常に前向きな"俺"の恋人は、前向きすぎて、今にも"俺"を追い越してしまいそう。
大学生カップルの、時速の違う等速運動の一幕。
▼まず驚いたことに本作「等速運動の君へ」は「発掘少女」「拾われた夏のエデン」「スクール・ライフクール」の作者サークル(の代表)の新作らしい
もうずいぶん懐かしいフリーゲームという気がするが、「発掘少女」は約10年も昔だという。
どーりで。
10年でゲーム業界の中心はソーシャルゲーム、スマホゲームへと移り変わり、
フリーゲームを取り巻く環境も大きく変わった
▼あとがきによれば作者のフリーゲーム制作にもブランクがあるようだが、そんなご無沙汰の新作はどうだったかというと…
非常に面白かった。
「らしさ」や自分の作品へのアンチテーゼというか、「脱却」のようなものも感じられた
私は「フリーゲームはどんどん面白くなっている」とずっと提唱しているが、
現代フリーゲームと比べてもなんら遜色のない、とても面白いゲームだった
▼まずテーマが良い。
恋人たちの「距離感」ではなく、「スピード」を描いている
恋人や夫婦といえど、やはり他人だ。個々のスピード、歩調は違うものだ
▼やや平凡な主人公と才女のヒロインが(「アクティブ」と表現されているが、まあ才女というほうが伝わるだろう)織りなす恋模様が描かれる
ヒロインはイギリス留学で宇宙関係の仕事を志す女子大生で、
主人公はそんな彼女に言い表せない感情を抱く…
…といったストーリー
▼まあこのすれ違い、なかなか切ない
主人公が余りにも言葉足らずなのだ。
言葉選びもへたくそだし、本音とは違うところで彼女を傷つけてしまう
飄々として掴みどころのないヒロインだが、そこはやはり女性。恋人の何気ない一言に大変傷つく
そして好き同士なのに、ふたりのスピードは違う…
…このすれ違いのもどかしさ…
読者は存分に感じることができるんじゃないかな
▼宇宙をテーマにしたUIも面白かった
次のCHAPTERへの入り方が宇宙を飛ぶ宇宙船をモチーフにしてるんだけど、ストーリー中の演出として〇〇〇しちゃうんだよね
地味だけど上手い演出だったよ
▼だが1つ気になったことがある。
過去作品にはなかった試みとして「性」をテーマにしているが……いくらなんでも、コミカルに描き過ぎでは?
コミカルというか昔のケータイ小説のようなギャグで、少し作風を壊していたようにも思う
有体にいえば、滑っていた
折角初恋、宇宙、留学というテーマがあるので、もっとこのふたりのパーソナルにふさわしいセックスの導入があったのでは
気にならない人は全く気にならないだろうが、私は、「性的なものを茶化す」ことはよろしくないと思っている。それがたとえ恋人であってもだ。作品ならば、作風が真面目ならなおさらだ
だからそこだけは気になったな
評価C+
65点
あとがきでは現代に於ける自作小説やノベルゲーム発表の経験談や考え方、
それぞれの特性、マネタイズに至るまでが書かれており、
ブランクのある作者ならではの言葉でしたね(全く制作をしていなかったわけではないでしょうが)
…
「発掘少女」から10年経ったように、
10年ぶりに再会した幼馴染でもある、主人公とヒロイン…
ふたりの10年間は、なにが違ったのでしょうか
この物語は、あなたのスピードで読み進めてください
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