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2016年06月11日

オーストリア大統領選挙(六月八日)



 すでに旧聞に属してしまうが、先日チェコの隣国オーストリアで大統領選挙が行われた。第一回投票へ向けての選挙活動は特に注目されておらず報道もされていなかったので、誰がどんな主張をしていたのかなんてことはまったく知らない。ただ、決選投票に進みそうなのが、緑の党関係者と、極右政党の関係者だということを聞いて、ヨーロッパの状況もここまで深刻化したかと嘆息するしかなかった。今回はオーストリアではあるが、大なり小なり外の国でも同じような状況に近づきつつあるはずである。
 議会制民主主義を標榜する国の例に漏れず、チェコにもさまざまな政党や政治団体が存在する。極右から極左まで幅広い主義主張が存在して、それぞれの立場から議論が行われるのは、主義主張の正当性はともかくとして、悪いことではない。ただ、他者の意見を聞かない、自分の考えだけが正しいと何の根拠もなく主張するような連中が存在すると、議論にならなくなる。
 独善的で議論にならないと言う点での双璧が、緑の党と極右である。この二つが、国会に議席を持っていないという点だけでも、特別な法律のおかげかもしれないが、チェコの社会はドイツやオーストリアなどよりもはるかに健全である。

 この二人の中からひとりを選ばなければならないオーストリア人も大変だなと思いながら、ニュースを眺めていたら、決選投票に進めなかった候補者の属する政党が、次々に緑の党の候補者に投票するように支持者に指示を出し始めた。一説によると政府与党の影響力の強い国営放送までもが、情報操作の形でその動きに協力したらしい。選挙の際の主義主張はとりあえずうっちゃっておいて、極右の大統領が誕生するのだけは防ごうということになったようだ。
 この手の選挙協力というものは、どうも好きになれない。普段はお互いに批判し合っている政党が、議席を確保するためだけに、手を結び、選挙が終わったらまたののしりあいを始める。政策や主義、主張について話し合って、合意に達した上でと言うのなら話は別だが、いや、合意に達していても選挙後に手のひらを返すから、同じことか。

 それに、自党で候補者を立てられない場合に、支持者に、主義主張が同じわけでもない他党の候補者に投票するように指示するのにも納得がいかない。ここは有権者個々の判断に任せるべきであろう。それなのに他の政党と談合して、ここではうちが協力するから、あっちではそっちが協力してくれなどという合意を結んで、支持者を使った取引をするのは、支持者というものを、自らの勢力を拡大するための道具としてしか見ていないように感じられる。結局、政治家にとって、有権者というものは、個々の人間の集合体などではなく、数に過ぎないということなのだろう。
 だから、こういうのを見ていると、EU型の民主主義というのは、議論がどうこう言う以前に数の暴力なのだと思わされる。それにEUがチェコなどに、移民の強制受け入れを拒否するならさまざまな助成金をカットし、受け入れるならその分金を出すといっているのを考え合わせると、経済力の暴力でもある。票なんて、合法非合法はともかく、金で買えるわけだし、実際に選挙をめぐる汚職というものは後を絶たないのだから。

 結局オーストリアの大統領選挙は、即日開票の分では決着がつかず、郵送で投票が行われた分を合わせて、緑の党が勝利した。ただ、即日開票の分では極右が勝っていたのに、郵送の分で逆転が起こったので、極右側が郵送分の開票の際に恣意的な操作が行われたと言い出すだろうと思っていたら、案の定だった。実際のところどうだったのかはともかく、極右以外の政治勢力がなりふり構わず極右の大統領選出阻止に動いた結果、疑われる余地を残してしまったのは確かである。
 オーストリアの政局についてはくわしいわけではないが、おそらく、このような主義主張をそっちのけにした数取りゲームに走ってしまった既存政党に対する失望、いや絶望が緑の党と極右の台頭を促したのだろう。緑の党や極右勢力の台頭には、必ず原因があるはずであり、政治家が何を言おうと、それは社会に問題がある証拠である。その問題がある状態を、この二党が大統領選挙の決選投票に進出するところまで放置したのだから、オーストリアの政治家の怠慢もたいがいなものである。この二つの勢力の台頭は、あくまで結果であって、社会不安の原因ではないのだから。

 チェコでは、幸いなことに、緑の党は国会で議席を失い、極右勢力も国会に議席を有していない。ただ、これは全国で5パーセント以上の得票がないと、ある選挙区でどんなにたくさんの得票があっても、議席を獲得できないという下院選挙の特別ルールのおかげもあるので、このままの状態が続くと、ある日突然、極右勢力が5パーセントの壁を越えて、一気に大量の議席を獲得して、かつての緑の党のように、連立与党になってしまうかもしれない。そんな日の来ないことを祈りつつ筆をおく。
6月10日21時30分。


 何か妙に歯切れが悪いなあ。キリスト教も嫌い、緑の党も嫌い。両者の信者の少ないチェコは住みやすいのである。6月10日追記。
posted by olomoučan at 07:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 戯言
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