2024年06月04日
【短編小説】『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』2
⇒【第1話:偏愛される姉妹】からの続き
<登場人物>
・アシュクリス(主人公)
・リヴィーズ(アシュクリスの妹)
・トリステス(姉妹の父、軍事大国No.1の戦士)
・イレーズ(姉妹の母、軍事大国No.1の魔法使い)
・ゼレシア(魔族軍トップ)
・メイレ(魔族軍幹部、ゼレシアの側近)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第2話:居候のケジメ】
<さらに2年後>
アシュクリスは22歳になりました。
腕を上げた彼女は、
他の冒険者や街の人々からの
尊敬を集めるようになりました。
そんな折、彼女は冒険者の情報網から、
リヴィーズが魔法学校の卒業資格試験に
合格したと知りました。
アシュクリスはもう1度、
妹を迎えに行く決心をしました。
アシュクリス
「今度こそ2人で旅したいな。」
「それに、私だって少しは強くなった。」
「お父さんとお母さん、少しは認めてくれるかな…?」
アシュクリスは、
自分が親から愛されていないことに
薄々気づいていました。
それでも、世界で唯一の父親と母親に
認めてほしい気持ちは消せませんでした。
一方「自分だけが追い出されたのでは?」
という不安を拭い切れませんでした…。
2年ぶりに実家を訪れた彼女は、
おそるおそるドアを叩きました。
コンコン、ガチャ、
トリステス
『またお前か、何の用だ?』
アシュクリス
「…リヴィーズを旅へ誘いに来たの。」
「魔法学校の卒業資格を取れたって聞いて。」
「今度こそ独り立ちでしょ?」
トリステス
『お前は”かわいい妹”を危険な旅へ晒すのか?』
アシュクリス
「そりゃ旅は危険だけど…。」
「”18歳になったら独り立ち”なんでしょ?」
トリステス
『家族水入らずの邪魔をしないでくれ。』
『かわいい娘は”この家に居たい”そうだ。』
アシュクリス
「そんな…!」
「お父さん、あれほど言ったじゃない?!」
「”18歳を超えたら家に置かない”って!」
トリステス
『だからお前は独り立ちさせただろ?』
アシュクリス
「どうして私だけ……まさか……?!」
「…私だけ追い出したの?!!」
トリステス
『…(ニヤリ)…。』
アシュクリス
「どうして…?!」
トリステス
『…その眼だ…!お前が小さい頃から…。』
『その反抗的な眼つきが不愉快なんだよ。』
アシュクリス
「?!!…妹は…。」
トリステス
『リヴィーズは”イイコ”じゃないか。』
『親の言うことを素直に聞く。』
アシュクリス
「…従順だからかわいいってこと…?」
トリステス
『何が不思議だ?』
『反抗的で懐かない娘がかわいいか?』
『そんなヤツはせいぜい”居候”だ。』
アシュクリス
「…じゃあ私はずっと……。」
トリステス
『今さら気づいたか?』
『お前を家族として認めたことはない。』
『18年間ウチに”居候”させただけだ。』
『むしろ感謝されて然るべきだろう?』
アシュクリス
「………居……候………。」
ガクッ
アシュクリスは、
ショックでヒザから崩れ落ちました。
トリステスは、長女の絶望した姿を
満足げに眺めながら言いました。
トリステス
『お前が今からでも”イイコ”になるなら…。』
『特別に家族に”昇格”させてやってもいいぞ?』
『18歳を超えたからには家に置かないが。』
トリステスの歪んだ優越感が、
アシュクリスの心に突き刺さりました。
彼女の心は灰色に褪せ、
無数のヒビで覆われていきました。
そしてついに…。
パキン
アシュクリスの中で、
何かが壊れる音がしました。
彼女はスッと立ち上がり、
懐から1通の手紙を取り出し、
元・父親へ突き付けました。
トリステス
『…今どき”果たし状”か。』
『受けてやるが、こんな勝負は不毛だと思わんか?』
アシュクリス
「ええ…不毛よ…!」
トリステス
『では何を望む?』
アシュクリス
「…私なりの”訣別”…!」
トリステス
『ケジメか、まぁいい。』
『親に刃を向けるなら覚悟はできているな?』
『お前は居候のままだ、”家族”へ昇格できんぞ?』
アシュクリス
「そんなもの要らない!」
「あなたたちはただの悪魔だ!」
「私には親なんかいない!」
トリステス
『…いい機会だ。』
『冒険者からお前の噂を聞くたびに不愉快だった。』
『不出来な居候を始末するのも親の責任だ。』
アシュクリス
「私が勝ったらリヴィーズと話をさせてもらう。」
トリステス
『好きにしろ。』
『アイツがお前に付いて行くとは思わんがな。』
アシュクリス
「…勝負は1週間後に。」
アシュクリスは2年前から
親との訣別を覚悟していました。
今の彼女には勝ち目がないことも、
勝ったところで虚しいだけなことも
理解していました。
それでも彼女は、
自分を縛る毒親の鎖を
断ち切る道を選びました。
たとえ、
ここで命が尽きる結果になろうとも。
⇒【第3話:消滅した心】へ続く
⇒この小説のPV
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/12562206
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック