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2023年11月28日

【短編小説】『声援は 補欠選手の 悲鳴なり』1

【MMD】Novel Hoketsu SamuneSmall2.png

<登場人物>
三鼓 詠澪(みつづみ えいれ)
 主人公、17歳(背番号7)
 とある公立高校女子バスケ部の2年生
 入部以来、1度もベンチ入りできない補欠選手

石堂 満温杏(いしどう まのあ)
 詠澪と同じ高校に通う17歳(背番号6)
 女子バスケ部の2年生エース
 1年時から頭角を現し、チームの主力を担う

石堂 実温莉(いしどう みおり)
 18歳、女子バスケ部のキャプテン(背番号4)
 詠澪と満温杏の1学年上
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第1話:2階席の選手たち】



とある総合体育館では、
高校バスケットボールの地区大会が開催されていた。

この日の最終試合は16時開始。
女子チームのベスト8が激突した。

数時間後、
A・B・Cコートの試合が決着する中、
Dコートは延長戦にもつれこんでいた。

残り時間は10秒。
攻撃側のチームが1点負けていた。


コート脇では、
すでに試合が終わったコートの
両チームの選手たちが見守っていた。

キャプテンで司令塔の・石堂 実温莉は、
相手の厳しいマークに耐え、ボールをキープ。

ラストショットを
2年生エース・石堂 満温杏に託すべく、
パスコースを探し続けた。

残り時間は5秒。
司令塔は相手の一瞬のスキを突いて、
エースへボールを繋いだ。



詠澪
「満温杏ーー!決めてーー!」




私・三鼓 詠澪は、
会場2階の観客席から親友を鼓舞した。

相手の必死のディフェンスをかいくぐり、
エースが放ったシュートは…。

地上3メートル5センチのリングへ吸い込まれた。

直後、試合終了のブザーが響いた。
会場は高校生たちの歓喜と悲鳴に包まれた。

逆転シュートを決めた満温杏のもとへ、
選手たちが駆け寄った。

私は、もみくちゃにされるエースを2階席から見守った。
ベンチに入れなかった、他の”補欠選手”とともに…。



ーー


私は、9歳の時にバスケットボールに出会った。

高校バスケ部のコーチをしていた親のツテで、
プロの試合のチケットが手に入り、連れて行ってもらった。

そこで、オープニングアクトとして
小学生(ミニバスケットボール)チームの試合が行われた。


詠澪
「わぁ……かっこいい……!!」


私と同い年くらいの選手たちが、
センターコートを駆け回る姿。

あんなに高い場所にあるリングへ、
いとも簡単にボールを入れていく姿。

バスケットボール……楽しそう!
私もバスケをやってみたい!!


私は親に頼み込んで、
あの日試合をした小学生チームに入団した。

私の通う小学校から少し離れていたので、
バスで練習へ通った。

バスケは本当に楽しかった。

バスケットシューズを履いてコートに立つ瞬間。
初めてドリブルが上手くできた瞬間。
初めてシュートを決めた瞬間。

いつも、いつでも、わくわくが止まらなかった。
が…。



コーチ
『今回の大会メンバーは、以上の15名だ。』


大会のメンバー発表で、
私の名前が呼ばれることはなかった。

5年生になっても、6年生になっても、
私は補欠として会場の2階席から声援を送り続けた。


コートでは、
いつも一緒にプレーしている仲間が躍動していた。

勝敗を左右する場面で覚醒して、
頭角を現していく子をたくさん見た。

詠澪
「…悔しい…けど、仕方ないよね…。」
「私、ヘタだもん…。」


私がユニフォームをもらえたのは、
小学校も中学校も最後の大会だけ。
どちらも競った末に負け、私は出場できなかった。



ーーーーー



詠澪
「私、バスケが大好き。」
「バスケがしたいからバスケ部に入っている。」
「なのに、1番つらい日は”試合の日”なんだ…。」
「だって私は…。」

”補欠”だから………。




私は地元の公立高校へ進学した。
やっぱりバスケが好きで、女子バスケ部に入った。

私、まだ自分を諦め切れていない…。
”補欠選手の苦しみ”をイヤというほど味わってきたのに。

進学先は強豪校ではなく、スポーツ推薦もない。

だから、
「今度こそ上手くなって試合に出られるかも」
なんて、かすかに期待したのかな。



そんな私に不思議な出逢いがあった。

石堂 満温杏
同じく女子バスケ部に所属するチームメイト。

満温杏と私は出身中学校もクラスも違った。

けど入部初日に、なぜか
「まとっている空気が合う」と感じた。
それは満温杏も同じで、私たちはすぐに意気投合した。


間もなく、私は驚かされた。
満温杏はとにかくバスケが上手かった。
入部してすぐに2・3年生を唸らせるくらいに。

満温杏は身長も体格も、私と同じくらい。

飛び抜けた身体能力はない代わりに、
多彩なスキルとクレバーさで、
相手の意表を突く名人だった。

満温杏はすぐに実力を認められ、
1年生から主力に成長していった。



そんな雲の上の選手が、

満温杏
『詠澪!1on1しようよ!』
『ストレッチ、一緒にやろうよ!』


満温杏は、ペアの練習のたびに私に声をかけてくれた。

単純に仲が良かったから?
それとも私が独りぼっちにならないよう
気を使ってくれたから?

補欠の私じゃなく、
レギュラーの先輩とペアで練習した方が上達するのに…。

私は満温杏への感謝と後ろめたさが混じったまま、
日々の練習に励んだ。

詠澪
「満温杏はどこでこんなスキルを身につけたの?」


満温杏
『うーん…中学2年の時にコーチが代わってからかなぁ。』


詠澪
「途中でコーチが代わったの?」


満温杏
『うん、顧問の先生が転任になってさ。』
『新しく来た先生がとっても優しくて。』
『びくびくしないでプレーできるようになったよ。』


詠澪
「すごいね!満温杏の才能が花開したんだ!」


満温杏
『うん、私にとっては良い転機だった。』
『環境や自分を大切にしてくれる人の存在は大きいよ。』


この時の私は、
完全に他人事としてしか受け止めていなかった。

「もともと素質があって、1つのきっかけで開花した」
くらいにしか思わなかった。

せめて満温杏に見捨てられるまでは、
2人でバスケに打ち込む時間を大切にしたかった…。



【第2話:エースと補欠の1on1】へ続く

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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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