2023年12月26日
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』6 -最終話-
⇒【第5話:過去の傷の補填に生きる】からの続き
<登場人物>
◎アネーシャ・クロニス
主人公、23歳
お人好しで頼みごとを断るのが苦手
人に安心感を与える”不思議な瞳”を持ち、
聞き上手として周囲から頼られている
反面、都合よい”愚痴のゴミ箱”にされることも多い
◎マイア・シリル
アネーシャの幼馴染で親友、23歳
おしゃべり好きで社交的
気弱なアネーシャを支える姉の一面もあるが、
アネーシャを愚痴の聞き役にしている節もある
◎トーラ・アルギロス
「タイムバンク」の社員
人々から余分な時間を預り、”時間利子”を付けて返すというが…?
◎アストレイア
「タイムバンク」の頭取、トーラの上司
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第6話:タイムバンクが不要になるまで】
アストレイア
『かつて、人間と神は日常的に交流していました。』
『世界には争いも悲しみも、妬みもありませんでした。』
『これが”金の時代”よ。』
アネーシャ
「神様と人間が交流なんて、すごい時代ですね。」
アストレイア
『今の人間には信じられないかもね。』
『やがて人間は作物を作り、富を蓄えるようになりました。』
『貧富の格差が生まれたけど、まだ人間は穏やかだったの。』
『これが”銀の時代”。少しずつ神と人間の距離ができた頃。』
アネーシャ
「格差が…イヤな予感がします…。」
アストレイア
『その通りよ。待っていたのは”青銅の時代”。』
『人間は強欲になり、憎み合い、富を奪い合うようになったの…。』
アネーシャ
「人間は何千年も前から、同じことの繰り返し…。」
アストレイア
『残念ながらそうね…。』
『神々はそんな人間に失望し…1人の人間に方舟を作らせたの。』
『争い続ける人間界を”リセット”するために。』
『神話で聞いたことがあるでしょう?』
アネーシャ
「あぁ…すべて流しちゃったんですね…。」
アストレイア
『あの時、私はそれを止められなかった。』
『けれど、神々は自分たちでリセットしたくせに…。』
『その後も争い続ける人間を見捨て、天界へ去ってしまった…!』
アネーシャ
「じゃあ人間は、とっくに神様に見放されているんですね…。」
アストレイア
『そうね…だけど私は人間を信じたかった。』
『だから、あの時の罪滅ぼしも兼ねて残ることにしたの。』
アネーシャ
「神様が罪滅ぼしだなんて…。」
アストレイア
『私は、神だから何でも許されるなんて思わない。』
『人間を一緒くたに悪と決めつけて滅ぼすのは違うわ。』
『私たち神だって、人間の信仰がなければ消えてしまうの。』
アネーシャ
「…私、間違って生きてきたのかな…。」
アストレイア
『そんなことないわ。』
『あなたは自省したり、他人を思いやったりできる。』
『ありがとうアネーシャ…私、やっぱり人間を信じるわ。』
『あなたみたいな人間がたくさんいるんだって。』
アネーシャ
「…お礼を言うのはこっちです。」
「私たちは時間が無限にあると勘違いして生きていました。」
「人間を見捨てずにいてくれて、ありがとうございます!」
アストレイア
『…お礼はトーラたち、タイムバンクの社員に言って?』
『私のわがままに付き合って、狭間の世界に残ってくれたの。』
アネーシャ
「トーラ…ありがとう!」
「あの時は誤解しちゃってごめんなさい!」
トーラ
『…私も、神々の強引なやり方は気に食わなかっただけです。』
『ですが、私は裏切り者で本当によかったと思います。』
アストレイア
『クスッ…そうね、私たちは神の裏切り者ね。』
『見ての通り、神って意外と頑固で、人間と変わらないのよ?』
アネーシャ
「そうみたいですね(笑)」
「神様って全知全能で完璧なイメージでした。」
アストレイア
『そんなことないわ。今回みたいにミスだってするの。』
トーラ
『さすがに今回はヒヤヒヤしましたよ…。』
『アネーシャさんに出逢えなかったらどうなっていたか(汗)』
アストレイア
『うふふ、トーラ、これからもよろしくね?』
トーラ
『…わかっていますとも。』
『ですが、ほどほどにしてくださいね?』
『今回の時間利子設定は高過ぎます。』
『尻拭いするこちらの身にもなってください。』
アストレイア
『善処します///(照)』
アネーシャ
「神様って、意外と親しみやすいんですね…。」
アストレイア
『でしょう?(ニコリ)』
トーラ
『…アストレイア様、名残惜しいのは承知ですが、そろそろ。』
アストレイア
『そうね、ごめんなさい。』
『アネーシャを引き止めてしまって。』
アネーシャ
「とんでもないです!」
「神様…銀行の頭取とお話できて楽しかったです!」
アストレイア
『やっぱり、あなたに頼んでよかった…。』
『アネーシャ、どうか”自分の人生”を生きてくださいね?』
『私たちタイムバンクが見守っているから。』
アネーシャ
「…はいッ!」
「私、今と未来のために生きてみます。」
「マイアも、みんなも大切にしながら。」
アストレイア
『…(ニコリ)…それじゃトーラ、案内をよろしくね?』
トーラ
『お任せください。アネーシャさん、こちらです。』
ーーーーー
空が…青い。
ちょっと行ってきただけなのに、何だか懐かしい。
不思議な体験だったなぁ。
アネーシャ
「ねぇトーラ、私はどれくらい狭間の世界にいたの?」
トーラ
『そうですね…人間界で換算して半月から1ヶ月ほど。』
アネーシャ
「そっか…行方不明の騒ぎになるって、そういうことね?」
トーラ
『はい、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。』
アネーシャ
「ううん、スッキリした!」
「会社に何て言い訳しよっかなぁ。」
「それより、マイアに逢いたいな。」
「今度こそ、私が愚痴ってやろうかな!」
トーラ
『その…本当に、ありがとうございます。』
『アストレイア様と、私たちを救ってくださって。』
アネーシャ
「こちらこそ、ありがとう。」
「おかげで私、今と未来に生きられそうだよ!」
トーラ
『(ニコリ)…これからも、タイムバンクをお引き立てください。』
トーラは満面の笑みを讃えながら、
青空へ消えていった。
マイア
『アネーシャ!』
ふと、背後から聞き慣れた声がした。
アネーシャ
「マイア…。」
マイア
『よかった…!生きてた!!』
『もう逢えないかと思った……うわあああああん…!』
アネーシャ
「ちょッ…!急に抱きついてどうしたの?!///(照)」
マイア
『ずっと連絡付かなくて…!』
『行方不明ってニュースで見て…!!』
『もう!心配させないでよバカーッ!』
ああそっか。
私にとっては数時間だけど、
人間界では”半月から1ヶ月”だもんね。
マイア
『ぐすッ…アネーシャ、今まで本当にごめんね!』
『私、アネーシャに甘え過ぎていた…!』
『今朝、不思議な夢を見たの…。』
アネーシャ
「夢?」
マイア
『うん、幼い頃、お母さんに話を聞いてもらえなかった夢…。』
『そこでしゃぼん玉がたくさん出てきて…。』
『アネーシャが現れて、抱きしめてくれたの!』
それ、私がタイムバンクで
マイアの時間貯金箱を開けた時かな。
マイアの夢に現れたなんてね。
マイア
『それで、ようやく気づいたの。』
『私、アネーシャを”お母さん代わり”にして甘えていたって…!』
過去の傷の補填、親のカウンセリングの人生。
アストレイアが言っていた通りだ。
マイア
『これからは私も成長する!』
『アネーシャみたいに”聞く力”を付ける!』
『だからお願い!見捨てないで……!』
アネーシャ
「見捨てるわけないよ。」
「大切な幼馴染で、親友でしょ?」
「私も、少しずつ自己主張できるようになるよ。」
マイア
『…もう…その優しい目で見つめないでよ…。』
『また甘えたくなっちゃうじゃない…。』
アネーシャ
「私の目?確かに、神様に呼ばれるくらいだから…。」
マイア
『神様…?』
『ちょっとアネーシャ!今までどこへ行っていたの…?』
アネーシャ
「あ…口が滑った…(汗)」
マイア
『聞かせてよ、飲みながら!』
『本当だよ?私、”聞けるようになる”から。』
アネーシャ
「ふふッ、まだ日が高いのに?」
マイア
『今日はいいの!アネーシャが無事だった祝い酒!』
アネーシャ
「よーし!行くか!」
「肴は”タイムバンク本社の話”ね!」
ーー
アストレイア
『……うふふ、楽しそうね。』
トーラ
『よろしいんですか?』
『アネーシャさんがマイアさんへ口外しても。』
アストレイア
『それは自由よ。』
『”大切な人との今”を大事にできるなら、そんな肴もいいでしょう?』
トーラ
『…無粋な質問をしました。』
アストレイア
『トーラのそういう真面目なところがいいわね。』
『今度、2人をここへ呼びましょう。』
『天界のお酒、お口に合うかな?』
トーラ
『まったく…我々の恩人とはいえ気に入り過ぎですよ。』
『諸々、手配するこちらの身にもなってくださいね?』
『仮にもあなたは神なんですから。』
アストレイア
『いいじゃないの。』
『自分の時間を大切に生きる人間を見られる。』
『それは神として最高の幸せよ?』
トーラ
『…ええ…幸せです。』
『アストレイア様はこれからも信じるんですよね?』
『”人間にタイムバンクが不要になる未来”を。』
アストレイア
『もちろんよ。私はここに残ります。』
『タイムバンクが出しゃばる必要がなくなるまで…ね?』
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『モノクローム保育園』全5話
【短編小説】『黒い羊と無菌狂』全2話
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⇒参考書籍
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