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2023年12月25日

【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』5

【MMD】Novel Time Bank SamuneSmall2.png
【MMD】Novel Time Bank CharacterSmall1.3.png

【第4話:タイムバンク本社へ】からの続き


<登場人物>
アネーシャ・クロニス
 主人公、23歳
 お人好しで頼みごとを断るのが苦手
 人に安心感を与える”不思議な瞳”を持ち、
 聞き上手として周囲から頼られている
 反面、都合よい”愚痴のゴミ箱”にされることも多い

マイア・シリル
 アネーシャの幼馴染で親友、23歳
 おしゃべり好きで社交的
 気弱なアネーシャを支える姉の一面もあるが、
 アネーシャを愚痴の聞き役にしている節もある

トーラ・アルギロス
 「タイムバンク」の社員
 人々から余分な時間を預り、”時間利子”を付けて返すというが…?

アストレイア
 「タイムバンク」の頭取、トーラの上司
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第5話:過去の傷の補填に生きる】



ここは、人間から時間を預かるタイムバンク本社。

時間の金庫に置かれた箱から、
ゆっくりと浮かんでくるしゃぼん玉。

そこに映る幼い頃のマイアから、
だんだんと声が聞こえてきた。



マイア
『ねぇねぇお母さん。今日ね、学校でね…。』


マイアの母
『ごめん、忙しいから後でね?』


マイア
『お母さん、見て見て!』
『これ、工作の授業で作ったの!』


マイアの母
『ふーん…。』


マイア
『お母さん…?』


マイアの母
『今はごはんを作っていて忙しいの。』
『後で見るから、いい子にしていてね?』


マイア
『…わかった。後で見てね?約束だよ?』


今日ね、こんなことがあって嬉しかったよ。

友達とケンカしちゃって、
あんなことを言われて悲しかったの。

お母さん…?聞いてよ…!
いつも忙しそう…話しかけちゃいけないの?

私、いい子にしているよ?
なのに、お母さんはいつも「後で」って言って…。

いい子でもダメなの?
私、お母さんにとって要らない子なの…?




しゃぼん玉の1つに、
幼いマイアが1人で泣いている姿が映り込んだ。
その途端、たくさんのしゃぼん玉が一気に噴き出した。

 お母さんに話したい
 私の存在を認めてほしい
 私の気持ちに共感してほしい
 いい子じゃなくても愛してほしい


まるで、抑圧されたマイアの願い。
それが部屋を埋め尽くしたかと思うと、

パン!

そしてまた、ゆっくりとしゃぼん玉が浮かんできた。
映し出されたのは中学生のマイア、高校生の、大学生の…。

そうして今の姿まで進んだところで、
また少女に戻っての繰り返し。


ーー


アネーシャ
「このしゃぼん玉は何?」


私はいつの間にか溢れた涙を拭い、
アストレイアへ尋ねた。


アストレイア
『これはマイア…あなたの親友から預かった時間よ。』


しゃぼん玉に映ったのは、マイアの生い立ちから今まで。

アネーシャ
「どうしてしゃぼん玉にマイアの過去が映ったの?」


アストレイア
『それは…説明するより見てもらいましょう。』


私は別の小部屋へ案内された。
マイアの小部屋と同じく、中央に小さな箱が置いてあった。

アストレイア
『ここはアネーシャの時間の部屋。』


アネーシャ
「私の…?私、まだ時間を預けていませんよ?』


そう、私はトーラからの時間貯蓄の話を保留したままだ。

アストレイア
『ええ、まだ預かっていないわ。』
『箱からしゃぼん玉が出ていないでしょう?』


アネーシャ
「あ…。』


アストレイア
『だから、今はしゃぼん玉の実物は見せられない。』
『代わりにあなたの記憶から再現させてもらうわ。』
『あなたから時間を預かったら、こんなしゃぼん玉が出るでしょう。』


アストレイアがそう言うと、
箱のすき間から灰色のしゃぼん玉が浮かんできた。
どんよりした”夕方の曇り空”を映したしゃぼん玉が。


ーー


ドンドンドン!

アネーシャ
「お母さん!お願い!おうちに入れてよ!」


ドアを叩くのは、幼い頃の私。
いくら叩いても、誰も出ない。

私は玄関からぐるっと回って窓の方へ。
家の中では、お母さんが変わらぬ様子で過ごしていた。

私はまた玄関へ戻り、ドアを叩いた。
やはり反応がない。

そんなことがひとしきり続いた後、
やっと家に入れてもらえた私は、

アネーシャ
「お母さん…ごめんなさい…。」


アネーシャの母
『……気をつけなさい…。』


お母さんは、私へ冷たい視線を浴びせながら背を向けた。
そして、何もなかったように過ごし始めた。



アネーシャ
「お父さんお帰りなさい!今日ね、学校でね…。」


アネーシャの父
『仕事で疲れているから後でな。』


アネーシャ
「はぁい…。」


お父さん、休めたかな?そろそろいいかな?

アネーシャ
「お父さん!さっきの話ね…!」


アネーシャの父
『眠いんだ、話しかけないでくれないか?』


アネーシャ
「お父さん…。」


私、お母さんの役に立つ!
お父さんに褒めてもらう!
そのためにたくさんお手伝いする!
そしたら私の相手してもらえるかなぁ?

私はそう思って、宿題を早めに済ませた。
お父さんのシャツを畳んだり、お母さんのお皿洗いを手伝った。

なのに、

アネーシャの母
『…次はお洗濯ね。』


アネーシャの父
『もっと良い成績を取れるだろう?』
『次は頑張りなさい。』


…私、お父さんとお母さんの役に立ったよ?
…足りなかったの?

もっと役に立てば、こっちを向いてくれるの…?


灰色のしゃぼん玉には
中学生の私、高校生、大学生の私が映っていき、

パン!

………。



ーーーーー



アストレイア
『いかが?』
『これが、あなたから預かるはずだった時間よ。』


アネーシャ
「……”過去”なんですね…?」


アストレイア
『そう、私たちは人間の”過去の時間”を預かったの。』
『だから”時間のしゃぼん玉”に映るのは、その人の過去。』


アネーシャ
「どうして過去の時間を?」
「神様なら、今や未来の時間を預かることもできるんじゃ…?」


アストレイア
『そんなことはしませんよ。』
『人間の可能性を奪うようなことは。』


アネーシャ
「人間の可能性?」


アストレイア
『私たちタイムバンクは、あなたたちに誤解を与えてしまいました。』
『人間の時間を奪うのが目的ではないか”と。』


アネーシャ
「うぅ…ごめんなさい、早合点して…。」


アストレイア
『いいえ、こちらが悪かったわ。』
『私にはそんな目的はないの。人間には…。』
『過去の傷に囚われて、貴重な人生を浪費してほしくないだけ。』


アネーシャ
「過去?心の傷?」


アストレイア
『私たちは何千年も人間を見てきました。』
『けれど、”過去の補填”のために時間を使う人間がほとんどなの。』


アネーシャ
「補填のため?」


アストレイア
『アネーシャはよく悩んでいますよね?』
『他人の愚痴のゴミ箱にされがちだと。』


アネーシャ
「はい…みんな、私には言いやすいみたい。」
「断れない私が悪いんですけど…。」


アストレイア
『そうやって他人を愚痴のゴミ箱にするのはね。』
『あなたという”親の代役”で、自分の過去の傷を慰めるためよ。』


アネーシャ
「親の代役?そういえば、マイアのしゃぼん玉で見た…。」
「私は、マイアのお母さんの代役?」


アストレイア
『そう。本人は無意識だけどね。』
『”親に満たしてもらえなかった役割を担う人”を探しているの。』


アネーシャ
「じゃあ、私が断れないのも?」


アストレイア
『嫌われたくないのは”見捨てられ不安”よ。』
『源泉はさっき見た通り、関係が希薄だった親に見捨てられる恐怖。』


アネーシャ
「…心当たりがあり過ぎて、怖いです。」




アストレイア
『人間には、他の動物より遥かに長い寿命があります。』
『なのに誰もが誰かを親代わりにして…。』

『他人から奪った時間を、過去の傷の補填にばかり使っている。』
『現在と未来のために時間を使える人間は、ほとんどいないの…。』


アネーシャ
「私もそうでした…。」
「自分の人生を始められてすらいなかった…。」


アストレイア
『そうね…極端に言うと”親をカウンセリングする人生”ね。』


アネーシャ
「じゃあ、みんながイライラし始めたのは?」
「過去の時間をたくさん預けて、傷の補填ができなくなったから?」


アストレイア
『そうよ。前世紀にも何度か時間を預かったけど、効果がなくて。』
『今回は今までで1番高い時間利子を付けたの。』
『時間の使い方を意識する人間が増えてくれると期待して。』


アネーシャ
「結果は…他人の時間を奪い合う人で溢れてしまったと…。」


アストレイア
『その通りよ。裏目に出てしまったわ。』
『迷惑をかけて本当にごめんなさい…。』




アネーシャ
「どうして私を呼んだんですか…?!」
「私だって、過去に囚われて生きていた1人ですよ?」


アストレイア
『アネーシャは、決して人を傷つけませんでした。』
『他人に時間を奪われ、どれだけ疲弊してもね。』


アネーシャ
「それは嫌われるのが怖いからです…。」
「褒められた動機じゃないですよ…?」


アストレイア
『動機はどうあれ、あなたは自分より相手の話に耳を傾けました。』
『そんな優しいあなたなら、私たちの願いを叶えてくれると思ったの。』
『”他の神々のように人間を見捨てたくない”という願いを。』


アネーシャ
「神様は人間を見捨ててしまったんですか?!」
「私は何をすればいいんですか?!」


アストレイア
『人間たちから預かった時間を、みんなへ返してほしいの。』
『そのために”時間の貯金箱”のフタを開けてほしい。』
『そうすれば元通りになるでしょう。』


アネーシャ
「真ん中にある、しゃぼん玉が出ている箱?」


アストレイア
『そう。』


アネーシャ
「小さいけど、すごく重そうですよ?!(汗)」


アストレイア
『重いわね。』
『時間に盲目な人には持ち上げられないでしょう。』


アネーシャ
「じゃあ私にも…。」


アストレイア
『大丈夫。人の心を癒してきた”聞き上手”のあなたならね。』
『まずは、大切な幼馴染の時間を返してあげて?』



ーー


私たちは、マイアの時間貯金箱がある部屋へ戻った。

アネーシャ
「私に開けられるかな…?」


時間貯金箱のフタに触れると、

…軽い…!

そのまま、箱のフタを開けた。



パァァ



時間貯金箱からしゃぼん玉が溢れ、
青い空間へ消えていった。

気のせいかな?
初めに見たしゃぼん玉は、涙のように見えた。

けど、目の前で踊るしゃぼん玉たちは、
少しあたたかい色をしていた。

これでマイアの心の傷が、
少しでも癒えてくれたらいいな。

アストレイア
『あぁ…まだ、この箱を開けられる人間がいたのね…!』
『”青銅の時代”、神々は何て愚かなことを…!』


アストレイアの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

アネーシャ
「青銅の時代?何があったんですか…?」


多くの人間が、無自覚に他人の時間を奪っていること。
そんな人間を、神々は見捨ててしまったこと。
なのに、アストレイアだけがここに残っているのはなぜ?


彼女は少しためらいながら、”神々の過ち”を話し始めた。



【第6話(最終話):タイムバンクが不要になるまで】へ続く

⇒この小説のPV

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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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