2016年05月15日
酔っ払い審判――大丈夫かチェコサッカー(五月十二日)
このニュースが、日本でも報道されたのは、ある意味当然なのかもしれない。ドイツやフランス、イギリスなどの大国とは違って、チェコみたいな小国について日本で報道されるのは、面白おかしい話題が中心になるのだから。
2002年に、プラハを中心にしたボヘミア地方で、百年に一度といわれる大洪水が起こって、多大な被害を出したときにも、日本で一番話題になったのは、洪水に襲われて水没したプラハの動物園から、水にのって逃げ出したガストンくんだった。アザラシだったかアシカだったか忘れたけれども、ブルタバ川を下って、ラベ(エルベ)川に入って、最終的にはドイツまで泳いでいったのだった。当時日本にいたチェコ人の友人からのメールに、日本人と会ってチェコ人だということがわかると、ガストン君の話ばかりされてうんざりしているんだけどどうすればいいかという質問があった。
諦めろとと答えたのか、アメリカ人の振りでもしてろと答えたのだったか、今となっては覚えていないが、日本人と会うたびにアメリカ人だと思われるのに嫌気が差して、「俺はアメリカ人じゃねえ」と書いたTシャツを作って着ていた奴だからなあ、嫌がらせの意味もあって、後者の答を返したような気がする。
いずれにしても、いろいろな理由で日本に滞在しているチェコ人の多くが、どうしてチェコについて報道されるのは、たいていお笑い番組のネタになりそうなことなのかという思いを抱いているに違いない。もしかしたらチェコが好きでチェコ人の知り合いが多い日本人も同じようなことを考えているかもしれない。自称日系人が、大統領選挙に立候補しようとしたというニュースも、日本での受け取り方はともかく、お笑い番組のネタでしかないしね。
だから、チェコのサッカーリーグで、ビクトリア・プルゼニュというチームが二年連続で四回目の優勝を果たしたことは報道されなくても、審判が酔っ払っていたというニュースが報道されるのは当然なのだろう。しかも、チーム表記や人名表記が英語読みのカタカナで意味不明だったのも、間違った情報が入っていたのも当然といえば当然なのだろう。一部の人たちを除けば、チェコのサッカーなんかに関心を持っている日本人なんかいるわけがないのだから、まともなニュースを報道する価値はないし、お笑いニュースでも情報の裏を取ったりする労力をかける価値などないのだろう。いや、報道されて、日本でもチェコについて情報が手に入るだけましだと考えるべきなのだ。
本題に入ろう。事件(というほどでもないけど)が起こったのは、プシーブラムというプラハの南西50kmほどのところにある町である。中世から銀鉱山があったことで有名で、また共産主義の時代にはウランの採掘が行われていたところでもある。この町のサッカーチームは、一時期、共産主義の時代の最強チームであった軍隊チームのドゥクラ・プラハの名前の使用権をもっていたことがあり、ドゥクラが再建されるまでは、数々の優勝トロフィーなどはプシーブラムに置かれていた。裏社会とつながりがあるといわれることもあるこのチームのオーナーが、旧ドゥクラ倒産のどさくさに手に入れていたらしい。
今週の水曜日のスラビアとの試合で、いわゆる第四審判として選手交代などを管理するはずだったピルニー氏が酔っ払っているのは、最初にグラウンドに登場した時から明らかだった。本来両チームのベンチの間にいるはずなのだが、副審と一緒になってディフェンスラインの上げ下げにしたがって、千鳥足でよたよたと動き回っていた。観客はサッカーの試合そのものよりも、この審判の動きを見て楽しんでいたようだ。
その後の事情聴取などによると、ピルニー氏は試合前に、強い蒸留酒を小さなコップで二杯飲んだらしい。控え室ではまったく酔いを感じなかったので、問題ないと思ってグラウンドに出たら、日光と風にさらされて酔いが回ってしまったとかいうようなことを言っていた。皮肉なのは、このピルニー氏の名字のもとになった形容詞の意味が、真面目なとか、一生懸命なとかいう意味であることである。
もう一人の問題を起こした審判は、最近導入が進んでいるゴール審判である。こんな言い方でいいのかどうかは知らないけど。名前はイジー・イェフ氏で、グラウンド内で立小便をしたことが問題になっているが、それだけでなく酔っ払ってもいたようである。ピルニー氏と違って、試合後のアルコールの検査を拒否したらしいので、証拠はないらしいが、酒を飲んでいなかったら、検査に応じるだろうなあ。
これまでも、サッカー選手が練習に酔っ払って出てきて、Bチームに落とされたとか、練習中にトイレに行くのを面倒くさがってグランドの脇で小便する選手がいたという話は聞いたことがある。酔っ払ったファンが、オフサイドの判定に腹を立て、グラウンドに乱入して旗を揚げた副審を殴ってスタジアムから追い出されたのに、外壁を登って客席に戻って再度乱入するという事件もあったなあ。それに、かつては総理大臣が外国で酔っ払って記者会見をしたこともあるって国だから、サッカーの審判が酔っ払っているぐらいは何の不思議もないのかもしれない。
ところで、このプシーブラムというチームには不思議な噂がある。何でもこのチームはホームゲームの笛を吹く審判たちに対して、滞在中の面倒見が非常にいいらしい。その一環としてチームのGMが審判にお酒を提供するというのがある。それで、本来は試合後に飲むように用意されていたものを、我慢できずに試合前に飲んでしまったというのが真相じゃないかと推測している。
5月13日23時30分。
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