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2016年06月19日

クノフリカージ(六月十六日)



 今から十五年ほど前、2000年前後にチェコに滞在していた人は、みな次の質問に悩まされたはずである。斯く言う私自身も、会う人ごとに、日本人だと知られるたびに、繰り返し質問をされ、うんざりしながら頭の中で答えを作り上げて、うんざりした口調で口に出していた。
「あのさあ、チェコの映画で見たんだけどさあ、日本語にはナダーフカってものがないって聞いたんだけど、ほんとなの?」
 チェコ語の「ナダーフカ」というのは、何か不快なことが起こったときなどに、思わず口から漏れてしまう罵りの言葉である。だから日本人が、「くそ」とか、「畜生」とか言ってしまうのも、ナダーフカにあたるはずである。そういう説明をして、日本語での本来の意味まで説明したのに、なかなか納得してくれずに、「でも映画では……」と言われたり、「もっと下品なのはないの」などと聞かれたりしていた。気分がいいときには、自分では絶対に使わないだろうけど、漫画や小説に出てきて存在を知っている言葉を教えたりすることもあったが、大抵は日本語ってのはそんなもんなんだよで話を終わらせていた。チェコ語もそこまでできていなかったし。

 では、チェコ語でよく使われるこの手の言葉となると何だろう。日本人の耳に優しい言葉としては「サクラ」がある。日本語で言うときよりは、「サ」を強めに、「ク」を軽めに発音するとチェコ語っぽくできる。派生バージョンとしては「サクリーシュ」なんてのもあるかな。本来は、「スバティー(聖なる)」などとも関係のある言葉らしい。
 それから、キリスト教を信じている人は嫌がるかもしれないけど、イエスさまの名前から、「イェジーシュ」とか「イェージシュ」なんて言葉を使う人もいる。マリアさまも一緒に、「イェージシュ・マーリア」のほうが一般的かな。こちらの上級編としては、存在感の薄い父親の名前を添えて、「イェージシュ・マーリア・ヨゼフェ」と一息に言うものがある。最後が「ヨゼフェ」と呼格になっているのが肝らしい。これはキリスト教関係者がいないことを確かめた上で、チェコ人の前で使うと、笑ってもらえるので非常に重宝する表現である。
 キリストの足を意味する言葉の呼格「クリストバ・ノホ」も、「チェトニツケー・フモレスキ」で使われていたし、もっとも神聖であるはずの言葉が、卑俗な罵詈雑言の言葉として使われているのである。このことは、中世以前の日本において賎民とされた人々が、実はその一方で天皇と直結する回路を有していたという学説を思い起こさせ、キリスト教世界においても、聖なるものと賎なるものとの間に何かしらの回路が存在していたのではないかと考えてしまう。堀一郎氏とか、エリアーデあたりの著作で何か読んだ記憶がなくもないのだけど、すでに忘却のかなたである。時の流れというものは残酷なものだ。

 2000年代初頭の陸上の世界選手権で、槍投げの鉄人ヤン・ジェレズニーが、投擲に失敗した際に、思わず叫んでしまう様子が世界中に配信された。ジェレズニーの声までが聞こえてきたかどうかは覚えていないが、口の形の動きから明らかに「ク……」と叫んでいた。意味は聞かないでほしい。
 ジェレズニーに限らずスポーツ選手は、ナダーフカが口から出てくることが多いらしい。テニスの世界では、チェコ語の罵詈雑言集というものが存在していて審判に配られているという話を聞いたことがある。選手がチェコ語だからわからないだろうと思って、審判を罵るようなことをいうと、そのリストに基づいて審判侮辱でペナルティが与えられるようになっているのだそうだ。ツアーを回っているチェコ人選手の数は多いから、何らかの対策は必要だったということか。

 さて、表題の「クノフリカージ」である。これこそ日本語にはナダーフカはないという説を広めてくれたありがたい映画なのだ。チェコ人の中には、映画の内容は知らないけれども、この説だけは知っているという人も多い。私も映画全体の内容はほとんど覚えてないけど、この日本語に関する部分だけは覚えている。
 チェコの映画なのに、なぜか長崎に原爆が落とされた日の、本来の目標であったといわれる小倉の様子から始まる。土砂降りの雨に打たれる家の中で、三人の男たちが議論めいたことをしている。エンドロールに出てくる配役表によれば、「年寄りの日本人」「髭の日本人」「若い日本人」となる。 日本語にはこのいやらしい雨を罵る言葉もないんだから、英語で罵る練習をしようという話になって、延々英語の汚い言葉を叫び続けるという他愛もない話である。日本語で「くそったれの雨がふりやがって、畜生め」なんていえば、十分に罵っていることになると思うのだけど、映画のストーリー上それではいけなかったらしい。

 もともと、この部分は、古い日本映画の一シーンを切り出してきて、冒頭に据えたものだと思っていた。出ている人たちも何か古い日本のモノクロ映画に出てきそうな感じの演技だったし。しかし、最近知り合ったプラハ在住二十年という人が、実は「若い日本人」を演じたのだということを知ってしまった。素人三人でチェコテレビのあるプラハのカフチー・ホリの撮影所に通っていたらしい。そして、さらに衝撃的だったのは、「髭の日本人」を演じていた人が、今年の春にオロモウツまで訪ねてきてくださった方だったという事実だ。教えてくれた「若い日本人」に、思わずチェコ語で「ティ・ボレ」と言いそうになってしまった。
 録画してDVDに落としたものがあったので、確認のために見てみたら、「若い日本人」は、確かに最近知り合ったあの人だった。でも「髭の日本人」は、今のほうが印象がはるかに柔らかくなっていて見ただけでは気付けそうもない感じだった。最後の配役表を見て確かに春に来られた方だと確認できたのだが、瑕疵があった。「若い日本人」と「髭の日本人」を演じた人の名前が入れ替わっていたのだ。
 まあチェコだし、よくあることだ。尤も自分が映画のスタッフだったら、これを見て「イェージシュ・マーリア・ヨゼフェ」とか、「ド・プル……」と叫ぶのだろうけどね。
6月17日14時30分。



 どのカテゴリーに入れるか悩んだが、チェコ語にしておく。6月18日追記。
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