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2024年01月01日

【短編小説】『白だしうどんは涙色』1

【MMD】Novel Udon Namida SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Udon Namida CharacterSmall1.png

<登場人物>
終夜 彩雪(しゅうや あゆき)
 主人公、19歳
 地元の北国を離れ、
 西方の大学へ進学した1年生

山口 光夢(やまぐち みむ)
 彩雪の同級生、地元出身の19歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第1話:かっこ悪い希望】



------------------------------------------
 きっとふたりの出逢いも
 遠い日の奇跡だったから

 (DEEN 『夢であるように』)
------------------------------------------



彩雪
「今日もうどん美味しかった!」
「よし、練習行きますか!」


とある島国の西端。

のどかな田園風景の中に、
僕、終夜 彩雪が通う大学のキャンパスがある。

これから僕が所属する男子バスケ部の練習だ。
大学近くのうどん屋さんを出て、体育館へ向かう。

いつもここの「かけうどん大盛り・300円」を食べて、
キツイ練習のエネルギー源にしている。

お金があまりない学生にとって、
美味しいうどんをお腹いっぱい食べられるお店は
とてもありがたい存在だ。



僕は人生をリセットするため、
地元の北国からはるばる西方へ進学してきた。

学校ではいじめられ、
ずっと続けてきたバスケでは結果を出せず、
何もかもがイヤになった。

「誰も自分のことを知らない場所で人生をやり直す」
そう誓い、意気揚々と引っ越してきた。

新生活は
想像を超えるカルチャーショックの連続だった。


方言が違い過ぎて、会話が成り立たない。

瓦屋根の家が立ち並ぶ風景を見て、
江戸時代へタイムスリップしたと勘違いする。

入学式の季節に、もう桜が散っている。
暑い、雪が降らない…。

など色々あるが、
何よりショックを受けたのはうどんの違い。



なんと、だしが白い!
しかも、

彩雪
「かつお節の香り…だと…?!」




うどんの違いは「関東風・関西風」と呼ばれるそうだ。
僕が知っていたのは、濃い色のだしのうどんだけ。

初めて白いうどんと対峙した僕は、
ショックに震えながらも、その美味しさの虜になった。


お腹に優しくて、腹持ちもいい。
白だしうどんは、スポーツに打ち込む学生の救世主だった。


ーー


僕は美味しいうどんを燃料に、バスケに打ち込んだ。
が、やはり現実は残酷だった。

どれだけ練習しても、
僕の上達速度はカメより遅かった。
同じ1年生にも置いていかれるばかり。

下級生から主力になる者もいる中で、
僕は試合に出るどころかベンチ入りすら叶わない。

運動部の練習は概してキツイ。
数ヶ月もすれば半数以上が辞めている。

僕はキツイ練習を生き残ったが、
その頃には試合での活躍を諦めかけていた。



今までの僕ならここで腐っていただろうが、今回は違う。
部活前に「美味しいうどん」が待っている。

なぜかわからないが、白だしうどんを食べれば、
いつまでも走れる気がするんだ。


どうせバスケのスキルはあいつらに追いつけない。
待っているのは4年間、試合に出られずに終わる未来…。

だとしても、一矢報いるならここだ。
チームNo.1のスタミナと走力を身に付けて、
主力の連中に、

「あいつ下手だけど、走りまくるから消耗する」
「あいつだけはマークしたくない」


そう思わせられれば上等だ!



半ばヤケになった僕は、
劣等感を力に変えてコートを走り倒した。

僕はバスケットボールを扱う
スキルモンスターにはなれなかった。

代わりに、サッカー選手に匹敵する
スタミナモンスターになっていった。

支えてくれたのはもちろん、
練習前に食べる「かけうどん大盛り・300円」だ。




ーーーーー



白だしうどんを心の支えにしながら、
異国での大学生活が半年ほど過ぎた。

光夢
『彩雪!今日も練習おつかれさま!』


彩雪
「光夢も練習おつかれ!」


僕は部活が終わった後、大学の駐輪場で
女子バスケ部1年生の山口 光夢と会うようになっていた。

彼女も僕と同じように、
女子バスケ部内で活躍できずに苦しんでいた。

光夢は地元出身で、実家から大学に通っていた。
親が厳しいらしく、大学生になっても門限があるそうだ。

だから練習が終わってから帰宅までの間、駐輪場で話す。
それが僕らのささやかなデートで、幸せなひとときだった。



僕は主力でも下級生エースでもない。
最下層で泥水をすすり、もがいているだけの補欠選手。

そんな自分はかっこ悪くて、
好かれる要素などないと卑下していた。
なのに、どうして光夢は僕に興味を持ってくれたのか?

光夢
『彩雪はいつも、誰よりも走っている。』
『朝、誰より早く来てコートのモップ掛けしている。』
『毎晩、遅くまで居残り練習しているよね。』


彩雪
「それはまぁ…。」
「けど、結果が出ていないから。」


光夢
『そこだよ!彩雪の素敵なところ。』


彩雪
「そこって、どこ?」


光夢
『努力は平気で裏切るよ。』
『そして報われなければ心が折れてしまう。』
『なのに、彩雪は全然折れないでしょ?』


彩雪
「どうだろう…?」
「折れることに慣れ過ぎて、マヒしているだけかも。」


光夢
『動機が後ろ向きなのは何となくわかるよ。』
『それでも、彩雪は足を動かし続けているでしょ?』
『その姿を見て、私は勇気をもらったんだよ。』
『私も頑張ろうって!』


彩雪
「…そっか。こんな姿でも、役に立てて嬉しいな。」




光夢
『それで、練習中に目で追うようになってね…。』
『その……好きになったの…///(照)』




僕が遥か西方の大学まで、逃げてきたようなものだ。

スポーツでも人付き合いでも失敗し、
地元でそれを修復する気概もなかった。

当然、異性との交際経験はゼロ。

そんな、1軍男子とかけ離れた自分を
好いてくれる人がいるなんて信じられなかった。

灰色だった僕の心が、彩りに満ちていくのを感じた。
このあたたかさをくれた光夢を、大切にすると誓った。




【第2話(最終話):あなたが笑ってくれるなら】へ続く

⇒この小説のPV

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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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