2019年06月24日
森雅裕『鐵のある風景』(六月廿二日)
昨日の記事で森雅裕の名前を挙げたので、忘れないうちに次の記事を書いておく。前回は四月の初めに書いているから、それほど時間がたったわけでもないのか。
順番から言うと、集英社三部作、もしくは時代小説三部作の第一作『会津斬鉄風』を取り上げることになるのだが、うまくまとまらないので、先に最後のメジャーな出版社から刊行された商業出版である『鐵のある風景』について書くことにする。出版社は百科事典で有名な平凡社、刊行は2000年の6月だから、この本を読んでから最初のチェコ語のサマースクールに参加したということになる。
副題に「日本刀をいつくしむ男たち」とあるように、小説ではなく、日本刀にかかわる人たちについて書かれた人物伝のようなものである。第一部は「金巧たち」と題して、親交のある刀工を初めとする日本刀の製作にかかわる職人たちを紹介している。最初に登場して分量も一番多いのが刀工の大野義光氏で、この人は確か『会津斬鉄風』の文庫版に解説を書いていたはずである。『鉄の花を挿すもの』の主人公のモデルになった人でもあったかな。森雅裕が金を借りて返してない相手という話もあったか。
第二部は「鐵のある風景」と題されているのだが、帯では「鐵」が「鉄」になっている。森雅裕、クレームつけただろうなあ。それはともかく、あとがきによれば、「取材日記」は、図書館流通センターの「週刊新刊案内」に連載していた「続々 小説家にはフタをしろ!」から収録したものだという。「続々」があるということは、何もつかない「小説家にはフタをしろ!」と「続」もあったということで、かなりの長期連載になったことが予想されるのだが、「週刊新刊案内」なんてものの存在は全く知らなかった。
本書に収録されていない分を読みたいと思っても、インターネットの栄える現在ならともかく、2000年当時では「週刊新刊案内」がどこに蔵書されているのか調べようもなく、泣く泣く諦めることになった。国会図書館まで行けば読めたのかもしれないけど、小説ではないもののためにそこまでする気にはならなかったのである。「週刊新刊案内」という署名からして、パンフレットみたいなもので直ぐに捨てられるもののような印象があって、保存はされいないんじゃないかという疑いもあったし。
他にも版元の平凡社のPR誌「月刊百科」に掲載されたものも収録されている。森雅裕は「道草宝物館」と題して連載を持っていたらしいのである。あとがきではもともとはその連載をまとめて一書にするはずだったということも記されている。編集の意向で刀剣関係に限った内容になったというけれども、著者の意向の方が強かったんじゃないかとも思われる。連載ではバイクなんかの話も書いたけれども、収録しなかったらしい。
これも平凡社から「月刊百科」のバックナンバーを取り寄せようかと悩んだのを覚えている。悩んでいるうちにサマースクールのためにチェコに来る準備を始めなければならなくなって、うやむやになってしまったのだった。
残念なのは、現在の平凡社が原則として小説の刊行はしていないことで、小説出版に力を入れていたら、森雅裕の小説を出してくれていたかもしれないということなんだけど、ファンの妄想である。とまれ、この2000年までは、平均すれば毎年一冊は本が出ていたので、これが最後の森雅裕の著作になるとは思っていなかった。
その後、ファン達による自費出版で小説が二冊、あまり名の知られていない出版社からエッセイ集のようなものが一冊刊行されたのは知っているけれども、個人的にはこの『鐵のある風景』を森雅裕最後の著作ととらえている。ファンとしては最後の作品が小説ではなかったことが残念でならないのである。
2019年6月23日24時。
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