2016年06月29日
イギリス、EU脱退(六月廿六日)
ついに来るべきものが来た、起こるべきことが起こったというのが正直な感想である。現在のEUという組織の運営を見ていると、遅かれ早かれ、中心から疎外されているどこかの国が脱退することになるのは、予想されることであった。その最初の脱退国がイギリスであることは、EUにとっては幸いなことである。イギリスでの国民投票の結果を突き付けられて初めて、EUが、EUの中心国家であるドイツとフランスが、改革の必要性を口にするようになったのだから。これが、チェコやハンガリーのような数合わせとしてしか考えられていない国だったら、EUが改革に向けて舵を切るようなことにはならなかっただろう。
今回のイギリスの脱退の原因は、一言で言えば、EUが、ドイツとフランスが、他の加盟国の意見を聞かず、他の加盟国の置かれた状況に全く配慮せず、EU的正義に基づいた法律や、ルールの導入を強要してくることにある。そのくせドイツやフランスには様々な例外が認められている(少なくともそう思われている)。それにうんざりしていたのは何もイギリスだけではない。そのために新しい加盟国、特に旧共産圏の諸国では、どこでも反EU的な風潮を押さえるのに苦労している。今のところは反EUを主導しているのが極右の過激派なので、そちらに対する嫌悪感から、反EUの声はそれほど高まっていないが、何かをきっかけにして社会の空気が一気に反EUに向かう可能性は高い。
それが、イギリスでの騒動のおかげで、ヨーロッパ基準というものの導入を、これまでの強制から、各国の事情に応じて弾力的に行える方向に変えようということで、EU主要国家の意見がまとまりつつあるようである。これが実現されれば、しばらくは反EUを抑えて、EUの中で改革を訴えようという考えが主流になるだろうから、親EU派は一安心というところだろう。
ただ、理解できないのは、このEUの方針の変更は、これまでもイギリスや弱小諸国が何度も訴えてきたことなのに、ここまで無視されてきたことである。そして、イギリス脱退に、ドイツ、フランスが危機感を感じた瞬間に、取り上げられるのだからふざけた話である。
ちょっとカッコつけた言い方をすれば、本来主権を持つ国家が集まってEUという連合体を形成していたはずなのに、いつの間にかEUの主権のもとにそれぞれの国家が存在するという方向に向かい始めたのが問題なのだ。だから、かつての大英帝国の末裔が耐えられなかったのは当然だし、他国の主権のもとに存在するのに慣れているスコットランドや北アイルランドで、EU残留の票が多かったのも当然なのだろう。
今回のEUの危機を受けて、一つのヨーロッパとか、統一されたヨーロッパなんて言説がしばしば聞かれるが、そんなもん嘘である。嘘でなければ「チェコスロバキア人」並みの幻影である。地理的にヨーロッパが一つなのは、イギリスがEUから脱退しようがしまいが変わらない。そしてEU=ヨーロッパだと、傲慢にも言うのなら、EUの内部は一つではなく、いくつかのグループに分かれている。
イギリスの国民投票の結果への対応が、図らずも露呈させてしまったが、まずEUの意思決定に決定的にかかわっているのがドイツとフランスである。EC時代の初期加盟国が二つ目のグーループを作る。さらに元西側で遅れて加盟した諸国と、旧共産圏諸国がそれぞれ、第三、第四のグループとなって、EU内での扱いには大きな差別がある。イギリスの場合には、ドイツと、フランスに並ぶ大国でありながら、第三グループにいるという微妙な立場に置かれていたのである。
こんな状況で、ドイツやフランスの政治家が、EUは一つだとか、加盟国は平等だとか言うのであれば、それは大きな嘘であり、チェコなどの国の政治家が言う場合には、それは願望であって理想だということになる。政治家には嘘つきの能力も必要なのだろうけど。
そして、政治的に統一されたヨーロッパというものは、これまで存在しなかったし、現在も存在しない。イギリスの誰かが言っていたように、ヨーロッパ統一というのはナポレオンの夢であり、ヒトラーの妄想でもあった。そう考えると、現在の覇権を求めるEUを主導するのがフランスとドイツであり、その構想がウクライナ、ロシアに手を出したことで頓挫に向かい、イギリスによって止めを刺されたという事実は、なかなかに象徴的である。
これをきっかけに、EUが各国の多様性を尊重した連合体というかつての姿を取り戻してくれることを願ってやまない。そうなれば、チェコなどの弱小国家もEU内で呼吸しやすくなるし、イギリスも国民投票まで行って脱退を可決した甲斐があるというものだ。
日本のネット上でも、チェコのテレビでも、イギリスの脱退によってどんな問題が発生しうるかについての議論がやかましいが、典型的なためにする議論である。即時にイギリスがEUから脱退するわけでもないし、脱退したからといって、EU諸国とイギリスとの関係が急速に変わるとも思えない。
両者が理性を持って脱退後の条件について話し合いを行えば、大部分、特に経済的な面に関してはほぼ現状維持ということになるはずだ。EU諸国にとってイギリスが、イギリスにとってEU諸国が、重要な貿易相手であるという点では、脱退しようがしまいが変わらないのだし、現在の関係が両者にとって都合のいいものであれば特に変える必要もない。ただ、EU側が、加盟国の大半の意向を無視して、脱退したイギリスに対する報復の意味で、厳しい条件を課しかねないという不安はあるが、そんな組織だったらとっとと崩壊したほうがましというものだ。
おそらく、現在から大きく変わるのは、これまでEUに追随することを強制されてきた移民政策や、ヨーロッパからの労働力の受け入れという部分だろうが、これも現在イギリスで仕事えて働いて生活の基盤を築いている人を、EUを脱退したからという理由で追放するようなことはするまい。新たにイギリスに行って仕事を得るのは難しくなりそうだが、そこは脱退の直接の原因の一つとなった部分だけに、イギリスとしても譲れないところだろう。
結局、イギリスの脱退可決は、EUという組織そのものには大きな衝撃で、加盟各国の政府にとっても大きなショックだっただろうが、一般の市民にはそれほど大きな影響はないはずだ。むしろ、EUの強権的な態度が改まる可能性があるのだから、いい結果をもたらす可能性も高い。現在のマスコミの論調は、イギリスの決定を批判する風潮を作り出したがっているEU側か、経済的な混乱を引き起こして、そのどさくさにぼろ儲けをしようとたくらんでいる連中の差し金であるに違いない。
6月28日0時30分。
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