2019年07月07日
dítě〈私的チェコ語辞典〉(七月五日)
この言葉、単数では中性名詞でありながら、複数では女性名詞になるという厄介なものである。しかも、単数では、「kuře(ひよこ)」「kotě(子猫)」「štěně(子犬)」など、動物の子供を表す名詞と同じ特殊な変化、格変化をすると語幹が拡張されて「et」が出てくるという変化をし、複数では女性名詞なのに子音で終わる「kost(骨)」などと同じ特殊変化をするから、比較的使う機会の多い言葉でありながら、なかなか正しい格変化ができない言葉の一つである。
だから、特に正しいチェコ語を使う必要のないときには、「děcko」という話し言葉的な、もしくは方言的な形を使ってしまう。これなら「o」で終わる典型的な中性名詞だから、格変化で悩む必要もなくなる。ただ、昔話の語り始めなんかに、子供たちに呼びかける「milé děti」という表現を「milá děcka」にするとまじめさが消えてしまうような難はある。
逆に「děcka」が似合うのは、「děcka, jdem(ガキども、行くぜ)」なんて勢いよく声をかけるときだろうか。それでも、「dítě」を使うときに、複数の1格「děti」と2格「dětí」をしばしば混同していたから、いや、今でも混同することがあるから、ちょっと考えればわかるんだけど、ついつい楽なほうに走ってしまう。
この「dítě」から派生した形容詞は、「dětský」で「dětský pokoj(子供部屋)」なんてのに使う。もう一つ「dětinský」というのもあるけど、こちらは「子供っぽい」という意味になる。「dětinské chování(子供っぽい振る舞い)」のように批判的につかわれる。それに「dětství(子供のころ)」なんて名詞もあることを考えると、本来「dítě」とは別に、「dět」という女性名詞が存在していたのではないかと思えてくる。二つの名詞の単数形と複数形の使用頻度に大きな差があって、使われなかったほうは忘れられ、使われていた二つの形が結び付けられて一つの言葉扱いされるようになったとかさ。
こんなことを考えてしまうのは、「女の子」を意味する言葉に、女性名詞の「dívka」と中性名詞の「děvče」というよく似た二つの言葉が存在するからである。こちらは、両方とも単複存在していてどちらも使われている。昔、テレビで老婆を演じるボフダロバーが、同じぐらいの年齢の女性たちに「děvčata」と呼びかけているのを聞いて、「女の子」じゃなかったの? と不思議に思ったことがあるのだが、師匠の話では、「děcka」を子供以外に使うことがあるのと同様に、同じぐらいの年齢なら問題ないらしい。
男の子を表す名詞で同じように、年齢が上でも使うものは「kluci」なのだけど、「děvče」とは違って中性名詞ではなく、普通の男性名詞である。女の子にだけ、動物の子供と同じ変化をする形が存在するのは、チェコ語が……なんて事を言い出す人もいそうである。そんなことを言い出したら、男性名詞だけど、動物の子供の中性名詞とほぼ同じ変化をする「hrabě(伯爵)」「kníže(侯爵)」なんていう貴族の爵位を表す言葉があるという反論はできる。そうすると貴族も動物と同じで、人間外の存在とされていたなんてことなのか。
それはともかく、中性名詞の「dítě」だけれども、名字として使われると男性名詞となる。その場合の複数形は。女性名詞の「děti」にはならず、「hrabě」と同じになるなるはずである。「hrabě」は複数では中性扱いになって「kuře」と同じ変化をするんだったかな。ちょっとあいまいだけど、人の名字を複数形で使うことは滅多にないからこんなもんでいいのである。
問題は名字の女性形で、普通に考えれば、語末の母音を取って「ová」をつけて、「Díťová」となるはずなのだけど、各変化した後の形から「Dítětová」とするようである。これは、「Hrabě」も同じで、女性の名字は「Hrabětová」となる。名字になっても厄介さは変わらないのである。
ちなみに、子供を表す名詞には、他にも女の子なら「holka」、男の子なら「chlap」「chlapec」という言葉もあって、それぞれ「dívka」「děvče」、「kluk」との違い、境目がどこにあるのかはよくわからない。
2019年7月6日23
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