2021年03月18日
ピルスネル、お前もか(三月十五日)
いつの頃からだっただろうか。もらった名刺に「再生紙を使用しています」なんて文句が印刷されるようになった。それで私たちの会社は森林の保護に力を入れていますよとアピールしようとしていたのだろうけど、それなら名刺自体を廃止するなり、配る数を減らすなりしたほうがはるかにましだろうにと思ってしまった。いや、名刺を再生紙で作ること自体に文句をつけるつもりはない。ただ、それを自慢げに名詞に刷りこむ感性が理解できなかったのだ。
この手の、自分の正しさを声高に主張する(少なくともそのように感じられる)行為には正直な話、嫌悪感を覚えてしまう。かつて割り箸が森林破壊の原因として槍玉に挙げられていたころに、自前の箸を持ち歩くことを自慢していた連中にも、同じように黙ってやれよと思ったものである。最近なら、ちょっと前に流行った、チャーチルなど歴史上の偉人を、人種差別主義者だったとして糾弾するブームにも、自分は人種差別主義者ではないと弁護するための行動としか思えず、騒いでいる連中こそが人種差別主義者なんじゃないかとさえ感じたものだ。
だから、自分の正しさを疑うことを知らないくせに、つねに自分の正しさを確認したがり、その正しさを大声で自慢したがる連中とは、できればお近づきにはなりたくないのだが、困ったことにチェコ最高のビール会社であるピルスナー・ウルクエルまでが、世界的な流行に巻き込まれてしまった。チェコのビール業界は、世界的な流行には背を向けてわが道を行くのが素晴らしいところだったのに、アサヒに買収されたのが原因だろうか。
テレビを見ていたら、みょうちくりんなピルスナーのコマーシャルが流れたのだ。その詳細と考えはこちらのページを見ていただきたいのだが、自然保護の観点から、ビール瓶のラベルなどを変更したというのである。自然保護などとおためごかしなことは言わずに、デザインを変更したとだけ発表すればよかったのに、興ざめとしか言いようがない。
変更点は、まず瓶の上部の細くなっている部分から王冠まで包むように貼られていた金色のアルミ箔を廃止して、紙のものに変えたこと。これで年間48トンものアルミを節約できると自慢している。またアルミ箔がなくなることで、洗浄の際にはがれるラベルが全て紙製のものになり、まとめてリサイクルに回せるともいうのだけど、色と糊の付いた紙ごみを資源として再利用するのにどれだけの環境コストがかかるのだろうか。
王冠は、ネックラベルのデザインの変更でむき出しになり、樽作りを象徴するデザインに変えられているだけで、瓶の下部の中心となるラベルには、再生紙を使用すると主張するいう名刺の愚を犯している。そのラベルの上にあった小さなラベルは廃止され、工場の門をデザイン化したものなどが瓶に直接描き込まれることになっている。
こんな中途半端なことをするぐらいなら、王冠は仕方がないにしても、ラベルは、原材料等を表示するものを除いて、全部廃止すればよかったのにと思う。瓶は回収して再利用されるわけだから、外側にラベルが貼られていることは、洗浄のための手間、何よりも必要な水の量が増えることを意味する。世界的な水不足も叫ばれる現在、ペットボトルに直接印刷して使い捨てにするのと、瓶を回収して洗浄して再利用するのと、トータルで環境にかかる負荷はどのぐらい違うのだろうか。いずれにしても、ラベルがないほうが負荷が軽くなるのは言うまでもない。
ヨーロッパ流の環境保護の議論で、不満でならないのは、部分的な個々の環境負荷については取り上げられても、例えば使用中だけでなく、生産から破棄された後の処理までにかかる全体的な環境負荷についてはほとんど話題にならないところである。肥沃な畑をつぶして太陽光発電とか、食用作物をバイオ燃料用の作物に転換するとか、全体的に考えると全体的な状況の改善にはあまりつながらないような気がするのだけど、具体的な数値を出して説明してくれないものだろうか。
そう考えると、緑色の瓶にラベルが貼られていなかったハートランドビールは、時代をはるかに先取りしていたのだなあ。専用の瓶を使用して、ラベルの代わりに直接瓶に意匠を描きこむというのは、昔のやり方で、逆に先祖がえりだったという可能性もあるけれども、それならそれで、温故知新という言葉できれいにまとめることができるだろ。
2021年3月16日22時30分。
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