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2024年01月02日

【短編小説】『白だしうどんは涙色』2 -最終話

【MMD】Novel Udon Namida SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Udon Namida CharacterSmall1.png

【第1話:かっこ悪い希望】からの続き


<登場人物>
終夜 彩雪(しゅうや あゆき)
 主人公、19歳
 地元の北国を離れ、
 西方の大学へ進学した1年生

山口 光夢(やまぐち みむ)
 彩雪の同級生、地元出身の19歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第2話:あなたが笑ってくれるなら】



光夢
『今さらだけど、不思議に思うことを聞いてもいい?』


いつもの部活終わりの駐輪場で、
光夢は目を丸くしながら僕へ尋ねた。

光夢
『彩雪はどうしてあんなに走れるの?』
『レギュラーでさえヘトヘトなのに1人で平然として。』
『疲れないの?』


隣で練習している女子バスケ部でも、
話題になっていたらしい。

過酷な走り込みやフットワーク練習後も、
ほとんど息を乱さない補欠選手の話題。

彩雪
「実は、こっちに来て”白だしうどん”が好きになって…。」


僕は光夢に、
練習前に食べているかけうどんのことを話した。

東西のうどんの違いにカルチャーショックを受けたことや、
僕のタフネスを支える源であることも。

光夢
『えぇ?!彩雪の地元のうどんって白くないの?!』
『そんなうどんもあるんだね…!』


地元から出たことがない光夢は、面食らったようだ。

光夢
『大学近くのうどん屋さん?』
『私も一緒に行っていい?練習前に。』


彩雪
「一緒に行けたら嬉しいけど、予定とか親とか大丈夫?」


光夢
『大丈夫!何とでもなるって!』
『彩雪と一緒にうどん食べて、スタミナ付けて…。』
『私もレギュラー目指して走るんだ!!』


それ以来、
僕たちは定期的に2人でうどん屋さんへ通った。

一般のカップルとは少し違う、
変則的なお食事デートでもあった。



僕は、僕の劣等感のために走っていた。

「どうせ試合に出られない」

投げやりで、
今にも折れそうな心を慰めるために
自分を追い込んでいた。

もしあのままだったら、
僕は心が捻じ曲がった人間として、
悲惨な人生を送っていただろう。

そんな救えない自分を、たった1人、
肯定的に見てくれる存在がいた。

底辺でもがく補欠選手の姿に
「勇気をもらった」と言ってくれた…。

それに気づいた時から、
僕はもう僕だけのために走っていなかった。


光夢が笑ってくれるなら、
前を向くための希望になれるなら、
誰よりも走って走って、走り抜いてやる!

異国の地で出逢った、美味しいうどんを食べて!



ーーーーー



彩雪
『卒業して以来か…懐かしいなぁ。』


大学卒業後、地元へ帰って数年後。
僕は長期休暇を取り、1人旅で母校がある街へ戻ってきた。

懐かしいうどん屋さんは…?よかった、まだあった。
僕は大学時代のように、かけうどん大盛りを注文した。

330円。
やっぱり値上げの波が来ていた。

僕は社会人になってもバスケを続けていた。
練習前にうどんを食べる習慣は変わっていない。

うどんを食べると力がみなぎってくる。

周りがバテバテになっても、
コート上でただ1人、無限に走っていられる。

最近、僕の地元にも関西風のうどん屋さんが増えた。
当時カルチャーショックを受けたうどんが
北国でも食べられるのは嬉しい。



彩雪
「結局、大学でも活躍できなかったなぁ…。』
『1度でもベンチ入りしてみたかった…。』


白だし、かつお節の香り。
うどんを食べるたびに、当時を思い出す。

悲しみ、悔しさ、そして光夢への罪悪感。

僕は一体、どこで間違えたんだろう?
なぜ…光夢の気持ちに気づけなかったんだろう…?


後悔は止まない。
胸を引きちぎりたい衝動に駆られる。

どれだけ後悔しても、取り返すことはできない。
失った時間も、人の気持ちも。



それでも僕はあの時、
間違いなく誰かのために懸命になれた。


お金を稼ぐとか、相手に尽くすとか、
実用的なことじゃない。ただの部活。

それでも「自分は誰かの希望になれる」

それを教えてくれた光夢に、もう1度逢いたい。
ありがとうと伝えたい。

こうして光夢の地元へ来ているのに、
決して叶わない。



彩雪
「…未練がましい…な…。」




透き通った白だしが一瞬、涙の色に見えた。



ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』全6話

【短編小説】『モノクローム保育園』全5話

【短編小説】『どんな家路で見る月も』1話完結

⇒この小説のPV

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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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