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2018年10月06日

H君の歌

久しぶりに顔を見た高3のある生徒に、
「やぁ、ミッキー」
と声をかけた。

「勉強、楽しいか?」
私は、教え子の高3と出会ったときは、必ずこう、声をかけることにしている。

「楽しいです。」
たいていは、こう返してくれる。
しかし、不覚にもそのとき名前を忘れていた。あれ、本名なんだっけ…。
そして歌を思い出す…。あぁ、H君だ。

彼ら高校3年生が中学3年生だったとき、私は担当の生徒一人ひとりに歌を作った。
オリジナルというより、替え歌である。おもに童謡にフルネームを当てて、授業中に指名するときは、歌を歌ったのだ。それぞれの歌が決まっており、私が何やら歌い始めたら、その歌の生徒が答える、という仕組みである。

H君の歌が、めずらしくミッキーマウスの歌だったので、私の授業中では、彼を『ミッキー』と読んだのだ。

「生徒にあだ名をつけるなんて、けしからん。」
と、お叱りを受けそうだが、あれもだめ、これだめでは、先生たちも『やってられない』と感じるだろう。もしかしたら、そのあたりが、昨今の「教員ブラック思想」につながっているのかも知れない。

「失敗したら謝ればいい。」

そういう気持ちがなければ、何もチャレンジはできないし、前例主義にそって行動するしかなくなる。

「失敗しないのは、チャレンジしてないから」
なので、自分のいい加減な行動で失敗したのではない限り、上司は、失敗には寛容であるべきだろう。

同じ失敗を重ねない、ということも、進歩の一つだ。

今でも、時折彼ら高3とすれ違うと、私は歌を歌う。

「先生、懐かしいですね…。」

「懐かしいのは、君だけではないんだよ。元気に活躍している君の姿を見て、私も懐かしんでいるんだよ。」
と心で思って、最大限の笑顔で応える。

教師にとっての、ささやかながらの幸福感を得られる一場面だ。
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