2023年10月04日
【短編小説】『黒い羊と無菌狂』2 -最終話-
⇒【第1話:黒い羊を狩るゲーム】からの続き
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<登場人物>
・風木 美青音(かざき みおね)
主人公、23歳
地元の田舎町を離れ、都会で就職して2年目
幼馴染の万優(まゆ)たちと、地元のお祭りへ向かうが…?
・外川 万優(とがわ まゆ)
美青音の幼馴染、23歳
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【第2話:ニンゲンの狂気に包まれ眠る】
すでに今年のお祭りのメインイベント
”リアル人狼ゲーム”が始まっている。
もう何人か消えた気がするのに、
会場はいつもと変わらない楽しげな雰囲気。
…異常を感じているのは私だけ?
怖くなる。早く逃げた方がいい。
けど、消えた万優(まゆ)たちを放っておけない。
私は3人の幼馴染を探して会場を歩き回る。
メインストリートを歩いていると、
盛況なお祭り会場に見える。
だけど、木や岩の影に少し注意を向けると気づく。
時おり、さっきの紫色の煙が立ち上った後で、
紅い光が弧を描くこと。
そして煙が晴れる頃、
さっきまでそこにいたはずの人が消えていること。
美青音
「はぐれただけだよね…?」
「まさか消されてなんかないよね…?」
万優たちの安否がますます気になる。
私は湧き上がる不安をムリヤリ押さえつける。
スタッフの女性
『ちょっとあなた!』
『P〇R検査を受けていないでしょう?!』
突然、背後から怒気をまとった女性の声がする。
私はびっくりして立ち止まる。
長身で細身の女性がこちらを睨んでいる。
さっき、ステージで煙を出してきた
スタッフさんの1人だ。
スタッフの女性
『あなた人狼なんでしょう?』
『違うなら”検査を受けた”って言えるはず。』
彼女の決めつけるような言い方に、
私は少しムッとする。
美青音
(受けたくないです。)
(PC〇検査は強制ではありませんよね?!)
私は、喉元まで出てきたその言葉を慌てて飲み込む。
周囲の空気が、
歓喜から狂気へ変わったことに気づいたから。
紅い”人狼狩り”の狂気に。
ーー
スタッフの女性は怒気を殺気にすり替え、
私へ迫ってくる。
近くの人たちも、
彼女に呼応するように距離を詰めてくる。
美青音
(何…?この凶暴性は何なの…?)
まるで、愚王の公開処刑を
嬉々として見物する民衆のそれだ。
悪者を裁く快感が待ち遠しい、
という目をしている。
スタッフの女性
『捕らえろ!生死は問わん!』
彼女が叫ぶと、
近くの人たちが一斉に私へ飛びかかってくる。
私は間一髪で身をかわし、
空いている後方へ必死で走る。
もう幼馴染を探すどころじゃない。
会場の全員が村人で、私は狩られるべき”人狼”だから。
さっきまで全身が痛かったのに、今は何も感じない。
狂気に当てられて麻痺したのかな。
美青音
「ハァ…ハァ…もう走れない…。」
もう少しで会場を出られる。
体力の限界を迎えた私は、岩陰に身をひそめる。
せめて、もう少しだけ見つからないで…!
そんな淡い期待は見事に打ち砕かれる。
会場の男性
『いたぞ!ヨウセイシャを逃がすな!』
『あいつはバイ菌だ!消せ!!』
私はお客さんらしき男性に見つかってしまう。
彼の目が血走っていることは遠巻きにもわかる。
美青音
「逃げなきゃ…!!…ハァ…逃げ……!」
私は痙攣する足を引きずって走り出す。
逃げれば逃げるほど、
目を血走らせた追手が増えていく。
この会場は
ついさっきまで喜びに満ちていたのに、
『PC○検査を受けていない者がいる』
人間の凶暴性に火をつけるには、
こんな疑惑1つで十分だというの?
『ヨウセイシャはバイ菌だ』
『無菌を乱す輩には何をしても構わない』
狂ったメッセージが、
私の背中に何度も突き刺さる。
美青音
「もうダメ…息が……!」
全身に酸素不足のアラートが鳴り響く。
私の意識が遠のいていく。
ここで捕まったらどうなるの…?
消されちゃうの…?
こんな狂った”リアル人狼ゲーム”なんて…。
万優…みんな…どうか生きていて…。
プツン。
ーーーーー
美青音
「んん……ここは……?」
ふわり。
やさしい風が草をなでる匂いで、
私の意識が戻る。
ここは私の地元?
いつもお昼寝をしていた草原?
美青音
「私…生きているの…?」
私はお祭り会場から逃げ切ったらしい。
立ち上がろうとしても、足の感覚がない。
疲れた…ちょうどいいや。
しばらく休もう。
やはり万優たちの姿はない。
3人とも、どこへ行ってしまったんだろう…?
幼馴染を助けられなかった後悔と、
自分だけ助かった罪悪感が忍び寄ってくる。
万優
『あー!やっぱりここにいた!』
『あんた、また草むらで昼寝?』
『ほんと好きだよね。』
…?…この声は…。
美青音
「万優?!よかった!無事だったんだ!」
万優
『無事?何のこと?』
『まだ寝ぼけているの?(笑)』
変わらない笑顔がそこにある。
なぁんだ。
すべては私の夢だったというオチ?
安直だけど、心底ホッとする。
美青音
「…何でもない…(涙)」
「ともかく、また会えてよかった!」
万優
『うん、私もまた会えてよかった…!』
『だって…。』
カチャリ
万優は突然、見覚えのある器具を構える。
私へ向けられる笑顔に、どんどん影が入っていく。
美青音
「万優…?どうしたの?」
「様子がおかしいよ?」
万優
『おかしい?私は美青音に会えて嬉しいの。』
『こうやって…。』
『”ヨウセイシャ狩りの続き”ができるんだもの。』
あぁ残念、夢オチじゃなかった。
逃げる気力も残っていないし、もういいや。
私はすべてを諦め、草むらに仰向けになる。
雲は緩やかに形を変えながら流れていく。
透き通る青空がどこまでも広がっている。
すべてが「ありのまま」の世界。
狂っているのはニンゲンだけ。
万優の指が、手にした器具のスイッチに掛かる。
紫色の煙が、少しずつ私に被さってくる。
万優
『……潔いね…。』
美青音
「…うん。」
何よ…。
最後の”最期”に、
少しだけ正気を見せてくれるなんてずるいよ。
美青音
「眠くなってきた…。」
万優
『……おやすみなさい……。』
私は草の匂いとニンゲンの狂気に包まれ、
ゆっくりと目を閉じる。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『緑の砂と夢色の川』全2話
【短編小説】『反出生の青き幸』全4話
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