2016年05月16日
EUの傲慢前編(五月十三日)
先日、ハンガリーとポーランドの現政権を強く批判する記事を読んだ。それによれば、両国の現政権の政策は、民主主義の敵で、EUを弱体化させるものなのだそうだ。翻訳記事で、カタカナで名前が書かれていたから、ドイツあたりの記者の書いたものなのだろう。ドイツあたりの自称良識派が考えそうな内容ではあるが、こんなことを本気で考えているのであれば、EUの危機は、深まることはあっても、解決に向かうことあるまい。EUの民主主義を踏みにじっているのも、EUを弱体化させているのもEU自身である。ハンガリーとポーランドの事例は、結果ではあっても原因ではない。
確かに、ハンガリー政府の政策には眉をひそめたくなるものが多い。特に、国外在住ではあってもハンガリー系の人にはハンガリー国籍を与えるという政策は、周辺国家にとっては許し難い暴挙ではあろう。ポーランドも政府のメディアとくに国営放送への過度の干渉権に関しては、看過できないし、他にも様々な議論を呼ぶ政策を打ち出している。さらに、両国に於いて社会全体が、ウルトラナショナリズム的な傾向を帯び始め、排他的な雰囲気を生み出しつつあるというのもその通りかもしれない。
しかし、忘れてはいけないのは、この手の右翼的な思想が広まっているのは、何もハンガリー、ポーランド両国、ひいてはチェコも含めた旧共産圏の新しいEU加盟国だけではないということだ。オーストリアでも、ドイツでも、フランスでも、政権を取っているかいないか、国会に議席を持っているかいないかの違いはあっても、全体的な傾向はそれほど大きく変わるわけではない。ただ、それが先鋭的な形で表れているのが、ハンガリーとポーランドであるに過ぎない。だから、それだけをもとに、批判するのは、直接は書かれていなくても、著者が旧共産圏ということで、ハンガリーやポーランドを無意識に見下して差別していることが明白になるのである。
そして、さらに重要なのは、このハンガリー、ポーランドの政権が生まれてきたのは、EU加盟の条件として強制された民主化の後、つまりEU的な民主主義の中から生まれてきたということだ。少なくともEUからいちゃもんがつかない程度には民主的な選挙の中から生まれてきたのが両国の現政権であって、ある程度の国民の支持を得ているわけである。それを、民主主義の敵であるかのように批判するというのは、極端な言い方をすれば、共産主義の時代に共産党に投票することが強要されていたという事実を笑えなくなってしまう。民主主義的な考えの政党に投票しないのは、民主主義の敵だといっているようなものなのだから。
ここで、ちょっと脱線すると、選挙制度が民主的かということで、気になるのがチェコの選挙制度である。下院議員の選挙は、地方ごとに比例代表制で行われるのだが、極右政党が国会に議席を持つことを防ぐために、地方ごとに分かれての選挙であるにもかかわらず、全国での得票が5パーセントを超えない政党は、議席を獲得できないことになっている。だから、ある特定の地方にのみ基盤を持つ地域政党が議席を得るのはほぼ不可能になっている。その反対に、全国で5パーセント以上を確保してしまえば、各地方での獲得票数が5パーセント以下でも、その地方での議席を獲得できることもあるので、全国に候補者を立てられる大政党向きの制度になっている。
いわゆる死票の非常に多いこの制度、極右政党を排除するという目的があるとはいえ、いや、逆に特定の政治的な集団を排除することを目的としているのだから、非民主的で差別的だとEUから攻撃されるのではないかと思っていたのだが、不思議なことにお咎めがあったという話は聞いたことがない。ハンガリーやポーランドの選挙制度がチェコの以上に非民主的だという話は聞いたことがないので、両国の政府は民主的な手続きを経て誕生したと言っても問題はあるまい。
EUや、主要国家であるドイツやフランスなどが考えなければいけないのは、誰がEUの弱体化をもたらす敵であるのかではなく、どうしてEU全体を覆う右傾化の傾向が、ハンガリー、ポーランドで先鋭化して現れたのかである。それは、端的に言えば、EUとその政策に対する失望と、ドイツなどのEU内で主導権を握る国家に対する反感である。
かつて、いわゆる東欧の人々はEU諸国から多大なる支援を受け、感謝の気持ちと共に、EU加盟に対して大きな期待を抱いていた。それが、EU加盟後に失望に変わるのに長い時間は必要なかった。おそらく期待が大きかった人ほど、失望も大きかったはずである。一応、EU内では、加盟国の立場は対等ということになってはいるが、実際は旧共産圏の国家は、第二グループ的な扱いを受けることが多い。ドイツやフランスがやっても問題がないことでも、チェコやハンガリーがやると問題視されることもある。チェコはEUに禁止されているためできないことになっている、赤字に苦しむ農業従事者に対する直接の金銭的支援も、フランスには許可されている。その額が少ないと言って農家が抗議することもあるみたいだけど。
今回問題になっている不法移民の受け入れ問題にしてもそうだ。ドイツの意向に答える形で、EUは加盟国への強制的な受け入れを強行しようとしている。チェコやハンガリーなどの反対意見は、あまりまともに聞いてもらえず、最近は、金を出すから文句を言うなという態度を取り始めている。そういうことの積み重ねが、現在、旧共産圏のEU加盟国に広がりつつある反EUの雰囲気の原因となっている。EUがこちらの言うことを聞いてくれないのなら、こちらがEUの言うことを聞く意味があるのかという主張につながっていくのである。
長くなったので、ここまでを前編として、続きは次の日にまわすことにする。
5月15日23時。
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