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2019年10月15日
日本代表すごい(十月十三日)
チェコではこの日、競馬の伝統的な障害レース「ベルカー・パルドゥビツカー」が行われたため、ラグビーの試合は、チェコテレビでは1試合も中継されなかった。最後の日本―スコットランドだけはネット上で中継してくれたので、昼食後にテレビを消してPCで視聴した。何度か画面が止まってしまうことはあったが、何とか最後まで見通せた。
こういう試合を見せられて何を言えばいいのだろう。特に前半、相手に先制されてからは、見ているこちらの手が震えてしまうような感動を覚えた。アイルランドとの試合もすごかったけど、この試合の前半はさらにその上を行っていた。現時点でこの大会全チームを通じて最高のプレーだったのではないだろうか。後半4トライ目が決まった時点で、ボーナスポイントを確保したことにちょっと安心したようなところが見えて、相手に連続トライを許した後、守備を立て直して最後まで耐えきったのもすごかった。
4年前の大会で見た日本の強さは、本当に信じていいのか不安だったけど、今回の強さは本物だった。開催国で環境になれているとか、日程が有利だとかいう話も、アイルランド戦とこの日のプレーの前には全く意味を持たなくなる。チェコテレビの解説者も、大会前は日本がここまでやるとは思っていなかったと脱帽のコメントを残していた。
この解説者、すでにアイルランドとの試合の後に、試合前はサモアのほうを上に評価していて、勝ち抜けはアイルランドとスコットランドで決まりだと断言していたことに対して、日本チームに謝らなければいけないなんて言っていたのかな。4年前の南アフリカに勝った試合、今大会前の南アフリカとの試合で負けはしたけどボール保持などの統計上は互角以上の戦いだったことを紹介してなお、日本の勝ち抜けはないと見ていたわけだから、日本代表の大会前の評価なんてそんなものだったのだ。
今日の試合、試合だけでなく大会を通して評価を挙げたのが日本代表だとするなら、株を落としたのがスコットランドだった。試合が始まってそれほど時間が経っていなかったと思うのだが、解説者がスコットランドのプレーを評して、ロシアとサモアには大勝したけれども、そのプレーに見るべきところはなかったと批判していた。それに、明らかな反則を犯しているのに、審判の判定にクレームを付けたり、何で反則になったかわからないというそぶりを見せたりしていたのを、敗戦のための最善の方法だとまで酷評していた。
後半スコットランドが追い上げたのを称賛している人も多いけど、あれはラフプレーを審判が見逃してくれたおかげという面もかなりある。カード物のシーンが2つはあったし、反則じゃないのかそれというのもいくつかあった。審判としても、カードを出したりして試合の結果を左右したと言われたくなかったのだろうなあ。そんなのがあってなお、きっちり勝ち切って白黒つけたのだから、今の代表すごいわ。アイルランドとの試合のように前半のテンションで後半まで行けていたらとも思わなくもないけど、それは次の試合の楽しみということにしておこう。
スコットランド側の試合前の言動にはあれこれ批判も出ているようだが、問題点は二つある。一つは、ヨーロッパの人たちの自然観、自然に対する敬虔さ、畏怖する気持ちのない自然観が如実に表れていたことだ。台風や地震と共に生きてきた日本人なら、自然相手にはどうしようもないことなどいくらでもあることを知っている。だから、台風のせいで、開催のために全力を尽くしたうえで、試合が開催できないと言われれば、あきらめるしかないことが理解できる。
それに対して、ヨーロッパの連中にとって、自然というものは征服するもので、保護するものでしかない。言い換えれば人間の手でどうにでもできると思っている。だから、あんな駄々っ子のように開催を求める恥知らずな主張をするのだ。試合が行われることが決まったときには感謝の言葉を述べたらしいが、正直形だけのものにしか響かない。
スコットランドの監督、協会関係者があの巨大台風が通過し大量の雨が降った直後に試合が行われたことのすごさを本当に理解しているとも思えない。あのレベルの雨が降ったらヨーロッパのほとんどの都市は壊滅状態に陥るに違いない。チェコでは伝説的に語られる2002年のプラハの大洪水だが、あの時の雨量は日本なら毎年何度も降るような量でしかなかった。当時はニュースで雨量を見ても、雨の映像を見ても、何でこれで洪水が起こるのかさっぱり理解できなかったし。
とまれ、こんな人間が自然を支配する的な自然観のヨーロッパが中心となって推し進めている現在の世界的な環境保護のブームが日本人の心に響かないのも当然である。今のところ口ばっかできれいごとしか言えない環境大臣には、その辺をきっちり発信してもらいたいところだ。ヨーロッパへの迎合と追従はやめて、日本的な、自然を保護するではなく、自然と共存するような政策を目指してもらいたい。現状では期待薄だけど。
話を戻そう。もう一つの問題は、ラグビーというスポーツの暗部である差別である。戦績に基づいて代表チームをティア1とか2とかに分けているのはいいとしても、問題は、伝統国を保護するためなのか入れ替わりがないことである。これはもうラグビーというスポーツがイギリスの外に出た時点から続く差別の伝統としか言いようがない。その結果、伝統国は非伝統国を見下して、相手を褒める場合でも、気づかぬうちに上からえらそうなほめ方をする。敗退の瀬戸際に立たされたスコットランドの発言にその日本などの格下チームに対する差別意識が図らずも現れたのが今回の一連の発言なのだろう。
今回の日本大会は、ラグビーの光の面が大きく取り上げられて賞賛を集めているわけだが、影の面も指摘しないと片手落ちというものである。ワールドカップにおける日程で伝統国が優遇されて非伝統国が割を食う伝統については、すでにフィジーかどこかが批判して久しい。それを放置して特権に胡坐をかいてきたスコットランドが日程を批判するのは天に唾するようなものである。今大会に関して日程に不利のある非伝統国が、事前にわかっていたことだと批判の声を挙げないことが、かえって伝統国の自分勝手な差別意識を浮き彫りにしたのは皮肉である。
今後の日本代表の課題は、好成績を上げ続けてティア1の仲間に入ることではなく、1と2の壁を壊すことだろう。そうでもしないと、ラグビーという、ただでさえプレーするのが大変なスポーツのこれ以上の発展はない。アイスホッケーと同じく一部の選ばれた国だけの閉鎖的なスポーツになってしまいそうである。見るほうにとっては、それでもいいと言えばいいんだけどね。
2019年10月13日24時。