2018年01月13日
6格と7格の微妙な問題、それに5格もか(正月十日)
チェコ語を勉強されている沙矢香さんから頂いたコメントに、チェコ語を勉強している人の発言としては、気になる部分があった。
「”v”を使ったら後ろの名詞は7格だろうか」
えっ? これ、「v」の後は6格ですよと間違いを指摘して終わらせてもいいのだけど、日本で日本語で書かれた教科書と辞書を使って勉強している人にとっては、ことはそれほど簡単ではない。自分も混乱していたことがあるのを思い出した。
チェコにおけるチェコ語の伝統的な分類においては、無理やり日本語に訳された文法用語を使うと、主格、生格、与格、対格、呼格、前置格、造格という順番に並べられる。つまり、ややこしい言葉ではなく順番を表す数字でいうと、場所を表す前置詞「v」の後に来る前置格は、6格だということになる。そしてこの順番を日本で発行されたチェコ語の教科書も踏襲している。
しかし、日本で発行されている唯一の『チェコ語=日本語辞典』では、呼格と造格が入れ替わっている。つまり呼格が7格で、造格が5格になっているのである。前書きには、その理由として、著者の小林正成氏が上げているのが、ロシア語やポーランド語を勉強した学生には、チェコ語の文法での順番がなじみにくいということである。呼格は、スロバキア語にはないと言うから、すべてのスラブ語にあるわけではないはずなのだが、ロシア語とポーランド語にはあるのか。
初版が1995年だから、東京外国語大学のチェコ語科ができたかどうかというぐらいになるのだろうか。当時は、少なくとも大学でチェコ語を勉強する人は、ほとんどがロシア語をすでに身につけた人だったのだ。ロシア語を身につけた人たちが、次に勉強する言葉として選ぶのがチェコ語であり、ポーランド語だったはずだ。だから、著者が開講していたチェコ語の授業に出ていた学生も、スラブ語の初心者は少なく、ロシア語を学んだ経験のある人たちばかりだったのだろう。
5格と7格が入れ替わっているだけなら、6格はそのままなのだから、間違えることはないと思うかもしれない。しかし、この辞書の問題は、格の順番が入れ替わっているところにあるのではなく、前書きで5格とか数字で格を示してあるのに、本文中ではそれが全く使われていないところにある。特に問題は、巻末の各変化表で、名詞や形容詞などの各変化表の左端の柱に、上から順番に、主、生、与、対、造、前、呼と七つの漢字が並んでいる。並んでいるはずなのだけど、呼がないものがかなりあるのである。
これは、中性名詞やすべての名詞の複数など、主格と呼格が同じ形になるものが多いことから、一番上に主と呼をまとめることにしたということのようだ。こういう付録の表では、形が同じであっても、別に呼を立てておいてほしかった。なぜなら、時間があるときはいい。一番下に「前」と書いてあるのを見て、前置格だから6格だなと考える余裕がある。でも、大急ぎで確認するときに、一番下にあるのを見て7格だと誤認してしまうことがあるのである。
今となっては、それでどんな間違いをしたのか記憶にないのだけれども、一つ上の造を6格だと思って使ったのか、6格を7格だとおもってしまったのか、とにかく、しばしば混乱させられたのは覚えている。それでも、巻末の表で1から7の数字を使ってくれていたら、混乱するのは5格と7格だけでよかったはずなのだが、漢字を使ってくれたおかげもあって、5、6、7格の間で混乱することになってしまった。5格はほとんど使わないし、形を調べたこともあまりないから、実際に混乱したのは、6格と7格だけなんだけどね。
チェコ語と、ロシア語やポーランド語の格の並べ方が違うのは、母国での文法に基づいているのだろうから仕方がないといえば仕方がない。京都産業大学出版会が刊行した『チェコ語=日本語辞典』がロシア語に合わせて、順番を変えたというのも、著者の授業に使うことが目的の一つだったことを考えれば仕方がない。ただ、もう少し初心者のことを考えた編集にしてくれればよかったのにと思わなくもない。出版社の仕事だよなあ。
チェコ語がある程度使えるようになってからなら、順番がどうであれ気にならないし、変化形を見れば、順番が違っていても変化形を見れば6格か7格かの区別はできる。今となっては巻末の表で確認したいのは、変化形全体ではなくて、複数6格が「ech」になるのか、「ích」になるのかとか、細かいところだけだし。
京産大の辞書は大学書林から再販されているので、手に入れて使っている人も多いだろう。チェコ語=日本語の辞書があるのは便利なんだけど、落とし穴もあるので、使うときには気をつけていただきたい。
思いついたときには、すごくいいことが書けそうな気がしたんだけど、ここまで書いてみて、どうも失敗したという印象を拭えない。
2018年1月10日23時。
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私は7格は便利なものでジョーカー扱いにしているので6格までまとまってわかればいいかなって感じでした。ドイツ語やっていると格を数字で表すのが便利ですが後々日本語でない教材を使うことを考えると 7や造でなく最初からInstrumental、NGDAVLIで覚えればよかったと後悔しています。
日本で実際に会話で使う機会がない環境ですとメール作成等の際はどうしても変化表見てしまいますし、前置詞はあとの単語とくっついてしまうのでプロテベとかスナミとかステボウとか歌で中途半端に覚えてしまいなかなかちゃんと私も覚えられません。
確か7格は方法や手段を示す時に用いるのですね。勉強不足でした。参考書を見てもdeclension には悩まされます。格の勉強を始めた時、2格は所属や所有を示す、と説明文がありましたので、私の頭では「英語で言うmy your his her their と似てるかな?」と思っていたのですが、まさかの「můj moje tvůj tvoje」の存在、更にそれらにも格変化がある。これを知った時はとても混乱しました。チェコ人の友達にも質問しましたが、「感覚で覚えてるから説明できない」とのことで、日本語や英語の文法で当てはまることはできないと思いつつ、毎度の事、理解に苦労しています 。
先生がチェコ語を勉強するきっかけはどのような理由でしょうか。私はチェコが子供の頃から好きでいつか住みたいと考えています。先生の意見も機会があれば教えて頂けると嬉しいです。