2023年10月03日
【短編小説】『黒い羊と無菌狂』1
<登場人物>
・風木 美青音(かざき みおね)
主人公、23歳
地元の田舎町を離れ、都会で就職して2年目
幼馴染の万優(まゆ)たちと、地元のお祭りへ向かうが…?
・外川 万優(とがわ まゆ)
美青音の幼馴染、23歳
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本当に怖いものは自然災害か、
見えないウィルスか。
それとも「ニンゲンの狂気」か。
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【第1話:黒い羊を狩るゲーム】
美青音
「んん…よく寝た…。」
ふわり。
やさしい風が草をなでる匂いで、
私は昼寝から目覚める。
ここは私の地元。
都会からローカル線を乗り継いで2時間の田舎町。
今日は地元のお祭りへ行く。
数年ぶりの帰省を存分に楽しもう。
幼馴染
『あー!やっぱりここにいた!』
『あんた、また草むらで昼寝?』
『ほんと好きだよね。』
3人の幼馴染が私を迎えに来る。
私に声をかけたのは、
1番仲の良かった外川 万優(とがわ まゆ)。
町に1つだけの小学校から高校まで、
ずっと一緒に過ごしてきた。
今はみんな地元を離れていて、
久しぶりに顔を合わせる。
万優
『早く行こ!お祭り!』
子どもの頃から慣れ親しんだお祭り。
しばらく離れていたから、とても新鮮に感じる。
それはみんなも同じみたい。
初めて行くようにわくわくしている。
ーー
互いの近況報告をしながら、
いつもの公園への道を歩く。
しばらくすると、
普段の静けさとは打って変わって
賑わうお祭り会場が見えてくる。
公園の中央には大きなステージがある。
毎年、歌手や芸人さんが来て盛り上げてくれる。
美青音
「今年はどんなイベントか知ってる?」
万優
『”リアル人狼ゲーム”らしいよ。』
美青音
「リアル人狼ゲーム?」
万優
『会場に紛れる人狼を突き止めるんだってさ!』
美青音
「へぇ、おもしろそう!」
テーブルで議論を重ねて、お互いの矛盾を見つけて…。
ではなく、それを会場全体でやるらしい。
自分たちで動き回ってヒントを探しながら。
楽しみ!
ーーーーー
お祭り会場に着いた私たちはしばらくの間、
食べ歩きを楽しむ。
地元に残った旧友や、
懐かしい人たちとの昔話に花が咲く。
そうこうしているうちに、
公園中央のステージがひときわ盛り上がる。
MCの女性がステージへ上がり、
マイクを手に取る。
美青音
「わぁ……綺麗な人…!」
モデルさんのような長身の女性が、
会場中の視線を釘付けにする。
同性の私でも見惚れてしまう。
MCの女性
『皆さーん!楽しんでますかー?!』
透き通った、力強い声が響く。
リアル人狼ゲームってどんな感じだろう。
私たちは群衆の後方から見守る。
ーー
彼女の軽快なトークに魅せられること数分。
ステージ左右からスタッフさんが3名ずつ登場する。
1人1人、
ハンドドライヤーのような器具を握っている。
舞台袖から”準備OK”の合図が送られると、
MCの女性がひときわ明るい声色で叫ぶ。
MCの女性
『それでは皆さん!』
『リアル人狼ゲームのスタートです!』
いよいよだ。
あれ?役職が振り分けられていないけど、
私って村人?人狼?
そっか、お客さんはみんな村人で、
人狼に扮したスタッフさんを見つけるのかな。
などと1人で納得していた矢先、
MCの女性
『準備はいいですかー?!』
『P〇R検査を始めますよー!』
美青音
「……は……?」
ワァァァァァーーーー!!!
MCの女性の言葉に、
ステージに集まった人たちは熱狂する。
まるでライブのスタートを待ちきれないみたいに。
美青音
「…は…?…え…?!PC〇検査?!」
「どこに盛り上がる要素があるの?!」
隣を見ると、
万優も他の2人も歓喜に沸いている。
誰ひとり戸惑っている者はいない。
私を除いて…。
MCの女性
『いきますよー?!』
『3!2!1…!』
彼女のカウントダウンに合わせて、
ステージ上のスタッフさんが
手にした器具を私たちに向けて構える。
美青音
「ちょっと…!何なのこれ?!」
「新年のカウントダウンライブ?!」
私は謎の熱狂に困惑する。
考えるヒマもなくカウントダウンが0になる。
それと同時に
スタッフさんが手にした器具のスイッチを入れる。
紫色の煙が勢い良く吹き出し、
ステージ前の人たちを覆っていく。
毒ではなさそう。
だけど私は直感で身の危険を感じる。
美青音
「この煙…浴びたらマズい…!」
私は隣で熱狂する万優の手を引く。
美青音
「ねぇ万優!何だか危なそうだよ?!」
「後ろへ行こうよ!」
万優
『離してよ!』
『今”人狼があぶり出される”の!』
『いいところだから邪魔しないで!』
バシッ
美青音
「きゃあッ!」
ドスン!
万優は私の腕を振り払い、
私を後ろへ突き飛ばす。
私は背中から地面に叩き付けられる。
それでも痛みをこらえながら叫ぶ。
美青音
「待って!一体どうしたの?!」
「そっちへ行っちゃダメ!」
私の制止もむなしく、
万優たちは煙の中へ突撃していく。
これがライブで言う”ダイブ”なら
私も加わりたいところだけど、
美青音
「痛ッ…!」
私は全身の痛みをこらえ、
やっとの思いで煙が届かない後方へ這い出る。
間もなくステージ前面が紫色の煙で覆われる。
万優たちの姿も見えなくなってしまう。
耳が痛くなるくらい大きかった歓声が
次第に小さくなっていく。
気のせいかな…?
歓声が小さくなる瞬間、
煙の中で”紅い閃光”が走ったように見える。
まるで何かを斬るような弧を描いて。
美青音
「まさか”リアル人狼ゲーム”って…。」
「強制○CR検査で”ヨウセイシャ”をあぶり出すってこと?!」
ーーーーー
少しずつ紫色の煙が晴れてくる。
あんなに騒がしかったのに、
すっかり静かになっている。
私は痛む背中をさすりながら、
煙の中に立ち尽くす人たちを眺める。
美青音
「…人が減っている…?」
気のせいかな?
紅い閃光が見えた場所には、
さっきまでいたはずの人がいない。
考えたくないけど、
万優たちが走って行った先にも。
憶測だけど、
あの紅い閃光は”ヨウセイシャ”の反応。
ゲームで言う”人狼”かもしれない。
彼らはどうなったの?自主退場?
それとも…消されたの…?
沈黙していた人たちが再び騒ぎ始める。
会場中が、ゲームが始まる高揚感に包まれる。
MCの女性
『さぁ”村人”の皆さん!人狼狩りの始まりです!』
『今日を楽しんでくださいねー!』
マイク越しに透き通った声が響く。
残った人たちは、意気込んで会場の各地へ散っていく。
まるで、何事もなかったかのように…。
⇒【第2話:ニンゲンの狂気に包まれ眠る】へ続く
⇒この小説のPV
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