2017年06月23日
難民問題に関してチェコを擁護する(六月廿日)
EUの、いやドイツの陰謀で、チェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリーの所謂ビシェグラード四カ国が、EUに押し寄せる難民の受け入れを拒否しているというイメージが広がっている。何でも難民受け入れに協力しないこれらの国は、非人道的でヨーロッパの連帯というものを無視しているのだそうだ。
チェコに住んでいれば、これらが単なる言いがかりに過ぎないことが理解でき、ドイツが焦っていることにざま見ろという気持ちを抱くことになるのだが、一応、チェコの弁護をしておこうと思う。一部、すでに書いたことの繰り返しになるのは、今回は気にしないことにする。
まずはっきりさせておきたいのは、チェコは難民の受け入れ自体は、拒否していないと言うことである。各地に難民申請者が、結論が出るまで収容される施設があり、現在は収容人数が十人単位に減っているが、一番多かったときには百人単位で収容されていた。身元を引き受けてくれる団体がある場合には、そういう施設に入らないこともあるし、チェコはチェコへの亡命を希望する難民は受け入れているのである。ただし、チェコを希望する難民が少ないのは事実である。
チェコが拒否しているのは、ドイツ行きを希望する難民の受け入れである。正確には、ドイツがEUに指示して制定させたヨーロッパに入ってきた難民を、加盟国ごとに受け入れ枠を決め自動的に振り分けるというルールである。大半の難民がドイツ行きを希望する以上、チェコに押し付けられるのも、ドイツ行きを希望し、その途中にある国や、国の住民を障害物としか考えていない連中になることは火を見るより明らかである。
そんな連中がチェコに行かされるとわかったときにどんな反応をするか考えてみればわかるだろう。それが告げられた場所で暴動を起こしかねない。何ヶ月か前にチェコの収容施設で、難民申請が認められず強制送還になるかも知れないという根も葉もないうわさが流れただけで、何人かの申請者が暴動を起こして部屋に立てこもるという事件が起きて警察が出動する事態になっている。チェコを希望してやってきた人たちでさえこうなのである。ドイツ希望でチェコに押し込められたりしたら、どんなことになるのか想像もしたくない。
ドイツなどの所謂先進国では、難民申請をした人は、収容所に閉じ込められるのではなく、ある程度行動の自由が認められているようである。それは人道的には素晴らしいことなのだろう。チェコの収容所で、ドイツ行きを目指しながらチェコへの不法入国で捕まって収容されている連中が、待遇が悪いと暴動を起こすのはドイツでの扱いを知っているからだろう。
チェコでドイツ行きを希望する難民を受け入れ、ドイツと同じように難民申請者に行動の自由を与えた場合に、どんなことが起こるか。これも想像力のかけらさえあれば簡単にわかる。収容所を出てそのままドイツに行ってしまうのだ。それを防ぐすべばチェコ政府にはない。防ごうとして収容所から出られないようにしてしまえば、手をつけられない暴動が起こるだろう。
チェコ政府がキリスト教系の団体と共同で、イラクのキリスト教徒たちのうちチェコに亡命を規模する人たちを、事前に厳重な審査をしたうえで、政府の飛行機を派遣してまでチェコにつれてきて難民として受け入れたことがある。そこまでされてなお、チェコにつれてこられた連中の一部は、キリスト教の団体に身元を引き受けてもらっていたおかげで収容所に入れられていなかったことを利用して、ドイツに逃げ出してしまったのだ。チェコ側の善意が見事に悪用されてしまったのだ。この件以降、チェコで難民を積極的に呼び寄せようという声が聞かれなくなった気がする。どうせお前らみんなドイツに行きたいんだろ、ドイツに行けよというのが、現在のチェコ人の多くが難民に対して感じていることであろう。
最初にEU加盟国に強制的に難民の受け入れを割り当てるという案が出てきたときに、チェコ政府は以上のような問題点を挙げて反対した。それに対して返ってきた答えは、対策ではなく、難民一人当たり一日いくらのお金を出すから受け入れろと言うものだった。お金が出たところで、難民たちのドイツへ行きたいという希望を変えることも、阻止することもできないというのに。
仮にEUが、この問題の解決策を見出すことができなかったとしても、せめてチェコが受け入れた難民がドイツに逃走したとしても、チェコの責任は問わないぐらいのことは約束してもらわないとチェコ側としては、交渉の席にすらつけない。フランスが難民としての登録をしないまま不法滞在してイギリス行きを狙っている連中を放置しているせいで、イギリスへ製品を運ぶチェコなどの長距離輸送業者は大きな迷惑を被っている。フランス側で、カミオンの貨物室の鍵を破壊したり、ほろを切り裂いたりして中に入りこまれたら、イギリス側で密入国の幇助をしたということで、運転手が処罰せられるのだ。下手に事前にチェックをすると、暴力的な難民が隠れているのを発見して、、命の危険を感じることさえあるという。これを国レベルでやられたら、たまったもんじゃないのである。
最近は、ドイツあたりが、チェコなどの国を、EUを補助金をもらうための機関だとしか考えていないのではないかと批判し始めた。正直バカも休み休み言えとしか思えない。この発言は、ドイツが、旧共産圏のEU加盟国を、金さえ出しておけば言いなりになる国としてしか見下していることの証明に他ならない。その証拠に、今度は何らかの協定に違反したという理由で罰金を科すと言い出した。
受け入れを拒否したら、金を出すから受け入れろと言い、それでも拒否したら受け入れないと罰金を取るぞというのだから、「EUとは金なり」と理解しているのは、チェコなどではなくドイツである。この難民問題に関して、チェコはむしろEUというのは、金だけの組織ではないことを主張しているのである。
それに、協定に違反したから罰金だと言うのなら、先に罰金を科されるべきはEUとドイツである。難民問題が深刻化した原因の一つは、ドイツのメルケル首相が独断で、シェンゲン協定によって定められた難民受け入れのルールの適用の停止を決めたことで、それを追認したEUも同罪である。現在のまずドイツありきのEUに、「民主主義」的な意思決定など存在しない。だからこそイギリスは脱退を選んだのだし、フランスはEUの改革を目指しているのだ。
基本的にチェコの政府には文句しかないが、この難民強制受け入れ枠に関してだけは、全面的に支持する。チェコでは珍しいことに野党も与党のやり方に賛成しているから、チェコが受け入れではなく、受け入れ枠を拒否するのは民主主義の考えから言っても当然なのである。このチェコなど四カ国の反乱がEUのドイツ独裁を断罪するきっかけになってくれると、かつての加盟国の事情に配慮できていた多様性を許容する緩やかな連合体としてのEUへの回帰につながるのではないかと期待しておきたい。
最後にEUへの疑問を一つ。難民本人の希望を無視して、勝手に行き先を決めて放り込むのは、お得意の人道的な扱いからは逸脱しないのかねえ。
6月21日22時。
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