2016年05月06日
チェコ語における外来語と外国語の固有名詞(五月三日)
件の日本語ぺらぺらのチェコ人をはじめ、日本語ができるチェコ人が時々ぼやくのが、日本語の外来語の多さ、わかりにくさである。外来語の多さには日本人であっても辟易することがあるし、意味不明なままに使われているものもある。でも、もわかりにくさとは何なのだろう。聞いてみると、英語から入った外来語は、日本語に取り入れられてカタカナ化される際に発音にずれが生じるため、日本語で見ても聞いても元の英語の言葉を思い浮かべることができないことが多いのだそうだ。その意味を聞いて納得はしても、どうしてカタカナでそう書くのか首をひねってしまうという。
しかし、外来語、もしくは外国語の言葉の発音がめちゃくちゃだという意味では、チェコ語も日本語と大差ない。表記上は同じアルファベットを使うので、チェコ語化した外来語なのか、外国語をそのまま使っているのかわからず、目で見たときには意味はわかっても(わからないことも多いけど)、読み方がわからない。そして耳で聞くと、何だかさっぱりわからないこともままある。
かなり昔の話だが、「プツレ」と言われて何のことかわからなかったことがある。聞き返したら、現物を指さしてくれ、見たらパズルだった。英語の“puzzle“をローマ字読みした上に、ドイツ語の影響で“z“を「ツ」と読むため、こんなよくわからない発音になってしまっているらしい。日本人でも英語の言葉をローマ字読みして、変な言葉にしてしまう人はいるけど、そういう人は間違いに気づいたら、深く恥じ入って、正しい、もしくは日本語で一般に使われているカタカナの読み方を使うようになる。それに対して、チェコの人は、みんなではないかも知れないが、堂々と「プツレ」を使い続けているのである。
ドイツ語の発音の影響というのは意外に大きくて、日本の新幹線は、チェコ語でもそのまま使われるのだが、「シンカンセン」ではなく、「シンカンゼン」と言う人のほうが多い。チェコ語でもSをザジズゼゾで読むことがないわけではないが、新幹線は、チェコ語の発音のルールに従えば「シンカンセン」と読まれるべきなのである。人名のヨゼフが、表記上は「ヨセフ」と読むほうが自然なのに、「ヨゼフ」になるのも、ドイツ語の影響だと見ている。
ドイツ語の読み方は日本語の表記上でも結構問題があって、語末のGを「ヒ」に近い音で読むことがあるのを、拡大解釈して、1980年代までは、ハイデルベルクが、「ハイデルベルヒ」と書かれた本もたくさんあった。Gが「ヒ」になるのは、たしか語末が“ig“で終わっていとき時ではなかったかな。だから、“ König“は「ケーニッヒ」と書くのが普通だけれども、“berg“は「ベルク」と書かれるはずである。ちなみに、チェコ語の名字の場合には、「ケーニッヒ」は、ドイツ語の影響などなく「ケーニク」と普通に読まれる。
プツレの他にも、カプセルのことを「カプスレ」と言うし、アメリカ軍のミサイルについてのニュースで、「トマハフク」と言うのを聞いたときには、耳を疑った。チェコで「ハフ」というのは犬の鳴き声を現す擬声語なので、何でここで犬が出てくるのか、まったく理解できなかったのだ。いろいろ考えて、日本にいたころに名前を聞いたことのあるトマホークにたどり着いたときには、もう力なく笑うしかなかった。
人名、地名にも悩まされる。チェコ語化した、もしくはチェコ語訳のある地名、人名についてはもはや何も言うまい。女性の名字に「オバー」がつくのももう慣れた。問題なのは、英語やフランス語などのアルファベットを見てもすぐには正しい読み方がわからないものを、チェコ語風の読み方にしてしまうことだ。
イギリスの話をしているときに、「テチュロバー」という人名が出てきた。話の内容から、これはどうもサッチャー首相のことらしいと気づくまでには、かなりの時間を要した。英語の子音“th“を日本語では、サ行、ザ行で処理することが多いのに対して、チェコ語ではタ行で処理することが多い。また、英語独特のアとエの中間にあるあいまい母音を、日本人はアで聞き、チェコ人はエで聞く。それがわかっていてなお、「テチュロバー」からサッチャーを導くのは無理だった。もし、チェコ語で何の説明もなしに、サッチャー首相についての話を聞いて、誰のことかわかった人がいたら、心の底から尊敬する。
フランス語の人名の場合には、末尾の発音しないはずの子音を発音することがあったのが問題だった。こちらは、カタカナで覚えているだけで、フランス語のつづりなど知らないから、余計な子音がついていると別の人名だと思ってしまう。最近は、ニュースなどでは、一格はフランス語の発音を優先して、発音しない子音は発音しなくなったけれども、格変化をすると、発音しない子音も発音した上で語尾をつけるので、例えば、一格はミッテランでも、二格ではミッテランダになってしまう。これも大分慣れてきたけど、とっさだと辛いものがある。
最近、何かと話題に上ることの多いイギリスのレスターだが、チェコではどうも「リーチェスター」と読まれていることが多いような気がする。つづりを見たら書かれている通りに読んだだけだとわかるのだけど、最初は同じ地名を指しているとは思わなかった。まあイギリスの地名が名前の起源になったウスターソースも、チェコ語だと「ボルチェストロバー・オマーチカ」になるからなあ。
この手の日本語のカタカナ地名からは想像しにくい地名としては、「エディンブルク」を挙げておこう。スコットランドの地名だとわかれば、気づく人も多いだろうが、エジンバラのことである。最初に耳にしたときには、ドイツの地名だと思ったんだけどね。
日本語の場合、カタカナ表記をして原語の表記は使わないことが多いので、一度書き方が定着してしまうと、よほどのことがない限り読み方が変わることはない。チェコ語の場合には、原語の読み方に近い読み方をする人がいても、それを知らない人がチェコ語の発音のルールに従って、場合によってはドイツ語の影響と共に読むことで、チェコ語風の発音で定着することも多い。私は特に気にならないのだが、日本語では「ニューカッスル」と言われることの多い地名を、チェコ人がつづりにひかれて「ニューカットスル」と子音の“t“を発音するのが気に入らないと、うちのは言っている。
原語のつづりがどうであれ、ある程度正しい発音を固定してくれるカタカナ表記というものは素晴らしいものである。ただ語学の教科書でカタカナでルビを振るのはどうなのかなあ。カタカナでは表記できない微妙な発音がカタカナで表記できる発音に変化して定着しそうな気がするんだけど。
外国の言葉、地名などを使用するときの表記、発音に関する問題というのは、チェコ人たちが言うように日本語にもあるから、「だからチェコ語は」などと言っても、目くそ鼻くそのレベルの非難のしあいになってしまうけど、外国語を勉強する人間にとっては、その言葉における外来語、もしくは外国の人名、地名というものが、運用の上で一つの大きな壁になるのは、何語を勉強するのであれ、同じなのだろう。
5月4日18時。
お、なんか久しぶりに真面目な題名になっているような気がする。これはちょっと読んでみたいかも。5月5日追記。
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