初期の作品から現在の作品まで約100点が展示されていて、東京都写真美術館の地下展示室が迷路のようになっていた。混み具合もなかなかのもので、前へ進めない程の盛況ぶりだ。
印刷物で見た作品も綺麗なのに、本物は印刷物を見て綺麗だと思うよりも美しく、とても幻想的で本当に「素晴らしい」のひと言に尽きる。生(ナマ)の作品に光が当ててあるというのは格別だ。
藤城清治さんと言えば暮らしの手帖。そして小人というイメージがあるけれど、実際にはさまざまな作品を制作していた。宮沢賢治や聖書の他、「ウィー・アー・ザ・ワールド」というアフリカの飢餓の子供たちや世界のビッグスターを取り扱ったモノなど。小人や夢を与えるばかりでなく、飢餓を取り扱っている点でもわかるとおり、作品の幅がものすごく広い。
私が好きな作品は「宮沢賢治童話・やまなし」、「人魚姫」、「猫曜日」、「ぼくのアクアリウム」、「宮沢賢治童話・鹿踊り」、「天地創造より・バベルの塔」の6点。
「宮沢賢治童話・やまなし」海の底に差し込んでいる光の加減と上方を泳ぐ魚がぼんやりしつつも煌めいている、というところが美しい。カニの泡ぶくも同じく幻想的な世界を醸しだしている。海藻が水の流れにそよいでいるところは、風呂に浸かった自分が揺らめいているようなそんな気持ち良さが思い出されて心地よい気分になった。
「人魚姫」とにかく綺麗だ。サンゴも遠くの明かりも別世界で、人魚姫が座っている岩場が水晶に見えてしまう。右上の魚がアンコウのように光を持っているところも好きだ。アンコウはこの中では一匹だけ別物のようでもある。
「猫曜日」猫がかわいくて仕方がない。しっぽで釣りをしているのかと思いきや、実は光る風船をつけていて、その光に向かって魚たちがジャンピングしている。海からのジャンピングというよりか空中ジャンピングもしくは空中浮遊に見える魚たち。
「ぼくのアクアリウム」カエルくんがキュート。カエル好きにはたまらない作品だ。しかもそのカエルくんがロウソクを灯していて、大きなビンの底を眺めているのだ。「ぼくのアクアリウム」=「カエルくんの秘密の場所」といった感じで、ビン底には不思議な世界が広がっている。魚にタツノオトシゴ、イソギンチャク、楽器にウィスキーのビン…。ちょっぴりわくわくするような そして こっそりと覗きたくなってしまうアクアリウム。でもカエルくん以外にはあくまでも秘密なのだ…きっと。
「宮沢賢治童話・鹿踊り」鹿たちの動きが最高。この踊りの輪に混ざりたい。こっそり入り込みたい。だけど少しでもススキがかさかさと音を立てたら鹿たちは一瞬にして消え去ってしまいそうだ。遠くから眺めている、しかできないのだ。残念…何だかもどかしい。
「天地創造より・バベルの塔」影絵でこれができるのか…というくらい精密で遠近感があって幽玄だ。影絵だからこそ出来る色合いが絶妙だから、空と地平線の凄味が違う。これぞバベルの塔だ。
2004年7月17日[土]〜9月5日[日]
〒153-0062 東京都目黒区三田1-13-3