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2023年11月14日

【短編小説】『モノクローム保育園』5 -最終話-

【MMD】Novel ADHD Hoikuen SamuneSmall1.png

【第4話:お絵描き事件】からの続き
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<登場人物>
桂 水星(かつら みなせ)
 ♀主人公、22歳の保育士
 勤務先の保育園では”ミナセんせい”と呼ばれる

春原 絆奈(すのはら きずな)
 ♂5歳、保育園児
 落ち着きのなさや衝動性が強く、
 園では煙たがられている
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第5話:ミナセんせいの彩(いろ)】



翌年3月。

私は次の1年間、
系列の保育園への期限付異動を命じられた。

私は、絆奈くんの保育園最後の1年を
一緒に過ごせなくなってしまった。

これが、あの時の園長からの”警告”。
絆奈くんを初めて物置部屋から助けた時の。

「保育の世界にも派閥争いがある」
それは実習生の頃から聞いていた。

けど、雅恵先生の権力と嫉妬の強さは、
私の想像をはるかに超えていた。

私はその後も園長…いいえ、
雅恵先生に背いて絆奈くんを助けたことで、
”反乱分子”になってしまった。

私の人事が
雅恵先生の口添えだったと知るのは、
ずっと後になってから…。



最後の1年間、
絆奈くんはどんな気持ちで過ごすんだろう。


「私がいなければ」なんて思い上がりだけど、
絆奈くんは何を心の支えにできるかな…。

傷だらけの彼に、雅恵先生は何をするのかな…。

母親は来年も『我が子に限って』と、
絆奈くんの内面への無関心を続けるのかな…。

派閥
嫉妬
見栄
劣等感
プライド


大人の自己保身のツケは誰に向かうの?
居場所を奪われていくのは誰なの?

悲しみに気づかれないまま、
そっと心を閉ざしていくのは誰なの?

誰を恨めばいいの?
先生?お母さん?発達障害?
「みんなと同じ」しか認めない世界?

それとも…”悪い子”の自分……?




私は保育士として、なんて無力だろう…。

私は、幼い頃の私を
物置部屋から出してくれた保育士さんみたいになれないの?

目の前の
傷ついた子を救うことさえできないの…?

水星
「神様…もしいるならお願いを聞いて?」
「どうかこれ以上、絆奈くんの心が壊れませんように……。」




ーーーーー



5年後。

私はずっと出していた異動願いが受理され、
雅恵先生のいない別の保育園で働いていた。

憧れの保育士になって8年。
仕事は大変だし、派閥争いがないわけでもない。

それでも、前の職場よりは柔軟な考え方の人が多い。
良い人間関係と、子どもたちに囲まれる日々は幸せ。

ただ、私は何年経っても
絆奈くんのことが頭から離れなかった。


毎年”問題児”と言われる子がいた。
そんな子と関わるたびに、絆奈くんの涙を思い出した。

「私は保育士として、絆奈くんを救えなかった」
そんな罪悪感を拭えずにいた。



今日は、毎年恒例の「保育園バザー」の日。
私は運営スタッフとして忙しくしていた。

そんな折、

『ミナセんせい、久しぶり。』

男の子の声がした。

水星
「もしかして…絆奈くん?!」


そこには、10歳になった絆奈くんが立っていた。

水星
「どうして私がここにいるってわかったの?!」


絆奈
『卒園した保育園の先生に教えてもらったんだ。』
『ミナセんせいにお礼を言いたくて。』


絆奈くんは卒園後、
何度か私に会いに保育園へ来ていた。
ママに駄々をこねて、連れて来てもらったそうだ。

けど、私はもう異動していた。

雅恵先生は
私の異動先を教えてくれなかったけど、
主任保育士さんがこっそり教えてくれた。



絆奈くんは相変わらず、
悲しそうな笑顔をしていた。

けど、悲しみの中に
少しの逞しさがにじんでいた。
あのママに駄々をこねられるくらいの逞しさが。

絆奈
『ミナセんせい、あの時は本当にありがとう。』
『ミナセんせいのおかげで僕は救われた。』


水星
「そんな…私のおかげだなんて…///(照)」


絆奈
『ミナセんせいだけが僕の居場所だった。』
『ウソじゃないよ。』


水星
「そっか、それなら嬉しいな…。」
「最後の1年はどうだったの…?」
「まさか雅恵先生に…。」


絆奈
『うん、雅恵先生もママもあんな感じ。』
『けど、僕はもう大丈夫だったよ。』


水星
「…あれで…大丈夫だったの…?」


絆奈
『ミナセんせいが味方でいてくれるって信じられたから。』
『おかげで今、笑って過ごせているよ。』


絆奈くんはサラリと言った。

けど、私には見えた。
彼が”大丈夫”と笑い飛ばせるようになるまでに、
泣き明かしてきた無数の夜が。




絆奈
『それとね…ミナセんせい…。』


絆奈くんはもじもじしながら
私へ2枚の絵を差し出した。


絆奈
『この絵、ミナセんせいにもらってほしいんだ。』


水星
「この絵は…!」


1枚は、
お絵描き事件の日に貼り出されなかった白黒の絵。

『剝がされるところを見なくて済む』
絆奈くんが精一杯に強がって、静かに泣いた時の。

そしてもう1枚は、同じ構図で”鮮やかに彩られた”絵。

絆奈
『これが僕の気持ち。』
『ミナセんせい、本当にありがとう。』
『白黒だった僕の心に彩(いろ)を付けてくれて。』


水星
「こんな大切な絵、本当にもらっていいの…?」


絆奈
『もちろん!ミナセんせいにもらってほしい!』
『ダメかな…?こんな下手な絵…。』


水星
「そんなこと…ないよ!…嬉しいよ………!」




園児
『あれー?ミナセんせいどうしたのー?』


園児たちが、私に気づいて声をかけた。

私は少しうつむきながら、幸せの涙を拭った。



ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『片翼の人形が救われた日』全4話

【短編小説】『スマホさん、ママをよろしくね。』全4話

【短編小説】『なぜ学校にはお金の授業がないの?』全2話


⇒参考書籍










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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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