2016年05月13日
方言の話――チェコ語版落穂拾い(五月十日)
昨日の分のチェコ語の方言の話が、予想以上に長くなった上に、うまく落ちたような気がして、そこで終わるしかなく、書こうと思いつつ書きそびれてしまったことがたくさんある。後日、書き残したことをまとめて、一つの脈絡のある文章にするのは、何を書き残したか不明になって、余計な手間がかかるだけである。だから、今日の分は、方言にまつわるよしなしごとで、一文物するには小さなものを思いつくままにつらつらと書き連ねることにする。
モラビア地方に特徴的な方言に、「ス(su)」(日本語の「ス」よりは、ちょっと長めに強く発音する)がある。これは、チェコ語を勉強するときに最初に学ぶものの一つである「イセム(jsem)」(実際には「セム」と発音することも多い)のことである。だから「ヤー・ス・ズ・オロモウツァ」(私はオロモウツから来ました)などと使うと、オロモウツ人になれたような気分に浸れるのである。
それから、南モラビアでは、活用語尾に表れる「オウ(ou)」を「ウー」と発音し、ハナー地方では、「オー」と発音する。特に動詞の三人称複数の形でよく使われ、例えば「ほしい」という意味の動詞は、南モラビアでは「フツー」、ハナー地方では「フツォー」になる。
モラビアの首都であるブルノには、ハンテツと呼ばれる方言がある。これはプラハと同じ言葉を使いたくないという反骨心から生まれたある意味で人工的な方言らしい。ただその影響は、ブルノを超えて、モラビア中、言葉によってはボヘミアのほうまで広がって、プラハの人でも知っているものも在るようだ。恐らく一番有名なのは、「シャリナ」で、「トラムバイ」のことである。チェコ語には、トラムやバスなどの市内交通機関に使える定期券を、一語で表せる言葉がないため、ハンテツのひとつである「シャリンカルタ」という言葉を使う人が多い。
昔、オストラバ近辺で通訳の仕事をしていたことがある。通訳の仕事そのものも大変だったのだが、一番大変だったのは、時々チェコ人たちの言葉が聞き取れなくなることだった。オストラバ地方の方言は独特なのである。
特徴が二つあって、一つは長く伸ばす長母音が存在せず、短母音になってしまうことである。そのためオストラバ近辺の人たちのことを、「くちばしが短い」なんていうこともあるようだが、これはそれほど大きな問題ではない。正確には「クラートキー」と言わなければならない「短い」という意味の形容詞を、短いのだからと思いつつ「クラトキー」と発音してしまうことはよくあるし。
もう一つの特徴は、アクセントの位置が違うことである。これは近隣のポーランド語の影響を受けたもので、チェコ語では一般に語頭の母音にアクセントがあるのに、オストラバでは後ろのほうにずれるため、とっさに聞き取れないことがある。正直な話、それまで、日本語で話すときにも、チェコ語で話すときにも、アクセントはあまり重視していなかったのだが、このとき以来、アクセントを多少は意識して話すようになった。
これは最近知ったのだが、この地方の人は、「ここ」という意味の言葉を使うとき、場所を表す「タディ」と、方向を表す「セム」を反対に使う。これはチェコ語を勉強し始めてすぐの段階で、耳にたこができるほど間違えてはいけないと言われたことである。方言とはいえ、それを逆に使ってしまう人がいるというのは驚きであった。しかも、大卒でありながら自分が逆に使っているのが正しいと思い込んでいる人までいる。こういうのは、誰かに指摘されるか、自分で意識して聞くかしないと気づけないのだろう。
オストラバよりもさらに、ポーランドとスロバキアに近づいていくと、特別なポナシムという方言が使われる地域になる。ポーランド系の人たちも多い地域で、チェコ語にポーランド語、ドイツ語の要素が混ざった不思議な言葉が生まれたらしい。これは、聞いて理解できる自信がない。
この地方は方言自慢というものをあまり聞かないチェコの中では、例外的に、自分たちの使っている方言に誇りを持っている地域のように思われるのだけど、どうかな。
5月11日15時
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