全11章構成で、1話あたり10〜15分なのでテンポはかなりいい
絵(ゆきんこ−冬の幼馴染−と同じ素材っぽいが、キャラデザは作者になってる)もテイストも完全に2000年前後の古き良き葉鍵系で、kanonやAIR、クラナドの影響がかなり強い(あとがきによるとどうやら本当にそうらしい)
▼ストーリーは丁寧に執筆されており、細かい伏線の使い方も上手い。作者が「無数に伏線がある」と言ってるが、無数は大袈裟ながらも、仕込んでいる数は非常に多い
物語は主人公が謎の少女空と出会うところからスタートし、夏の思い出を主人公の母親である佐藤恵子(余りにもありふれた名前だと思ったが、これもまさか伏線だとは)と3人で作りながら、青春ものっぽく進んでいくが、中盤、恵子が殺人事件の被害者になり、物語は急展開。
しかもありふれた名前だから人違いだった、という酷い殺され方
何かを決意し、置手紙を残し姿を消す空
▼ここでかなり唐突に空の正体を推理することになる。普通の恋愛ゲームにはなかなか無い展開。
これがジャンルに推理とある理由。推理といっても1つ選択肢を選ぶだけなので推理ADVのようなゲーム性はないが、プレイヤーに話を考えさせるギミックにもなっているので悪くない流れ
まあ空は昔飼ってた猫というミスリードもあるんだけど、定石のとおり過去から来た人間で、祖父の若いころの想い人が正体
この辺かなりありがちだが、よく書けている
▼能力でまた過去に戻り、娘の名前を修正するように仕向け、恵子を助けようとする空。だがそうしてしまうと別の世界が構成されてしまい、主人公は空の事をすべて忘れてしまう
って、なんか思ったより強大な能力者だな。世界そのものを揺るがす能力って…
お互いの想いを伝えながらも恵子を救うために別れる2人。名残惜しいのは分かるけど、ここちょっと会話がしつこいですね
▼そして時代は回る。平和な日常を過ごす主人公
冒頭と同じ夏休みのある日、同じ草原で、空とよく似た少女と出会う
主人公はデジャビュを感じながら謎の感情に戸惑う
それがタイトルシルエットにもなっている昊で、まあ正体は空の孫なんだけど、まさか孫同士が恋愛関係になる結末だとは想定外だったね。
ベターでいうとここは転生した空と再会するところだけど、空も主人公以外の相手と結婚してもう娘も孫もいる、というのがまた切ない。しかももう死んでる。
主人公の祖父のことは尊敬や憧れ、主人公が初恋と言ってただけに、余計に切ないね
そして主人公と昊の恋が始まる…物語は終わる…
結構感動的に締めてるけど、これで「空」が帰ってきた。「ただいま」とするには相当強引な気が…
まさに出会いと別れが同時に発生するシーンだから
確実に賛否でしょう
個人的には切ない物語は好きだからアリとした
▼ただこの結末までの過程、伏線は非常に丁寧で、OPムービーで既にEDを予告しているのはお見事。
冒頭(タイトル画面でもある)の、姿の隠れた昊のシルエットが、空だったりね
このOPムービー、フリゲ史上稀なくらい、完成度が素晴らしい
映像もいいが楽曲『a wandering minstrel』も凄くいい曲で、作品にマッチしている
驚いたことに本作の書き下ろしではなく、ただのフリー素材。だから1番しか作られてないんだよね。しかも本来はファンタジーRPG向けだという。
フリー素材なのに、雰囲気だけじゃなく歌詞までマッチしてるのは稀じゃないか。製作者はこの曲を偶然発見したなら、ベストマッチだとニヤリとしただろう
▼レビューまとめ
ここが〇
・古き良きセンス
・丁寧な伏線
・テンポのいいストーリー
・クリア後はプレー開始の章を選択できる
・衣装が細かく変わる
ここが×
・演出や台詞の応酬(特に終盤の告白シーン)、「だよぉ…」「そら…ぁ…!」などの小書きセリフの連発が、「くどい」。
・身に着けたアイテムもそのままタイムリープしたり、SFギミックは矛盾が多い。とはいえ別に本作はSFゲームを明言していないのだが(そういえばEDは、てっきり、「空がヘアピンを落としていく。足元のヘアピンを拾った主人公、それが何かわからない」、という流れかと思った)
・テキストサイズが小さい。バックログはさらに小さい
・新旧ともに空の目がいうほど青くない。もっと真っ青でもよかった
その他、ストーリー、あとがきについて所感
・空が最初に着てる服が「ちょっと小さい」のが非常に細かい伏線。スカートも妙に短いが、子供の時に買ってもらった服だとは。空が貧乳だからこそ成立するストーリー。そしてそんな子供に恋してた成人男性の祖父は間違いなくロリコン
・冒頭、空が裸で登場してもそこまでおかしくないと思う。裸の少女と出会うって割とよくあるし。サモンナイト2も最後ヒロイン全裸だったな
・オリジナルの恵子が若過ぎたので修正されているが、髪型が変わり女子高生が女子大生になった程度で、殆ど変わってない。だがどうせゲームだから製作者もプレイヤーも気にする必要もないかと
・修正後の世界では汚い方の恵子は死ぬらしいが、綺麗な恵子と名前が被らないならあそこまで畜生化しないのでは?
・汚い恵子と間違えられて綺麗な恵子が殺されるが、主人公がそれを謝罪させようとするのは何か違う気がした。確かに汚い恵子はドクズだけど、因果関係こそあれ、やはり悪いのは犯人。というか推理というにはこの辺りの展開が、ちょっと安っぽかった。変に事件要素は要らなかった。何者かに殺されて犯人も分からないってだけでもいい
▼なかなか面白いゲームで、80点の良作。作者はもう活動してないようだが、新作に期待
ふりーむ萌え部門銀賞を受賞しているが、ノベル部門のほうが相応しい(絵以外には萌え要素がないため。しかも絵は多分素材)
実際、萌えじゃなくて「ノベル要素」で結構感動しましたよ
しかしなんていうかアレだね
「昊」って「臭」に似てるよね。
昊が自分の名前を臭と名乗ったように見えて、吃驚しちゃったよ
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