『安全地帯アナザー・コレクション』九曲目「俺はシャウト!」です。「夏の終りのハーモニー」カップリングでした。陽水さんも参加してのハチャメチャロックンロールです。「夏の終りのハーモニー」が荘厳なバラードで感動的に終わった後、B面にひっくり返すとレコードと一緒に自分もひっくり返るという粋な組み合わせでした。
陽水さんのゆっくりしたカウント「ワン……ツー……スリー……パッ!」から始まります。パッ!ってなんだよパッ!って!とまず頭が追い付きません。そして田中さんの非常に生ドラムっぽい音でドドドドダッタン!ドドドドダッタン!が始まりまして、単純なギターのリフが繰り返され、おそらくBANANAによるシンセが高音を響かせつつ玉置さんによる謎の「デュデュデュデュデュ」、とすでにかなりカオスです。そしてベースが入って流麗なサックスでサビのメロディー……これがカッコいいですね。
歌に入りまして、「夏の終りのハーモニー」とは異なり陽水さんと玉置さんが短く交代しながら歌います。出てくることばがいきなりフィードバック、えーとたぶんですがディレイのヤマビコ回数じゃないですかね。あ、いや、わたくしもディレイ使うんですが、いつも必要な時だけツマミさわって、ああそうかと思いながら調整するもので、ちゃんと覚えてないんですよ。基本ディレイとかリバーブには興味がないんですね。興味がないで済ませちゃいけないんですけど。マイクにノルまでフェダーあげるというのは、ちょっと遠めのマイクで拾っているけどそのボリュームをメチャクチャに上がるとその音がモニターから聴こえるようになるくらい大きくなるってことなんですが、これをやると高確率でハウリングが起こります。ミキサーの前にいる音響さんがハイを下げたりとなりのマイクを小さくしてみたりして何とか対処するんですけど、基本顔は真っ青です (笑)。ですから指が腰抜け、なんでしょう。そんなこと気にしないぜ!というくらいノリノリであることを示しているわけです。なんて迷惑なバンドだ、音響やりたくねえ〜。フェードインもアウトもなく、同じことを延々と繰り返すデジタルドラムに合わせて気の向くままセッション、気の向くままシャウトするんだ!ガラス窓のむこうのディレクターも耳がグシャグシャ、ヘッドホンを外して眺めているしかありません。
とまあ、ハチャメチャなセッションであることを示唆する歌詞なんですが、これがまた音がいいんですね。ちゃんとミキシングできてます。当たり前といや当たり前なんですが。
俺はシャウト……シャウ!シャウ!シャウ!っと二人が叫んでいる間に、何やらガサガサガサ……と耳障りと心地よいの中間みたいな音が流れてきますね。ギターで高速ピッキングした可能性もありますが、おそらくはBANANAの仕業だと思います。キーボードに多くの打楽器をアサインしておいて、打ちまくっているんだと思います。さすがBANANA、もともと陽水さんのバックバンドやってただけのことはあって、下手すると陽水さんや安全地帯よりもノリノリです(笑)。
そしてサビ、目立つサックス、それに負けない声質の陽水さん、玉置さんはやや押され気味に聴こえますが、これは陽水さんに遠慮してるんじゃないかなと思えてきます。だって陽水さんとBANANAがノリノリなんですから(笑)。
「声までシャウト」って当たり前じゃんと思うんですが、本当にシャウトなのは「俺」なのです。だって「俺はシャウトする!」とか言ってませんから。「俺(という存在)はシャウト(である)!」なんです。ですから、俺はシャウト、いやむしろシャウトが俺なんだけど、そんな俺が声を出したらどんな声だと思う?フフフ……シャウトに決まってるだろ?的な、腹の立つ表現が成立するわけです。いやー、陽水さんの詞ですから、これもわたくしの妄想とばかりは言えない気がしますよ。あの娘とももちろん……シャウトだぜ、つまりこわれたままひどく愛することなんだぜ!いや、まったくもって壊れていますが、もう陽水さんだから何でも許せちゃうっていうか、ちゃんとわかりますよね。初聴時は「なんじゃあこりゃあ」でしたが、今になって見事な歌詞に思えてきました。
ブレイクを入れて、ダダダダ……とBANANAが大活躍の小節を経て間奏に入りますが、基本は繰り返しです。そして歌は二番に入ります。
はて、「トークバック」ってなんだろう?と思いました。ディレイもよくわかってないわたくし、こんなことではいけないので調べてみますと、はーなるほど、レコーディング中にガラスの向こうのミキサーとやり取りする連絡回路ですね。中学校の放送室でみました(笑)。わたくしレコーディングのときもスタジオ入ったことあんまりなくて、ミキサーの横にアンプ置いてやっちゃうことが多かったですし、いまはもう自宅とかで自分でやりますからあんまりお目にかからない回路です。これでいろいろしゃべりすぎるとサイドギターの気が散る……わたくしサイドギターってのがそもそもいないバンドばかりでしたからそれはわかりません。だいたい、それだとボーカリストと、最低サイドギターが同時にスタジオ入ってますよね。たぶん一発録音で全員一緒にやっているんでしょう。さすがハチャメチャセッション!中島みゆきさんはレコーディングのとき、リズム録音のときに一緒に歌っちゃう、そのあと一切歌い直さないという話をラジオで聴いたことがあって仰天しましたが、それはもうバンドのやり方それぞれだとは思います。
そして、ピアノもシンセも(中西さんとBANANAですね)ハンマーのようにあの娘のハートをガッツンガッツン叩き、もうメロメロにしちゃうんだぜ!そしてとどめに俺たちがシャウトだ!これはたまらないぜ〜。いや、大丈夫ですか、ちょっとノリノリすぎて思考がヤバくなってませんか(笑)。陽水さん、安全地帯、中西さんにBANANAくらいの凄腕が揃うとそこまでノレるような気がしなくもないんですが……ロックンロールの麻薬的な表現を、このアダルティーなメンツで行うとはちょっと意外にもほどがあります。でも、きっとうれしかった、楽しかったんでしょうね、玉置さんも、メンバーも……。普通に考えたらもう実現するはずがない組み合わせであるくらいに安全地帯はビッグになり、忙しくなりすぎていますから。金子さんの粋な計らいに感謝しつつ、最高にノリノリになろうぜ!「ロックンロールは恋狂い」にも負けないぜ!という気分だったのではないかと愚考する次第です。
曲はサビを繰り返し、そして陽水さん玉置さんが(おもに陽水さん)獣のように吠えるアウトロを長めに演奏して、唐突に終わります。おお、フェードアウトはないぜ!(笑)。
こんな楽し気な音源を製作すること、そして発表してしまうことが許されるくらいにビッグになった安全地帯の、下積み時代を思いだしてそれを吹き飛ばすような軽快ロックンロールであったということができるでしょう。また、このアルバムそんなのばっかりですが、この曲も安全地帯のイメージからかけ離れていて、わたしたちに面白い一面を提供してくれているということもできるでしょう。
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BANANAはホントに、たのしいおもちゃでもいじるかのように演奏しますねえ。また活躍してほしい人です。
「ファッ!」だと「フォッ!」をいい間違えたみたいじゃないですか(笑)。それもありそう、で、面白がって残しちゃうのもありそう。
よくよく考えると、この辺りからかなりBAnaNA色が強くなっていきますね。
こんなにラフな曲でさえ、玉置さんのボーカルでも、安全地帯の隙のない演奏でも、天才BAnaNAでも、陽水さんの存在感には全く並べないというのが如実ですね。