2019年06月27日
年金問題(六月廿四日)
チェコではまっとうな仕事をしているので、税金だけでなく年金などの社会保障費も天引きされていて、仮に支払いたくないと思っても払わずに済ませる手はないのだけど、日本にいたころは、天引きだったのは税金だけで、年金は自分で手続きして払うことになっていたから、一時の例外を除いて払っていなかった。
それは、年金がもらえるようになる年齢まで生き延びるつもりがなかったというのもあるけれども、すでに90年代の初めには公的年金制度が機能不全に陥っていて、崩壊するのが目に見えていたからでもある。知人の話を聞いていると、90年代までに年金生活に入った人に関しては、年金に不満とか不安の声は出てこなかったけど、これから年金をもらうという人たちは、すでに自分が払った分が年金として戻ってくるのかどうかさえ不安がっていた。
そうなると、当時年金を払い始めた我々の世代が、年金をもらうころには、生活していけるだけの額がもらえないのはもちろん、自分が納めた分さえ戻ってこないのは確実で、それなら貯めた分は戻ってくる銀行に貯金しておいた方がましだと考えたのである。まだ国民年金の支払いは任意で、強制ではなかったはずだからそんなことができたのだけど。義務化されて罰則が設けられる前に日本を逃げ出すことができて万々歳である。チェコでもらえるかどうかわからない年金を払っているのに抵抗がないとは言わないが、外国人として住まわせてもらっている以上は、その国の制度に従うべきであろう。
だから、最近の日本が年金が足りないとかで大騒ぎをしているのを見ても、今頃何を言っているのだろうとしか思えない。すでに80年代の終わり、もしくは90年代の初めには、今のままの給付水準を保っていたら、近い将来破綻するという報道はなされていたのに、対処されることなく放置されてきたようだ。対処としては義務化と強制徴収が始まったのかな。
日本の年金制度については、ほとんど知識がないので、当時破たんの恐れがあると言われていたのがどの年金なのかはよくわかっていないけれども、その後も何とか年金が破たんしたとか、そのため国民年金にかかる負担が大きくなるというような記事は読んだ記憶がある。年金が消えたとか言って大騒ぎしていたこともあったのだから、年金だけには頼れないと考えている人の方が多いと思うのだけど。
それなのに、政治家も、マスコミも、今回の何とか庁の報告で、初めて年金だけでは生活していけないということが分かったような対応をしていて、何かの悪い冗談だとしか思えない。ここまで問題が放置されてきた理由は、下手に触ると選挙に負けるというものだろう。年金制度を将来にわたって維持可能なものにするには、給付額を減らすしかないはずだが、それをやると年金を減らされる人たちの票が他党に流れてしまう。
それで、与党も野党もみんな年金制度の抜本的な改革に手を出せなかったというところだろう。そうすると、今回の騒動は、政治家が現実を無視して先送りを続けるのにしびれを切らした担当の官僚が投げつけた爆弾ということになるのかもしれない。昔の自民党は、消費税導入とか、有権者の反発を買うのがわかり切った政策を掲げて選挙を戦うだけの強さを持っていたけど、90年代以降の政権交代が頻発する時代に入って、その強さを失ってしまった感がある。その結果、与党も野党もお互いをポピュリストと批判しあうだけの、目糞鼻糞を笑う的な存在になってしまっている。
チェコも、与野党を問わず支持者の耳にやさしいことしか主張しないので、年金の給付額を急速に上げることを主張する政党が多い。年金制度が完全に国営で、足りない分は国の予算からつぎ込まれるので、実はチェコの国家予算で最大の支出は年金なのである。与党は年金の給付額をこれだけ上げたと自画自賛し、野党はそれでは足りないと批判する。足りない分をどこから持ってくるかとか、年金を増やした分、どこの予算が削るとかいう議論は残念ながら存在しない。
政党にとっては選挙に勝つことが最大の目的となっており、そのためには無理をしてでも、有権者の数も多く投票率も高い年金生活者のための政策を実行する必要があるのである。他にも野党は、どこの予算を削れと言う具体的な提案もないまま、支出の削減を求め、同時にある分野に関しては、財源をどうするかの提案もないまま予算の増額を求める。
これは現在のANO政権と野党の関係についての話ではなく、一般化した話である。つまり与党が頑張って予算を、かなりばらまき感の強い予算を立てると、野党がばらまきであることを批判し予算の削減を求めながら、同時に予算の増額を求めるというのは、90年代から続くチェコの政界の伝統のようなものに思われるのである。だから、よほどの問題でも起こらない限り前年度より予算額が減ることはないし、各省庁でも前年の予算を守るために必死になっている。
政治の世界なんてどこの国も大差ないということかな。もう少しあれこれ書こうと思っていたことがあるのだけど、30度を越える暑さで融けてしまった。
2019年6月26日23時。
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