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2018年11月09日
森雅裕『いつまでも折にふれて/さらば6弦の天使』(十一月四日)
久しぶりの森雅裕である。どの作品まで書いたか覚えていなかったので、確認してみたら前回は三月だから半年以上間が開いてしまった。なかなか書けなかった理由は、忘れていたというのもあるけれど、後期の作品については、初期の作品ほどには思い入れがないということに尽きるのだろう。読めば面白かったし、刊行されたことを感謝しもしたが、学生時代に読んだ本の方が印象に強く残るものなのだろうか。作風が多少変わったというのもあるのかな。
とまれ、本書は1995年に私家版として刊行され、1999年に「森雅裕幻コレクション」の最終巻として、続編の『さらば6弦の天使』とともにKKベストセラーズから刊行された。『いつまでも折にふれて』の存在は『推理小説常習犯』で触れられていたから知っていたし、読んでみたいと切望していたから、出版社には感謝の言葉もないのだが、不満を言うなら二作合わせて一冊になっていたため、通常のノベルズの倍近い厚さになっていたこと。二冊に分けて刊行してくれれば、森雅裕の本が出たという喜びを二回味わえたのにと思うと残念である。当然、二作品を一度に読んでしまって、新作を読めた喜びも一回しか味わえなかった。
分冊にしてほしかった理由はもう一つある。『推理小説常習犯』によれば、私家版の『いつまでも折にふれて』はCDケースのサイズで製本されたらしい。分冊だったらそれを復刻する形で出版することも可能だったんじゃないだろうか。CDについているブックレットと同じサイズの版型で活字も同じだとすると読みづらいことこの上なさそうだから、ノベルズ版を購入した人を対象に予約限定復刻出版をしてくれていれば、両方買ったのに。一冊5000円だった1000部ぐらいは捌けたんじゃないかなあ。5000円で200部限定だったファンの有志たちの手による自費出版も、手に入らなかったと嘆く声がネット上に上がっているわけだし。
あとがきによれば、1994年と1998年に書かれた二作を、刊行年に合わせて1995年と1999年が舞台になるように書き改めたのだという。正直何でこんなことをしたのか、熱心な森雅裕読者にも理解できなかった。特に『いつまでも折にふれて』は私家版とはいえ、すでに刊行されたもので、KKベストセラーズ版が刊行された時点では、94年も95年も過去になっていたのだから。また、作品の内容的にも、小説内の時間設定が1年ぐらいずれていても問題があるようには見えなかった。
この辺の妙なこだわりが森雅裕だと言ってしまえばそれまでなのだが、同じあとがきにある「陽の目を見ない作品ゆえに」続編を書いたというのは、まだわかる気がする。ただ単に刊行年に合わせるためだけに書き直すってのは、何か他に事情があって書きなおさなければならなかったんじゃないかと疑ってしまう。芸能界もので、例によって露骨なモデルが存在する小説だから、露骨さが出版社の許容する範囲を超えていたとかさ。現代小説で、執筆年と刊行年が違うから、作品の時代背景を刊行年に合わせるなんてことしてたら、年をまたく出版なんてできなくなるし、5年も10年も違うってんなら、テクノロジーの進歩に合わせて書きかえる意味もありそうだけど1年じゃなあ。
どこがどう変わったのかわからない読者としては、改稿前のバージョンも読みたくなってしまうのは当然である。だからこそ、CDサイズのものを改稿しないまま復刻すれば、全体的な読者数に比べれば多い森雅裕中毒者たちはこぞって購入したはずなんだけどなあ。あの頃は、まだ今ほど出版業界も苦しくなっていなかったから、1000部やそこらの限定出版でちまちま稼いでられるかなんてところもあったのかなあ。
それにしてもと思わずにはいられない。どうして『いつまでも折にふれて』だったのだろうか。「幻コレクション」の1でその存在を明らかにした『愛の妙薬もう少し……』を出版する手はなかったのだろうか。原稿を関係者に一枚ずつ配っておしまいにしたとか書かれていたけど、それから数年しか時間が経っていなかったはずだから、返してもらって印刷所に放り込むこともできただろうし、記憶をもとに書き直すことだってできたはずだ。森雅裕のことだから入念な取材の結果が残されていたはずだし。『椿姫』シリーズの続編を出してから、『推理小説常習犯』で私家版として紹介した『いつまでも折にふれて』を出すという順番で刊行されていたら、もう少し売れて、KKベストセラーズから新作が刊行されるという未来もあったんじゃないかと夢想してしまう。
森雅裕の陽の目を見なかった作品は他にもあって、「復刊ドットコム」の森雅裕のページには、『雪の炎』と『微笑みの記憶』という作品も上がっている。前者の存在は「復刊ドットコム」に出会う前から知っていたけど、後者は全く知らなかった。何とか出版されないものかなあ。著者との交渉について前向きな返事とか書かれていても、ぜんぜん進展していないようだし。
さて、表題となっている『いつまでも折にふれて/さらば6弦の天使』にの内容ついても簡単に触れておかねばなるまい。森雅裕の作品の中では『ビタミンCブルース』に続く芸能界物というかアイドル小説。苦手なジャンルなので評価もしにくいのだけど、心ないファンの問題とか、芸能界の暗い部分を描き出そうとしたのかなあ。これも森雅裕の作品でなかったら絶対に手を出していなかっただろう。
最大の不満は、主人公の女性も、その相手役の男性も、いい人過ぎて、森雅裕の主人公を魅力的にしているひねくれた部分があまり感じられないところだろうか。話がつまらないとも登場人物に魅力がないとも言わないけれども、どこか主人公達二人の存在感が希薄なのである。もう少しあくの強い人物設定にしてくれた方が、森雅裕ファンには受けたんじゃないだろうか。ファンではない一般の読者がいたのかどうかはわからないが、なれていない人向けにはこのぐらいでちょうどよかったのかもしれないけど。
とまれ、陽の目を見ていなかった森雅裕作品が刊行された最初の例になるのだから、ファンにとっては大きな意味を持つのである。
2018年11月6日23時25分。
今朝処理するのを忘れていた……。
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