2016年05月31日
ファウナ、フローラ(五月廿八日)
おそらく外国語を勉強した人は皆苦労したし、今も苦労しているだろうと思われるのが、動植物の名前である。問題のひとつは、日本語における名称を知らないものがあることだ。日本で目にすることのできるものなら、たいていは日本語の名前は知っていると言いたいところだけれども、動物学者でも植物学者でもない身としては、そんなことは言えない。
名前自体は知っているのだ。日本にないものでも名前自体は知っているものもある。問題は、名前を聞いても、実際にどの植物、どの動物を指すのかわからないものがあるということだ。椎、楠、たぶ、樫、樅、楢、どれも木の名前であることは知っているけれども、どの木か見分けろといわれたら、見分けられる自信はない。アヤメ、ショウブ、カキツバタを見て、それがどれかを見分けられる人なら問題はないのだろうが、チェコ語の「コサテツ」の日本語名がどれなのか悩んでしまう。
チェコで動植物を見て日本のものと同じなのか悩むことも多い。一般に、ブラベツは雀と訳されるけど、日本のものと同じなのか確証はない。以前、チェコ語のチャープをコウノトリだといったら、日本のコウノトリとチェコのコウノトリは、別種らしいと言い出した人がいた。チェコには日本のコウノトリはおらず、日本にもチェコのコウノトリはいないのだから、これはどちらもコウノトリで処理しておけばいいと考えている。チェコの人がよくタヌキだというチェコ語のイェゼベツは、実は日本のアナグマで、日本にはどちらもいるし、最近はチェコにもタヌキが生息しているらしいから、区別したほうがよさそうだ。ただ日本国内でもタヌキとアナグマとムジナの呼称には混乱があるらしいからややこしい。
最近悩むようになったのが、タカとハヤブサの違いである。日本語のタカは、チェコ語の「ソコル」だと思っていたのだが、もう一つ「イェストシャープ」という鳥とどちらだかわからなくなってきた。それは、テニスのデビスカップなどで、判定に不満がある選手が異議を申し立てたときに、確認のために使うホークアイシステムが、チェコ語で、「イェストシャービー・オコ」と呼ばれていて、「ソコル」から派生した言葉は使われていないせいだ。日本語でタカと言うと、「鵜の目鷹の目」なんて言葉もあるぐらいだから、目のいいものとしてのイメージがある。そうすると、タカはチェコ語で「イェストシャープ」なのだろうか。
しかし、実際に遠くから見て、ハヤブサとタカの区別がつく人はそんなにいないだろうし、日本人ならワシやタカの仲間で、小さめのものはとりあえずタカと呼び、ハヤブサを使うのは本当に種類を区別する必要があるときだけという使い分けをしている人が多いだろう。日本語のハヤブサには、バイクの名前に使われたように、「速い」というイメージがある。だから「速い」というイメージが必要なときだけハヤブサと訳して、そうでない場合には、生物学的な区別は無視して、とりあえずどちらもタカと訳すことにしている。チェコ語の「ソコル」に、ハヤブサ的なイメージがあるのかどうかは、よくわからない。
チェコ語を使うときに、困ることのひとつが、タカのような同種の動物、植物を一まとめにして示す言葉がしばしば欠如していることである。日本語だと、ミツバチでもアシナガバチでもスズメバチでも、とりあえずハチと言って済ませることが多いが、チェコ語ではハチに当たる言葉がないので、フチェラ、ボサ、スルシェンの中から選んで使わなければならない。カラスもそうだ。ハシブトガラス、ハシボソガラス、ミヤマガラスなんて種類があるということは知っているが、普通はあの手の黒い鳥はまとめてカラスで済ます。でもチェコ語には、カラスっぽいブラーナ、ハブラン、クルカベツをまとめて言う言葉は存在しない。
かつて、チェコの十種競技の選手が、日本で大会に出たときのエピソードとして、「ありがとう」と言う代わりに、「クロコダイル」と言ってしまったという冗談を聞いたことがある。日本人にはちっとも面白くないのだが、チェコ人には結構受けていた。チェコ語でワニの一種であるアリゲーターを「アリガートル」というので、「ありがとう」という表現を使うためのヒントとして「アリガートル」という言葉を覚えていたのに、ワニの一種であるクロコダイルと混同して間違えたということらしい。説明されても笑えるかどうか微妙なところだけど、チェコ語にはワニにあたる言葉もないのである。
それから反対に、必要以上に分類されていて困ることもある。動物の場合には、オス、メス、子供でそれぞれ別の言葉を使うし、家畜の場合にはさらに細かい分類をされることもある。ただ、オスとメスのどちらの言葉を、一般的に使うかは決まっていることが多いので、一々確認しなければらないと言うわけではない。犬ならペスとフェナのうちオスのペスを使うし、猫ならコチカとコツォウルのうちメスのコチカを使うと言う具合にである。
さて、そこで問題、夏目漱石の『吾輩は猫である』の場合には、コチカとコツォウルのどちらを使うのだろうか。一般的にネコと考えればコチカだけど、あの吾輩がオスかメスかを考えるとコツォウルのほうがいいような気もする。
題名に使った「ファウナ」と「フローラ」の使い方は、多分正しくない。でも、動植物の名前の使い方に問題があることを人に言うときには、「ファウナとフローラは難しいんだよ」なんて言ってしまう。何となく専門家の発言っぽく聞こえて、説得力がありそうでしょ。
5月29日22時。
うーん、最初の入りがいまいちだなあ。5月30日追記。
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