2020年10月19日
学問の自由(十月十六日)
繰り返しになるが、菅首相が学術会議のメンバーの任命拒否をした件に関しては、批判する気も擁護する気もない。日本の首相としてふさわしい行動だったのかどうかは、法律をもとにしての議論が不毛なものになっている以上、有権者が選挙で判断を下すべきことであろう。判断の材料となるのは、この件だけではなく、首相としての行動すべてになるだろうけど。
それにしても、政治家が暴言などの問題を起こすと、たいていの場合には辞任も求める声が上がるわけだが、有権者の選挙によって選ばれて就任した国会議員や自治体の首長などに、病気などの特別な理由なしに、自分の都合で勝手に辞任する権利はあるのだろうか。その政治家が政治家としてふさわしくないと考えるのなら、辞任を迫るのではなく、リコール運動をするか、次の選挙で落選させるかするのが、選挙に基盤をおく民主主義の正しいあり方ではないのか。
それはともかく、首相を批判する側が、学問の自由の侵害を理由に挙げていたのにはあきれてしまった。お前らの言う学問の自由ってのは、たかだか学者の会議のメンバーに任命されるかどうかで左右されるような安っぽいものでしかないのか。その程度の学問の自由ならなくてもかまわない。世間知らずの学者が任命されなかった悔し紛れに発言するのならまだ、理解できる気はするけど、政治家がそんな発言をするのは政治家としての資質を疑いたくなる。
そもそも学問の自由というのは、どんな学問、研究をしていても、それだけを理由に処罰されることはなく、その研究を禁じられることもないということであろう。そして、学問の自由と、その学問、研究、ひいては研究者がどのように評価されるかは全く別問題である。自分の学問が、国に、もしくは世間に評価されないことを僻んで、学問の自由がないなどと叫ぶのは自由だけど、飲み屋で酔っ払ってならともかく、素面でやるのは恥さらしでしかない。
それを、現代芸術に関して表現の自由とうるさい人たちもそうだけど、自分の都合のいい方向に拡大解釈する人が多いのが問題である。現代芸術を公費で支援する必要があるという人の存在は否定しないけれども、個人的には、現代芸術には赤瀬川源平の1000円札コピー以上のものは存在しないし、そんなわけのわからないものに金をつぎ込むぐらいなら、文化財保護とか遺跡の発掘と保存に使った方がはるかにましだと思う。それは学術会議とやらにつぎ込まれているお金も同様。
学問の自由に関して、もう一つ考えておかなければいけないことは、政治的な理由で学問や研究を禁じられないということである。かつての共産党政権下のチェコスロバキアでは、この学問の自由がかなり制限されていた。その時代に実際に学問の自由を奪われていた人たちを直接知っている人間としては、今回の件で軽々しく学問の自由を口にする連中にはむかっ腹が立って仕方がない。
我がチェコ語の師匠は、大学で勉強することは許されたが、本来希望していた英語学を学ぶことはできなかった。それは、学力の問題ではなく、当然経済力の問題でもなく、地主だった母親がかつて農業の集団化に抵抗して土地の供出を拒んだ過去が咎められたのだった。敵性原語である英語を共産党政権に反対したり、亡命したりする可能性の高い人間に大学で専門的に学ぶことは許されなかったということらしい。
師匠は、英語を勉強するために共産党に入党しようかとまで考えたと言っていた。入党すれば許可が出るかもしれないと関係者から言われて悩んだらしいのだが、農地を接収されて亡くなるまで共産党への怨みつらみを消さなかった母親を裏切ることはできなかったという。このことは、言い換えれば共産党員、もしくは共産党員の子弟であれば望む分野の勉強をすることができたということでもある。共産党幹部の子弟だと多少学力が足りていなくても好きな学科に進めたともいう。大学進学自体を禁じられた人たちもいたから、師匠は大学に入れただけでも恵まれてはいたのだと言ってはいたけどさ。
師匠が、それでも外国語、特に英語とのかかわりを持ちたくて、チェコ語専攻でも外国人へのチェコ語教育を研究分野に選ん出くれたおかげで、わがチェコ語がここまで上達したと考えると複雑なものもあるのだけれども、政治的な理由で十分以上の学力のある学生が自分の希望する分野に進めないのは間違っている。同時に必要な学力の備わっていない学生が入れる大学があったり、学力の代わりにスポーツの能力で体育学部以外の学部に入れるってのもおかしいと思う。
長くなったのでまたまた続く。
2020年9月17日16時。
タグ:日本
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