2020年10月21日
科学アカデミー(十月十八日)
またまた学術会議、いや学術会議を巡る報道の話になるのだが、まとめてやつけてしまう。だって、単なる諮問機関でしかない、国民のほとんどが存在すら知らなかった学術会議のことを、外国の科学アカデミーに相当するとかいう、思わず、目を疑ってしまうような報道、誰の発言だったか忘れたけど、があったんだよ。それはチェコの科学アカデミーに失礼すぎる。
チェコの科学アカデミーは、諮問機関などではなく、理系から文系にまたがるあらゆる分野をカバーする研究機関である。研究分野ごとにいくつかのセクションに分かれており、研究者たちは傘下に設立されたそれぞれの研究所に属して基礎研究を中心とした研究活動を行っている。所属する研究者の数は、数千人にのぼる。
北海道大学のスラブ研究所や、東京大学の史料編纂所のように、独自の教授、准教授などを擁しているが、違いは他の大学に属していないという点で、言ってみれば、大学から教育機関の側面を排除して、研究機関としての役割に特化させたような組織と言ってもいい。その意味では研究分野は限定され、規模も小さいけど、日本の日文研なら似ていると言われても腹は立たない。実際にはその日文研のような研究機関をいくつもまとめて統括するのが科学アカデミーである。
外国の研究機関との共同事業も行っているし、外国から期間を定めて研究者を招聘することもあるし、逆に送り出すこともある。学会などのイベントの主宰もするが、この辺もすべて普通の大学でも行っていることである。ただし、科学アカデミーには学生が存在しないので、授業は行われないが、所属する研究者が、他の大学に求められて非常勤の形で授業を持つことはある。研究成果の社会への還元は行っているのである。
同時に、まだ学者としての地位を確立できていない若手の有能な研究者を、研究員として採用して育成している。大学の講師が授業や、学内の雑務で研究の時間がなかなか取れないことを考えると、研究環境としてはこちらの方が上かもしれない。ただし、採用されるのはなかなか難しく、研究分野ごとに定員が決まっていて、欠員が出た場合に、公募で採用を決めるんだったか、契約期間内の研究業績で次の契約が決まるなんてのもあったかな。准教授、教授への昇進の条件も大学とほぼ同じで、教授は審査に通れば、大統領によって任命されることになっている。
知名度も、学術会議とは雲泥の差で、大学教育を受けた人であれば、その存在を認識しているはずだし、ニュースで説明なしで科学アカデミーという言葉を使っても、ほとんどの人が何を指しているのか理解できるレベルにある。だからこそ、2018年の大統領選挙において、個人としてはまったくといっていいほど知名度のなかったドラホシュ氏が、元科学アカデミー所長という肩書きの知名度のおかげで、一躍ゼマン大統領の対抗馬にのし上がることが出来たのである。
こういうチェコの科学アカデミーと、大学の教授たちが任命されるらしい日本の学術会議が似ても似つかない存在であることは言うまでもない。同時に科学アカデミーに相当する存在というのが、ありえない発言であることも、納得されよう。それとも、チェコ以外の国の科学アカデミーは、日本の学術会議的なのか? そんなアカデミーなんて必要ないと思うけど。
それから、首相を擁護して学術会議を否定しようとする人たちの中には、外国の科学アカデミーは寄付に頼って運用されていて国費は使われていないと主張する人もいたけれども、それもなあ。少なくともチェコの科学アカデミーは国立である。寄付を受けつけていないわけではないだろうが、それだけで運営できるような小さな組織ではないのである。お金にならない基礎研究が中心だから、企業からの寄付も集まりにくいだろうし、国費で運営するのが妥当というものである。
他の国の科学アカデミーも、おそらくはチェコのものと大差ないと思うのだけど、寄付だけで運営されているというのはどこの国のアカデミーなのだろうか。具体的な国名が挙げられていないと、信憑性が感じられなくなり、何も知らないくせに思いつきで発言しただけなんじゃじゃないかと疑ってしまう。
学術会議をめぐる議論は、首相を批判する側も、擁護する側も、どちらも不確かな、いい加減な情報が多い。だからこそ、どちらにも賛成できないのだし、真相は首相が部下に適当に処理しといてといったら、適当に6人だけ選んで任命しないことにしたというところじゃないかとも思う。政治資金の問題ではなく、例の秘書が、秘書がなんて言い訳は通用しないから、事情の説明もしないんじゃないかと。学術会議側の内紛って可能性もなくはないかな。まあ事情なんて特に知りたいとも思わないけどさ。
学術会議になんて、すでに教授になりおおせてしまった人たちの集まりに出す金があるなら、恵まれない環境で頑張っている若手研究者を支援するのに使った方が、学問の自由を守ることにつながりそうである。
2020年10月19日23時。
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