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2017年11月08日

チェコテレビも見よう(十一月五日)



 チェスキー・ロズフラスの話をしたときに、本当はチェコテレビが見られるようになっているのもうらやましいということも書こうと思っていたのだった。チェコテレビは、同じように受信料で運営されている日本のNHKのような、せこいことはしないので、ネット上に公開されている番組の視聴には、リアルタイムでの視聴も含めて何の制限もかけていない。例外はオリンピックやサッカーのチャンピオンズリーグなどの銭ゲバ組織が運営しているイベントでチェコテレビが権利金の高さに、ネット上での放映権を買えなかった番組ぐらいである。それも買えることもあるから常にみられないというわけでもないし。
 番組が放映された後も視聴できるようになっていることも多く、さすがに無期限ではないと思うけれども、チェコテレビ作成の番組の場合には、特設のページが設けられてアーカイブされていることもある。最初の放送からしばらくして再放送をするころには、見られなくなっていることが多いかもしれない。再放送の後はまた見られるようになるはずである。
 世の中には楽観的な人がいて、テレビでニュース番組を見るのは外国語の勉強にものすごく役に立つという人がいるけれども、そんなのはただの勘違いである。何の工夫もなくテレビでニュースを見るぐらいならラジオのニュースを何度も何度も繰り返し聞いたほうがましである、移動しながらでも聞くことができるのだし。それなら耳だけは鍛えることができるだろう。

 チェコでテレビを見ているのならテレテキストの機能で字幕を表示させることができるから、耳で聞きながら目で読むことは可能である。ただ省略される言葉もあるし、ネット上の放送でこの機能が使えるかどうかはわからない。チェコのニュースは日本のニュースみたいに、字幕の洪水にはならないので、字幕を見ながら耳で聞くというのはむずかしい。日本語での発言と字幕を比べるというのは、ニュースに登場する政治家たちの日本語の発音がまともに聞き取れず、発言と字幕がずれていることもあるので、ほぼ不可能である。
 テレビの視聴を勉強に役立てようと思ったら、すでに知っていることについての番組のほうがいい。日本語で見てよく知っている番組をチェコ語で見るとかさ。どうしてもニュースを使いたかったら、隣に解説者としてのチェコ人が必要になる。意外と役に立つのがスポーツ番組である。目の前の画面で起こっていることにコメントが加えられるので、チェコ語ではこんな状況では、こんなことを言うのかと確認することができる。これもルールなどをよく知っているスポーツであるのが望ましいことは言うまでもない。サッカー、ハンドボールは問題なかったけど、アイスホッケーは最初は見ても何を言っているのかわかんなかったしさ。

 ところで、チェコテレビではDときいう子供向けのチャンネルを午後8時まで放送している。数年前に放送が始まったときには日本の教育テレビのように、小学生、中学生向けの学習用の番組が放送されるのではないかと期待した。例えば子供向けのチェコ語の番組や歴史の番組なんかで、無駄に専門用語を使わない説明が聞けるのではないかと期待したのである。しかし、チェコの子供向けのチャンネルの実態は、ほぼすべて子供向けのドラマやアニメで占められていて期待外れもいいところだった。チェコテレビの会長は自画自賛しているし、ヨーロッパの子供向けのチャンネルの中では最も成功を収めているのだそうだ。まあ、所詮ヨーロッパなんてそんなものなのさ。

 では、チェコテレビで、チェコ語についての番組を放送しないかというと、そんなことはなく、かつて定期的に「チェコ語について(O češtině)」という番組が放送されていた。子供向けではなく大人を対象にした番組で、「プラハ城(Pražský hrad)」のどの文字を大文字で書くのかとかいう、大人でも間違えることの多いチェコ語の問題について解説してくれる。番組の特設ページはこちら

 司会は本業が何なのかよくわからないテレビ業界の人アレシュ・ツィブルカで、国立チェコ語研究所の専門家が出てきて、問題のあるチェコ語について理由も含めてわかりやすく解説してくれる。このチェコ語研究所が正しいチェコ語を決めて、何年かに一度、チェコ語の正字法を改定しているらしいのだが、その姿勢には大いに不満がある。やっていることは、現状の追認が多いのである。だから、去年までは一般には使うけれども、誤用だとされていたものが、突然正しい表現になってしまう。それなら、正しいチェコ語など決めずに日本語のように、ある程度の規範はあっても細部は個々の裁量に任せる形のほうがましのような気がする。
 それはともかく、視聴者からの質問をもとにした番組の質問コーナーは、チェコ語を勉強する外国人にも役に立つし、母語話者のチェコ人でさえあやふやな部分があるんだから、外国人が多少間違えても許容範囲のはずだと、チェコ語を使う勇気を与えてくれる。もちろん説明を聞いても納得できないものもあるけれども、それは外国語なのだから仕方ないし、すでに知っていることがあっても、その説明を改めてチェコ語で聞くのは、それはそれで有用である。

 この番組の素晴らしいところはもう一つあって、それは業界のチェコ語を紹介してくれているところである。日本語でも例えば出版業界の言葉や、テレビ業界の言葉は、自分たちが支配すメディアで安易に使う連中が多いせいで、意外と一般にも広まっているが、それ以外の業界の専門用語、場合によっては社内語というものは、外にいる人間は普通は知らないものである。
 それはチェコ語も同様で、以前日系企業で通訳をしたときに、「トカゲ(jsštěrka)」と言われて何のことかわからなかったことがある。正しい言葉で言い直してもらって、あれかなと思いついたのがフォークリフトだったのだけど、その通りだった。他にもプレスの機械の一部を、確か「羊(beran)」と呼んでいたなんて例もある。見ただけで全部覚えるのは無理にしても、一度そう言う言葉が存在することを知っておくのは通訳をするときにも役に立つ。

 ということで、チャンネルを変えていてこの番組に突き当たったときには、二人組の男女が業界用語丸出しで演じる寸劇の部分は極力見るようにしていた。何となくわかるのもあればさっぱりわからんというのもあるのは、日本語の専門用語の場合と同様だった。よかったのは、SF関係なんて、業界用語として取り上げていいの? と言いたくなるようなものもあったことで、今ではほとんど覚えていないけれども、この番組を見たことも我がチェコ語に寄与しているのである。
 ちなみに、チェコ語でSFは、アルファベット読みして「エス・エフ」と言っても伝わらなくはないけど、通を気取りたかったら「スツィ・フィ」と言わなければならない。わかるよね、サイエンス・フィクションのそれぞれの言葉の最初の音節だけを取り出して、しかもチェコ語読みして出来上がったのがこの言葉なのである。「sci-fi」と書いて、「スツィ・フィ」と読む。これがチェコのSFである。
2017年11月6日24時。


チェコテレビのアドレスはこちら。上の「i-vysílání」から、テレビ番組の視聴ができる。
http://www.ceskatelevize.cz/








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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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