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2017年11月11日

2017年下院総選挙その他の党(十一月八日)



 無駄に回数を積み重ねてきたこのシリーズも今回でおしまいにする(すくなくともそのつもりである)。残りの党についてはそれほど特記することもないので、一まとめにしてしまう。


海賊党
 ANOに続く勝者と言えるのが、結党から八年になるという海賊党である。社会民主党をはじめとする既存政党の多くを下に押しやって得票率で第三位に入ったのには正直滅茶苦茶驚かされた。この結果をもたらした原因としては二つのことが考えられる。
 一つは、既存の政党に対して辟易している層のうち、だからと言ってバビシュ氏は支持したくないと考えている層の支持を集約できたことである。これまであれこれバビシュ氏が支持を失わない理由を考えてきたけれども、やはりあれこれ不祥事の出てきたバビシュ氏とANOは支持できないと考えるチェコ人は一定数いる。同時に既存政党も支持できないとなれば、投票する先は海賊党か緑の党ぐらいしかない。
 この二つの党の比較で海賊党が勝ったのは、地方選挙で地方議会に議員を送り込み、町によっては首長を務め、意外な実務能力を見せ付けたことが大きい。緑の党は以前課員に議席を獲得したときに連立与党に参加したものの実務能力のなさを露呈し政権の不安定化に貢献した。それで議席を失ったわけだが、現在でも地方政界レベルで、独善的な非現実的な「理想」を振りかざして、混乱を引き起こす迷惑な存在となっている。

 本来3〜4パーセントの得票が予想された緑の党が、1.5パーセントにも満たない得票に終わったという事実も、緑の党を見限った層の支持が海賊党に流れたことを示唆している。今回の選挙後の交渉でも、特に舞い上がることもないようなので、この党には健全な野党としての役割を期待したいところである。本人たちもANOの政策で支持できるものは支持するし、できないものは反対すると断言しているから、既存の政党よりはましな存在になりそうである。
 日本の報道ではオカムラ党について触れられてはいても、海賊党の名前は出てこない。しかし考えてみれば、オカムラ党的な存在はチェコに限ったものではない。スロバキアにもオーストリアにも、ドイツにだって存在し、勢力を増しつつあるのだ。それに対して海賊党が国会に議席を、しかも二十以上も獲得したなんていうのはチェコでしか起こっていない現象である。チェコの今回の選挙を象徴するのは、オカムラ党よりも、むしろ海賊党の台頭なのである。それを右傾化という先入観で眺めるから気づけないのだ。


共産党
 この党も、ビロード革命以後、二ケタの得票を続けていたのだが、社会民主党に付き合うように、固い支持層である6から7パーセントにほとんど上積みできなかった。右よりの支持者をANOに左寄りをオカムラ党に奪われた結果である。共産党の問題点としては、誰が党首なのかいまいち印象に残らない点だろうか。以前長年にわたって党首を務めていたグレベニーチェク氏はよきに悪きに強い印象を残す人だったけど。


キリスト教民主同盟=人民党
 与党三党の中で最も小さく、もっとも存在感のなかった党。第二次世界大戦後に没収された教会資産の返還に関する問題で、常に教会、つまりはキリスト教側に立って発言し続けていたのも、キリスト教徒の少ないチェコでは支持を減らす原因となったはずである。信者のいわゆる浄財で運営されるべき宗教組織が国費で運営されることに何の疑問も抱かず、国や地方公共団体の管理のもとに活用されている資産に関しても、返却を強要する姿勢は、キリスト教というものがやはり銭ゲバ宗教の一つで、それを支持する、いやキリスト教的な考え方を政策の柱としているキリスト教民主同盟も、政教分離の問題はひとまず置くにしても、信用ならんという印象を与えている。

 ちなみに、この辺のヨーロッパの政教分離の現実を見て、日本で政教分離政教分離とうるさい連中が何を考えるのか聞いてみたいところである。昭和天皇の大喪の礼に現職の首相をはじめとする閣僚が参列するのはけしからんとかほざいた連中は、ハベル大統領の国葬がプラハ城内の聖ビート教会で行われ、プラハの大司教も参列している中に、外国から弔問に来た政治家たちが並んでいるのを見て何を語れるだろうか。
 日本的な厳しい政教分離の目から見ると、ヨーロッパの政教分離はまやかしに過ぎない。その象徴がこのキリスト教民主同盟で、チェコのキリスト教徒の数が増える傾向にないことを考えると、これ以上党勢を延ばすの難しいだろう。そして、それは悪いことではない。


TOP09
 党名についた09という数字からもわかるように、2009年にキリスト教民主同盟から分離して成立した政党である。中にいる政治家は決して新しくはなかったのだが、ガワを変えることで新しさを演出することに成功した。しかも、実質的な党首であったカロウセク氏が自らの人気のなさを補うために、人気者のシュバルツェンベルク氏を担ぎ出すことに成功したことで、直後の下院選挙では、分裂前のキリスト教民主同盟を越える票を獲得することに成功した。そのせいでキリスト教民主同盟は議席を失ったのだが。
 その後新鮮味の切れ始めた前回の選挙では、バビシュ氏のANOに支持を奪われることで得票を減らし、今回も支持の低下を止めることはできなかった。正直賞味期限切れだということもできそうである。今回議席を確保できたのは、すでに引退したと思っていたシュバルツェンベルク氏が、プラハの選挙区から出馬したおかげである。もう一人の人気者二十歳を超えたばかりのアフリカ系チェコ人のフレイ氏の活躍もあって、プラハで10パーセントを越える票を獲得し、これによって5パーセント以下に低迷していた得票率を押し上げることができたのである。

 チェコの政党で、個人の人気にたよっているという面から言うと、最右翼に位置するのがこのTOP09である。結党以来の中心人物のカロウセク氏は、恐らく有能な人ではあるのだろうが、インタビューや対談番組で、テレビのレポターや対談相手を馬鹿だと思っているのが見え見えで、それを不快に思うチェコ人は多い。その不人気をひっくり返せたのがシュバルツェンベルク氏の存在で、今回はフレイ氏がそれに続いた。
 選挙後カロウセク氏は党首を引退することを表明したが、これでカロウセクが嫌いだからTOP09は支持できないと言っている層を引き寄せることができるかもしれない。ただ、次の党首になれそうな人材がいないのもこの党の弱点で、今更最年長の国会議員であるシュバルツェンベルク氏を引っ張り出すわけにはいかないし、最年少の現時点では海のものとも山のものともつかないフレイ氏を担ぐわけにもいくまい。バビシュ氏のANOをバビシュ氏の個人政党だという批判をするTOP09こそが、実はカロウセク氏とシュバルツェンベルク氏の二人政党だったのである。
 その二人とも党首の座を離れることになった現在、無理やり存続させるよりは、キリスト教民主同盟か市民無所属連合と合併する道を考えたほうが、今後も国会に議席を獲得することを考えたらよさそうにも思われる。ただ、よほどうまくやらないと、生き残りのための合併として嫌がられるかな。それぐらいなら消滅したほうがいいなんてことをカロウセク氏なら考えそうな気もする。外国人からお金をとろうとする政策(結果的にそうなっただけかもしれないが修正しなかった時点で同罪である)を導入したカロウセク氏に対しては、チェコ在住の外国人としては「カロウセク許すまじ」という感情を抱かないわけにはいかないので、TOP09の凋落、場合によっての消滅は歓迎すべきことである。緑の党よりはましだけどさ。


スポーツマン党
 本来なら市長無所属同盟についても書くべきなのだろうけど、無駄に長くなったし大して書くことないしなので、最後にひそかに期待していたこの党についてコメントしておく。勝てるわけねえよ、ほとんど選挙運動してねえんだもん。本気でチェコのスポーツ選手たちがスポーツの活性化を目指して政界に進出するというのなら支持する人は結構いたと思うんだけどねえ。もったいない話である。
 だからと言って、スポーツ界出身の議員がいないというわけではなく、以前社会民主党から例外的に外部からの候補者として立てられたアイスホッケーのシュレーグル氏(パロウベク元首相の引きね)に続いて、今回の選挙では、二人のスポーツ選手が議席を獲得した。一人はアイスホッケーのチェコ代表で長年活躍したゴールキーパーのフリニチカ氏で、ANOからの出馬だった。もう一人が、近年は調子を落として低迷していたけれども、一瞬だけ大きく輝いたスキーのジャンプ競技のヤンダ氏である。こちらは市民民主党からの出馬である。ただしどちらも党員にはなっていないんじゃないかな。
 二人も旧来の政治家のいじめにめげずに議員として活躍してくれることを願おう。それで、いずれは、政界出身ではない大統領候補として元スポーツ選手が出馬する土壌を作ってくれないかなあ。大統領と言えば、元首相のトポラーネク氏とか、何考えて今更出てきたのだろうか。正直、チェコ人ではないけれども、もううんざりだという気分は否定できない。
2017年11月10日17時。






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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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