2020年10月18日
学術会議?(十月十五日)
すでに旧聞に属するのかもしれないが、日本のネット上で気になるニュースとしては、学術会議にまつわるものがある。一時は誰も彼も、それこそ猫も杓子もという感じで、それぞれ好き勝手な意見を述べていて、混沌とした状況だった。例によって、同レベルで語ってはいけないことを、ごちゃ混ぜにした議論が多く、マスコミ言論人や政治家のレベルの低下を如実に表していた。
正直な話、こんな会議の存在は、騒ぎが起こるまで知らなかったのだが、当事者、学者とか政治家を除いて、騒ぎが起こる前から会議の存在を知っていて、会議が何をしているのか知っている人はどのぐらいいたのだろうか。マスコミで賢しらに見解を述べている人の大半も、実は知らなかったんじゃないかと疑っている。ようはその程度の、あってもなくても誰も困らない、誰も気にしない組織でしかないということだろう。
だから、就任したばかりの首相が、推薦された人の任命を拒否したというニュースの見出しを見たときには、また面倒なことをはじめたものだと思った。どうでもいい組織なんだから誰がメンバーでも実害はないわけだし、この手の税金垂れ流しのための組織は、民主党が政権を取ったときに事業仕分けと称して、整理しようとしたらしいとはいっても、今でもいくつも残っているわけだしさ。税金も無駄遣いをやめるために廃止するなら、それはそれでかまわないとは思うけど。
記事を読んで、任命を拒否したのが、全員ではなくてたかだか一部に過ぎないことを知って、何が問題なのかは理解したけれども、どうしてここまで大騒ぎする必要があるのかは理解できなかった。こんなささいなことで大騒ぎしても何か得るものがあるとも思えなかったし、だからといって任命拒否を支持する気もないし、首相の任命拒否の裏側に深謀遠慮を読み取ろうとするのにも賛成できない。せいぜいなんか気に入らないとか、担当の部下の提言にうなずいただけというのが関の山じゃないのか。
ただ、批判する側にしても、擁護する側にしても、議論の展開の仕方に納得の出来ないところがいくつもある。この件に関して最初に問題にしなければいけないのは、首相が任命を拒否することができるのかどうかという点である。その際に、「違法だ」とか、「合法だ」とかいう言葉が使われることが多いのだけど、法律には素人の普通の日本語を使う人間の感覚で言えば、「合法」「違法」という評価を下すのであれば、判断の基準となる法律があるはずである。
その法律に、「任命しなければならない」と書かれていれば、今回の件は違法だし、「任命しなくてもいい」とか、「任命されるとは限らない」と書いてあれば逆に合法になる。問題は、単に「任命する」とか、「任命される」とある場合で、これなら簡単にどちらとも言えないから、解釈の余地があって、議論になるのはわかる。ただ、これまであれこれこの件に関する記事を読んだ限りでは、「合法」「違法」の判断基準となる法律を引いたものは一つもなかった。
チェコでも任命権が議論の対象になることがある。チェコでは大学教授は、大学における昇任審査に合格した上で、推薦を受けて大統領が任命することになっているのだが、ゼマン大統領が何度か任命を拒否したのだ。他にも総理大臣が推薦した大臣の任命を拒否したこともあるかな。どちらも政治問題になり、大領領の職権を逸脱していないか、つまり違法ではないかと議論がなされた。その際、議論の基本になったのは、大学に関する法律と憲法で、どちらも大統領は推薦された人物を任命するというようなことしか書かれていないため、任命を拒否できるかどうかで意見が分かれるのである。
チェコの法律の専門家は、「任命する」とある場合には、「任命しなければならない」と解釈するのが一般的だとして、ゼマン大統領の任命拒否を違法だと考える人が多いようだが、反対の意見の人もいるので完全な結論は出ていない。ゼマン大統領自身は、自分は国会での議員による選挙ではなく、国民の直接選挙によって選ばれた大統領だから、これまでの間接選挙で選ばれた大統領よりも職権の範囲が広くて当然だという主張で、自らの行為を正当化している。ただし、この主張に関しては、法律にも憲法にも記載がないため、正統性を認める人はほとんどいない。
話を戻そう。「合法」「違法」と判断をするなら、普通に考えれば法律を引用するのが当然なはずなのに、それがなされないということは、この学術会議の任命に関しては、そもそも規定した法律がないということじゃないのか。それなら今回の首相の任命拒否は、違法というよりは、せいぜい慣例を無視したというところだろう。それだけでこんな大騒ぎ。日本は平和だねえ。
もちろん、法律家という人たちは、普通の日本人には理解できない日本語で話すことも多いから、「合法」「違法」というのを我々とは違った使い方をする可能性もあるけど、それならそうと説明するべきであろう。それとも、法律用語の多くがが普通の日本人には理解する気にもなれないものであっることを、認識していないのか。
この件、もう少し続く。
2020年9月16日14時30分。
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