2016年07月14日
サマースクールの思い出(七)――二年目(七月十一日)
二年連続二回目のサマースクールの思い出は、開始前の週末に事務局に出向いて師匠と話をしたところから始まる。到着の手続きをしていたら、声をかけられて、一緒にいた男の先生を紹介された。今年はこの先生のクラスに通うのよと言われて、じゃあクラス分けの試験は受けなくてもいいのかと尋ねたら、事務局が混乱するから受けろと言われた。一人、二人クラス分けの試験を受けなかったからと言って混乱するような事務局ではなかったのだけど。最初から十分以上に混乱していたのだから。
とりあえず、紹介された先生に挨拶をしてよろしくお願いしますとは言ったものの、師匠の次のクラス、つまり上から二番目のクラスの先生だと言う。あんまり上のクラスに行くのは避けたかったのだけど、前年のことを考えると、チェコ語で教えるクラスは三つだけだった。ということは一番上の師匠のクラスに行けない以上、選択肢はこの先生のクラスか、去年と同じクラスの二つしかない。
前年のような苦行じみた勉強はしたくなかったので、同じクラスを繰り返すのも悪くないと考えていたのだが、挨拶をしてしまった以上は、一度はこの先生の授業を受ける必要がありそうだ。あれこれ悩んでも仕方がないので、一応上から二番目に行く覚悟だけはしてクラス分けのテストに臨んだ。すると、一種類しかなかったテストが二種類に増えていて、中上級を希望する学生向けのものは、それなりに難しく、うれしいことに答に自信がないところが何箇所もあった。テストが難しくて自分が答えられないことを喜ぶ日が来るとは思わなかった。
初日の月曜日の朝に見たクラス分け表には、師匠の言葉通り、上から二番目のクラスに名前があった。そのクラスは、最初から人数が多めだった。廿人近くいただろうか、それが授業が始まってから、一人、二人と遅れて教室に入ってくる人がいて、そのたびに授業が中断され、先生もどうしたのかねと苦笑していた。到着が遅れて、日曜日の夜や、月曜日の朝になってしまった人たちが、所定の手続きをしてから教室に向かったためこんなことになったらしい。
一時間目はまだ教室に入りきれたのだが、二時間目の途中で、入ってきた人たちには座るべき席がなかった。先生はこれじゃやってられんと言って、教室を出て行った。しばらくして戻ってきた先生は、我々学生たちに、クラスを二つに分けることを告げた。このクラスと、チェコ語で教える一番下のクラスの間にもう一つクラスをつくることを事務局と決めてきたらしい。
下に移る人はついてきてくださいと言ったのは、まだ若い女の先生だった。学生たちが顔を見合わせながらどうしようと考えている中、真っ先に立ち上がったのは私だった。去年は一番下、今年は舌から二番目と順番に上がっていくほうがいい。教科書も去年の師匠のクラスと同じだったし、来年このクラスに来ればいいやと考えたのだ。
教室を出る前に先生のところに行って、来年よろしくお願いしますと言ったのだけど、三回目の翌年は、師匠のクラスに放り込まれたので、この先生の授業は結局受けられなかった。いや、一こまちょっと受けたけど、自己紹介やら中断やらで時間を取られて、どんな先生なのか理解できるところまではいかなかった。
結局、小さな教室に詰め込まれていたクラスの半分、十五人ぐらいが下に移ることを決めた。新しい先生の話では、最初は英語で教えるクラスを担当する予定だったのが、英語やドイツ語で授業を受けることを希望者が少なかったのと、チェコ語での授業を希望する学生が多かったのとで、担当を変更することになったらしい。去年のサマースクールの最後のアンケートに、日本人みんなであれこれいちゃもんをつけたおかげか、クラス分けのテストも含めて、運営は驚くほど向上していた。いや、違うな、これは単なる偶然だろう。
とまれ、新しいクラスで使う教科書は、去年の一つ下の授業で使った二冊目の教科書を使うことになって、去年やった部分はやらずに残っている部分を進めることになった。これは、全部で三人、経験者がいた賜物である。
一年目の件で書き忘れたが、当時のサマースクールには、アメリカ人の参加が結構多かった。英語が通じるのが当然だと考え、他の言葉が存在することすら意識しないのが典型的なアメリカ人たと思っていたので、意外だった。話を聞いてみると、アメリカからの参加者は、チェコやスロバキアからの移民の子孫たちで、祖父母、曾祖父母の言葉に触れてみたくての参加したと言う人が多かった。
クラスにもそんなアメリカ人が一人いたのだけど、言葉の使い方に関して楽しい奴だった。チェコ語にはラテン語起源の語幹に接尾辞「ovat」をつけて動詞化したものが、「studovat」をはじめかなりの数があるのだが、こいつはチェコ語の動詞を知らないときに、英語の動詞をチェコ語風に読んでそれに「ovat」をつけてごまかしていたのだ。問題なくチェコ語の言葉が出来上がることもあり、ちょっと修正が必要なことも、ぜんぜんだめなこともあったが、この姿勢は見習うべきだろう。
ということで、私も昔『動物のお医者さん』に出てきた「コンタミ」という言葉に「ovat」を付けてみた。残念ながらちょっと修正が必要だったけれども、「コンタミノバット」という動詞が存在したのだ。それでこの「コンタミノバット」はお気に入りの言葉の一つとなったのだった。この年の出来事ではなかったかもしれないけど。
以下次号。
7月13日14時。
以外なところで役に立つ漫画であった。7月13日追記。
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