2つ返事を踏みとどまれたが、
援助活動をする女性の心の奥にある
悲しみや寂しさを想像してしまう。

そして
「彼女が本当にほしいものはお金ではなく、
 母親からの愛情ではないか?」
と思う。

解散してしまったV系バンド『カメレオ』の
『検索結果0』という曲に、こんな歌詞がある。

 22時に駅西口 一晩2万でどう?
 お金が欲しい訳じゃない
 長い夜 1人でいる方が怖い
 こんな奴でも夜を変えてくれる


僕には女性の気持ちがわかるなんて言えないけれど、
この歌詞は彼女らの悲しみや寂しさを表していると思う。

頂き女子も(たとえ設定だとしても)
母親からの愛情が不足した家庭環境だったらしい。

母親は異性の息子より
同性の娘を「私=あなた」と思いやすいと聞く。


娘にべったり依存したり、娘を母親代わりにしたり、
母親のコンプレックスを娘に直球で映しやすいそうだ。

母親に愛情を与える側として過ごした娘は、
母親に甘えられなかった。


それが恋愛依存や愛情飢餓となり、
お金や男性からの支援という"愛情の代用品"
深層心理で求めているんじゃないかと思う。

今後も女性への援助活動絡みのトラブルに
遭わないよう気をつけたい。

けれど、それ以上に
僕は彼女たちの心の涙を想像してしまう。

一体どれだけの
「泣き明かした夜」を心にしまい込んで、
援助希望の活動をしているんだろう…と。



⇒他記事
【短編小説】『人形の翼が折れた日』全2話

【短編小説】『片翼の人形が救われた日』全4話


⇒参考書籍






2024年11月15日

【聞き上手】『口下手で本当に良かった』

僕は人と接する時どうしても聞き役になる。

なりたくてなっているというより、
慎重に言葉を選んでいるうちに
話題が通り過ぎてしまう。


「これを言ったら相手が傷つくかな…?」
「相手の気持ちを汲めているかな…?」

の堂々巡り。

いのちの電話に連絡した時でさえ、
気づいたら僕が相談員さんの身の上話の
聞き役になっていたくらい筋金入りだ…。

何人か集まると
”話題の中心になって話す人”が現れる。

僕はそういう人がずっと羨ましかった。

頭の回転が早くて、
周囲を楽しませる言葉がスラスラ出てくる能力を
”ないものねだり”していた。

けれど、その考えが変わった。
口下手だからこそ聞き上手になれるとわかったから。

「人は話したい生き物」は真実だと思う。

僕だってできれば話したいけれど、
「人は自分の話を聞いてくれる人に好感を持つ」
もまた真実だと思う。


人生を振り返ると、
しんどい時に心が救われたと感じたのは
「誰かが自分の話を聞いて、理解してくれた時」だった。
この役割なら僕でもできると思った。

話したい人を受け止めること、
しんどい気持ちを少しでも楽にしてあげること。

まるでカウンセラーだけど、
これこそ口下手な僕が”人に与えられるもの”だと気づいた。

時々、話を聞いてばかりでしんどくなる。
愚痴のゴミ箱みたいに扱われることもある。
それでも僕は、少ない口数を相手のために使いたい。

それが、不器用な脳を持って生まれた僕の
「自分らしさ」だから。



⇒他記事
【短編小説】『スマホさん、ママをよろしくね。』全4話

【Give & Take】『Give -相手に何をあげられるだろう?-』


⇒参考書籍




2024年11月14日

【加点方式】『草野球の「褒める文化」』

僕は4年前に
野球部未経験者として草野球チームに入った。
4年目の今季は投手として10試合に出場できた。

ここまでたどり着けたのは、
僕を育ててくれた仲間と、
野球の「褒める文化」のおかげだ。


野球1年目、
僕は仲間に「投手をやってみたい」と伝えた。

子どもの頃、遊びでキャッチボールをしていて
密かに投手に憧れていた。

僕は、野球経験者なら
「重要な投手を素人に任せるのは…」
と思うだろうと勝手に考えていた。

だが、仲間たちは
誰一人として僕の申し出を否定しなかった。

それどころか投球フォームや変化球、
マウンドでの心構えを教えてくれて、
素人1人を熱心に育ててくれた。

野球経験がどうとか
気にしている人なんていなかった。


野球は一流バッターでも打率3割で、
成功確率がとても低いスポーツ。

だからこそ練習や試合中は
「褒める掛け声」が飛び交う。

「ナイスバッティング!」
「ナイスキャッチ!」
「ナイスボール!いい球!」


とにかく良いところを見つけて褒める。

この文化は日常生活で
『人の長所を見つけて褒める姿勢』に応用できている。

他人を減点方式で見る限り、
相手からも減点方式で見られる。


僕は草野球に出逢えたことで
子どもの頃の夢が1つ叶った。

「褒める文化」を肌で感じて
ポジティブなマインドを持つことができた。

もし僕を拾って育ててくれた仲間に
恩返しができるとすれば、投手としてさらに成長すること。

キャッチャーミットにボールが届く限り、
チームのために投げ続けることだ。



⇒他記事
【短編小説】『慰めの代打をさせないで』全3話

【鬱病からの回復】『バスケットボールに命を救われた話』


⇒参考書籍


2024年11月13日

【恐怖体験】『母娘の身代わりになれたと思えば本望』

地下鉄駅直結のスーパーに入ろうとすると、
小さい子が入口のドアを一生懸命に押していた。
その子の後ろで母親が見守っていた。

僕はその子が自力でドアを開けるまで入口で待った。
間もなくドアが開き、母娘が笑顔で出て行った。
それを見届けた瞬間、僕の後ろから怒号が響いた。

「兄ちゃん何してんねん!早よ入れや!」

驚いて振り返ると、
身長160センチ前後でおそらく55〜65歳、
ふくよかな体格でマスクをしたスキンヘッドの男性が
僕に詰め寄って来た。おそらくヤ◯ザではない。

男性は今にも
僕の胸ぐらを掴んで殴りかかってきそうだった。


彼と僕には身長差が20センチくらいあったが、
彼は意に介していなかった。

僕は恐怖で声が出なかったのが9割、
「ここで言い返したら彼と同じレベルになる…耐えろ!」
が1割で、必死で意識を保った。

険悪な空気の中、
後続の人たちは足早にスーパーへ入って行った。

男性は僕をしばし無言で睨んだ後、
舌打ちを残して立ち去った。

僕の全身から血の気が失せ、
両耳は動悸の音で埋め尽くされた。

よろめきながら地上へ出ると、
さっきの母娘が選挙応援の方々と談笑していた。
僕は蒼白になった頭でこう思った。

「あの怒号が母娘に向けられなくて本当に良かった…。
 僕が彼女らの身代わりになれたと思えば本望…。」


母娘は何も知らなくていい。
僕が勝手に恐怖体験を経て
ヒーローぶっているだけだから。

1つ、自分の成長を実感できたのは、

この事件で最初に思ったことが
「なんで自分がこんな目に」ではなかっこと。
なぜか最初に「母娘が無事で良かった…」と思った。

母娘が手を繋いて帰っていく姿は
とても幸せそうだった。


まだ震えが残る胸に、
ほんのりあたたかさがこみ上げた。



⇒他記事
【短編小説】『涙を包むラベンダー』(1話完結)

【Give & Take】『Give -相手に何をあげられるだろう?-』


⇒参考書籍



2024年11月12日

【鬱病からの回復】『バスケットボールに命を救われた話』

僕は小学校からバスケットボールを続けている。
何度辞めたくなっても"バスケが上手くなりたい欲"が暴走する。

体育館の居心地の良さは格別。
そんな僕はかつてバスケに命を救われた。

僕は幼少期から
他人の感情や場の空気に敏感だった。


そのせいか人一倍ストレス耐性が低い。
大学を出て、就職して3ヶ月で「鬱病」になってしまった。

退職後、数ヶ月間「寝たきり」になった。
鬱病のピーク時は眠気と絶望感から、
仰向けで天井を見つめることしかできなかった。

"ニンゲンの抜け殻"になった僕は、
ほとんどの交友関係を失った。

けれど、不思議なことに
バスケの繋がりだけは消えなかった。

「鬱病は甘え」という心無いことを言う人もいた中で、
バスケ仲間だけは「コートで待ってる」という姿勢でいてくれた。

おかげで僕は
「回復したらバスケに復帰するぞ」という、
当時唯一の"生きる希望"を持てた。

数ヶ月後、再びコートに立った僕に対して、
仲間たちは何事もなかったように接してくれた。

ただボールを追い、
リングに入れる競技に夢中になった。

もし僕がバスケをやっていなかったら、
あの時"早まった行動"をしていた自信がある。

もし生き残っても、
バスケができなくなるようなハンディが
残っていたかもしれない。

バスケは僕を鬱病から救い出し、
この世に繋ぎ止めてくれた。

だから僕は
"バスケが上手くなりたい欲"が燃え尽きるその日まで、
バスケへの片思いを続けるつもりだ。




⇒他記事
【うつ病経験】”生きている”と、”死んでいない”は違う。

【短編小説】『声援は 補欠選手の 悲鳴なり』全5話


⇒参考書籍







2024年11月11日

【Give & Take】『Give -相手に何をあげられるだろう?-』

僕は年収や社会的地位が必要なものを
相手にあげることが難しい。

ストレス耐性の低さから
何度も精神を壊してきた。

バリバリ働いてたくさん稼ぐどころか、
週5日8時間働くことすらできずに
ミニマリスト生活を選んだ。


今でこそ立ち直ったが、
一度削れて短くなったライフゲージが
元の長さに戻ることはなかった。

「そんな"何も持たない自分"でも、
 ご縁がある人に何かをあげられるだろうか?」


未だに答えはわからないが、
その1つは「精神的な充足」だと思う。

話を真剣に聞くこと、
少しでも心の支えになること、
笑顔になれること。

この身1つでできるのはそれくらいだ。

かつて僕が孤独のどん底にいた時、
寄り添ってくれた人がいた。

僕の近況を伝えると、
その人は自分のことのように泣いた。


その人は若年性がんサバイバーで、
僕より遥かにキツいであろう人生を
精一杯笑って生きていた。

僕はその人からモノでもお金でもなく
"人生の救い"をもらった。


資本主義社会では、僕は弱者だ。

あるのは弱者として感じてきた痛みや挫折と、
そこから立ち直った経験。

もしそれが誰かの役に立つなら
喜んでGiveしたい。

きっとそれが、
あの時の僕に寄り添ってくれた人への
恩返しにもなるから。



⇒他記事
【短編小説】『絵空想(エソラオモイ)』(1話完結)

【離婚からの立ち直り】『心の痛みの治癒期間を終え、再出発』

⇒参考書籍








2024年11月10日

【短編小説】『涙を包むラベンダー』(1話完結)

【MMD】Novel Lavender OUT1Small1.png

【MMD】Novel Lavender Character1Small1.png

<登場人物>
夜野 逢月姫(よの あづき)
 ♀26歳、会社員
ーーーーーーーーーーーーーーー

【1人で歩いていけるから】



逢月姫
「わぁ…強烈なラベンダーの香り…!」


7月某日、
北海道中富良野町のラベンダー畑。


私、夜野 逢月姫は、
観光バスから降りた途端
ラベンダーの香りに全身を包まれた。

気温は32℃。
北国の短い真夏日、
私は汗だくになりながら園内へ歩みを進めた。

平地の畑には、
赤、白、ピンク、オレンジ、
鮮やかなマリーゴールドのじゅうたん。

そして少し目線を上げると、
急斜面を覆う畑は紫に染まっていた。

逢月姫
「満開のラベンダー…香水とぜんぜん違う。」
「くらくらする…。」


ラベンダーはミントの爽やかさと、
フルーツの甘さが混じった独特な香り。

私はそんな香りに立ちくらみしながら、
ほろ酔いの心地良さを感じた。

逢月姫
「満開のラベンダー、3度目でやっと見れたよ?」
「あなたにも見せたかったな…。」


汗とは違うしずくが、私の頬を伝って落ちた。

1つ…2つ……3つ……。

【MMD】Novel Lavender Episode1Namida1.2Small1.2.png

やがてしずくは細い流れになり、
私の眼を赤く染めた。

逢月姫
「…ごめんね…傷つけたよね…?」
「…私…どうしてあなたを”試すようなマネ”を…。」


ポロ、ポロ、

右手をぎゅっと握ってみても、
彼の手を感じることはもうできなかった。

『失恋』の痛みは止めどない涙となって
ラベンダーの香りに溶けていった。



数年前の8月下旬。

私が好きだったドラマに
森の中のカフェが登場した。

都会の喧騒に疲れていたことも手伝って、
私はカフェの素朴な佇まいに魅了された。

ロケ地を調べてみると、

逢月姫
「北海道…富良野?」
「富良野といえば…ラベンダー?!」


私は彼に無理を言った。

逢月姫
「お願い!聖地巡礼に行きたいの。」
「旅費は私が出すから!」


当時の私はペーパードライバーで、
レンタカーの運転をほとんど彼に任せてしまった。

聖地のカフェは、
ドラマから想像する以上に
ゆっくりと時間が流れていた。

ガラス張りのラウンジから
木々のざわめきを眺めていると、
まるで森と一体になったような気がした。

【MMD】Novel Lavender Episode1Cafe1Small1.png

逢月姫
「このまま白雪姫のように眠ってしまいたい。」
「そして彼のキスで…。」


なんて妄想を話して、彼と笑い合ったっけ。

カフェで素敵な時間を過ごしてから、
隣町の中富良野町まで足を伸ばした。

けれど、
私はラベンダーの収穫時期を調べ忘れていた。


残念ながら畑はほとんど土色。
唐突に行ったから仕方ないよね。



それから1年後の8月中旬。

私は彼の誕生日に、
彼が『また行きたい』と言っていた
夏の北海道旅行を贈った。

今回は私がレンタカーを運転すると申し出た。
そのためにペーパードライバーを卒業した。

北海道は信じられないくらい広い。
まっすぐな道と、広大な田畑がどこまでも続く。

だからとっても眠くなる。
彼の気遣いで、疲れたら交代することにした。

2人で旅の計画を練っていた時、
彼が『去年のリベンジにラベンダーを見よう』と言った。

そこで、旭川でラーメンと旭山動物園に癒されてから、
中富良野町にも立ち寄ることにした。

私は彼に最高のプレゼントをすると
意気込んでいたのだけれど、

逢月姫
「痛っ…よりによってこんな時にケガ…。」


私は出発の数週間前に足をくじいてしまい、
松葉杖をつきながらの旅行になった。


結局、今回も彼に
レンタカーの運転を任せてしまった。

逢月姫
「ごめんね…助けてもらってばかり…で?!」


私が彼へのお詫びを言い終える前に、
彼の人差し指が私の唇をふさいだ。


『ありがとう逢月姫、最高のプレゼントをくれて。』

逢月姫
「〜〜///(照)」


旭山動物園は
ふもとの入口から奥へ登っていく地形。

松葉杖で歩き回るのは大変だろうと、
彼は入園する時に車椅子を借りてくれた。

背中越しに聞こえる彼の優しい声が、
心地よい安心感をくれた。

逢月姫
(バカ…気づいてるんだからね…?)
(私に気を遣わせないように汗を拭う仕草…。)




今年のラベンダーのじゅうたんには、
ところどころに土色が混じっていた。

8月に入ると少しずつ収穫されていくので、
満開とはいかなかった。

平地のマリーゴールド畑を通って、
斜面のラベンダー畑の中を一歩一歩進んだ。

逢月姫
「ハァ…ハァ…もう少しで頂上…!」


『逢月姫、大丈夫?』

逢月姫
「大丈夫…!」
「上からの景色…一緒に見たいの!」


私は彼と松葉杖に支えられながら
畑の斜面を登った。

ラベンダー畑の頂上へたどり着き、
ふもとを振り返ると、

逢月姫
「うわぁ………………!」


足元に紫のじゅうたん。
その中に佇む1本の大木。

その奥に広大な田畑。
すべてを包み込む青空。

私も彼も、感動のあまり言葉を失った。

ぎゅっ

逢月姫
(もう少し…このままでいさせて…?)


【MMD】Novel Lavender Episode1 Tsue1Small1.png

私は心だけでささやきながら、
彼の腕にしがみついた。

彼の優しさとラベンダーの香りに包まれ、
幸せな時間だった。

この時の私は、
そんな幸せがずっと続くと思っていた…。




さらに1年後。

彼は勤務先で部署異動があり、
出張が多くなった。

お付き合いも長くなり、
多忙な時期も重なって、
2人でゆっくりと旅行することは減った。

それでも彼は、
出張から帰って来くると、
以前と変わらず2人の時間を作ってくれた。

特別なイベントは減ったけれど、
私は彼と一緒にいられて幸せだった。

…いつからだろう?

「ありがとう」が
「当たり前」になってしまったのは。


彼の優しさと、
包み込むような安心感を、
「恋人としてはいい人止まりで物足りない」
なんて勘違いしてしまったのは…。



ある雨の日の夕方。

逢月姫
「私…もうあなたと付き合いたくない…。」


私は彼が出張へ行く直前の駅で、
血迷った言葉を口にした。

彼はもともと
恋愛のドキドキやロマンスを
感じさせるような人ではなかった。

奥手で、女性慣れしていなくて、
でもそっと寄り添ってくれて、
安心感をくれる、そんな人。

私はいつしか、
彼がくれる”穏やかな幸せ”を
「ドキドキしない、ロマンスが足りない」
と捉えるようになっていた。

さっきの言葉は本心じゃない。
別れたかったわけじゃないの…。

そう、魔が差しただけ。

恋愛のちょっとしたスパイスが
欲しかっただけなの…。

【MMD】Novel Lavender Episode1 Wakare1Small1.png

私の愚かな「試し行為」の後、
彼からもらったペンダントにヒビが入っていた。


降り続く雨は涙をかき消し、
紅潮した私の頬を濡らした。



彼との別れから1年。

後悔の涙を枯らし終えた私は、
思い出のラベンダー畑への1人旅を決意した。

赤、白、ピンク、オレンジ、
鮮やかなマリーゴールドのじゅうたんを抜け、
紫の急斜面へ歩みを進めた。

ラベンダー畑の頂上へたどり着き、
ふもとを振り返ると、

逢月姫
「……わぁ………………!」


【MMD】Novel Lavender Episode1 Mankai1Small1.png

どこにも土色のない、
満開のラベンダーのじゅうたん。

緑が鮮やかな1本の大木。
地平線の彼方まで続く田畑。
雲1つない、原色の夏空。

逢月姫
「(グスン)…彼と一緒に見たかった…な…。」


枯らし終えたはずの涙は、
私の唇に悲しみと笑みを連れて来た。

逢月姫
「…ありがと…。」
「こんな素晴らしい景色を教えてくれて…。


私の隣には誰もいない。
愚かに手放した幸せはもう戻らない。

それでも私は、彼と出逢わなければ
人生でここへ来る選択をしなかった。

失恋の痛みも過ちも、後悔の涙も、
穏やかな幸せも知ることはなかった。

逢月姫
「…いけない…日焼け止めを塗り忘れた。」


私が着けていたペンダントを外すと、
首元に細い跡が白く浮かび上がった。

これは彼との別れの日に
割れてしまったペンダント。

…いいの。
これを着けるのは今日で最後にする。


今度こそ私は、
松葉杖と彼の支えがなくても、



1人で歩いていけるから。

【MMD】Novel Lavender Episode1 Good-Bye1Small1.png

ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
『どんな家路で見る月も』(1話完結)

『割れた翠玉の光』(1話完結)

『無表情の仮面』全11話

検索
プロフィール
理琉(ワタル)さんの画像
理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
プロフィール
最新記事
カテゴリーアーカイブ
×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。