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ファントマス(十二月廿日) [2020/12/23 08:00]
 先日ネズバルの翻訳を刊行してくれたありがたい出版社である風濤社の出版物を検索したら『ファントマ』というフランスの怪盗を主人公にした作品の翻訳が出てきて驚いた。フランスの怪盗というと、日本ではアルセーヌ・ルパンの名前が最初に出てくるが、チェコでは誰がなんと言おうとファントマスなのである。フランス語での読み方は知らないが、チェコではチェコ語の発音の原則に基づいてファントマスと呼ばれる。  チェコでファントマスが有名なのは、残念ながら小説のおかげではなく、1960年代に..
カレル・チャペクの戯曲番外続(十二月七日) [2020/12/10 08:27]
 昨日のチャペクの戯曲『母』は舞台での上演で、作品の発表から50年近く後のものである。現代化がされていたようには見えなかったが、冷戦末期の東側での上演という時代背景が演出に影響を与えていないという保証はない。チャペクのような有名作家の作品だと影響があったとしてもそれほど露骨ではないだろうし、気づけるだけの知識は持っていないから気にしてもしょうがないのだけど。  それに対して、今日見た映画の「白い病気」は、戯曲が発表された翌年の映画化なので、監督のハースの解釈が入るに..
イジー・メンツル終(九月九日) [2020/09/12 06:44]
 ビロード革命後は作品の数はそれほど多くない。チェコスロバキアが分離した直後の1994年には、なぜかロシア人作家の原作をもとにスビェラークが脚本を書き、ロシア人俳優を主役に据えた映画を作成している。チェコでも公開されたようだが、もともとはロシア語の映画で、チェコ語版は吹き替えだったという話もある。チェコとロシアだけではなく、イギリス、フランス、イタリアも制作に関わっている。  題名は「Život a neobyčejná dobrodružství vojáka I..
イジー・メンツル2(九月八日) [2020/09/11 06:53]
 「つながれたヒバリ」以後、数年の沈黙を余儀なくされたメンツルは、1976年にスビェラーク、スモリャクのツィムルマン劇団と組んで「Na samotě u lesa(森のそばの一軒家)」を制作する。この映画がきっかけになったのか、メンツルは1977年から79年にかけて、ツィムルマン劇団の一員として活動している。ただし、映画の撮影の仕事が忙しくて出演できないことが多かったらしい。確か、この映画も出演したヤン・トシースカがアメリカに亡命したためテレビで放映できなかったという..
イジー・メンツル1(九月七日) [2020/09/10 06:36]
 チェコを代表する映画監督のイジー・メンツルが亡くなった。日本では名字は「メンツェル」と音写されることが多いが、チェコ語の発音では「メンツル」である。「Z」が「ツ」になるのはドイツ語の影響だろうか。享年82歳。天寿を全うしたといってもいいのだろう。協力して数々の名作を送り出した盟友のボフミール・フラバルと享年を同じくするのは、運命というものだろうか。フラバルはチェコ最後の文豪といいたくなる存在だが、メンツルも最後の巨匠と言ってもいいのかもしれない。  ニュースでは、..
ツィムルマンの夏3(七月廿九日) [2020/08/01 06:25]
承前 7.Vražda v salonním coupé  これまでの作品の中で、一番ちゃんと最後まで見たのがこの作品。題名は「客室における殺人」とでも訳しておこうか。「coupé」はすでにチェコ語化した外来語で「kupé」と書くことが多いが、鉄道の客車のコンパートメントを指す。「salonní」はサロンの形容詞形なので、恐らくは普通のコンパートメントよりも豪華なものを指すのだと思う。  冒頭の研究発表の部分では、犯罪とツィムルマンの関係が語られるんだった..
お蔵入り映画の日3(十一月廿六日) [2019/11/28 06:36]
承前  七本目が始まったのは午後8時。この夕食後の一番いい時間にミロシュ・フォルマンの作品を持ってきたのは、チェコテレビも視聴率を多少は意識しているということだろうか。選ばれた作品は、「火事だよ! カワイコちゃん」という邦題で日本でも公開されたらしい「Hoří, má panenko」である。この邦題については、黒田龍之助師が「センスを疑いたくなる」と『チェコ語の隙間』で評している。  1967年末に国内で公開された、この映画が後に禁止された理由は、フォルマン..
お蔵入り映画の日2(十一月廿五日) [2019/11/27 06:42]
承前  四つ目は、日本ではすでにフランスの作家になってしまったクンデラの同名の小説を映画化した「Žert(冗談)」。完成は、1968年だが、「プラハの春」がワルシャワ条約機構軍に踏みにじられた8月下旬以降のようだ。この作品は1969年に一度は公開されているから、即座にお蔵入りしたわけではない。それが、最終的に禁止された理由は、恐らく原作者で脚本にもかかわっていたクンデラの存在である。  クンデラは、もともとバリバリの共産党員で、第二次世界大戦直後のインテリの若手作..
お蔵入り映画の日1(十一月廿四日) [2019/11/26 07:01]
 1989年までの共産主義体制下のチェコスロバキアでは、戦前の日本と同様に厳しい検閲が行われていたことを知っている人も多いだろう。その検閲のせいで、制作はされたもののそのままお蔵入りになった映画や、公開はされたもののテレビでの放送を禁止されたものなど、チェコスロバキアでは長きにわたって見ることができなかったチェコスロバキア映画というものが存在する。  お蔵入りになる理由はいろいろあるが、一番多いのは監督、出演者に問題があるという事例だろうか。特に監督や主役級の俳優が..
チェコ映画を見るなら(十月卅一日) [2019/11/02 07:52]
 ネタがないわけではないのだけど、時間の変化に伴う気力の低下でやる気が起きず、難しいことは書きたくない。何か簡単に書けることはないかなと考えていたら、チェコ語の師匠に、チェコで一番人気のあるコメディだといって授業の代わりに見せられた映画のことをまだ書いていないことを思い出した。知る人ぞ知るチェコの映画を何本も紹介している黒田師の『チェコ語の隙間』にもなぜか取り上げられていない。  その映画の題名は「S tebou mě baví svět」という1982年に公開..
ビネトゥー(七月十九日) [2016/07/22 06:52]
 チェコ人たちが愛してやまないドイツ映画、いや正確には西ドイツの映画がある。ドイツ映画だけれども舞台はアメリカ西部で、主人公はアメリカインディアンのアパッチ族、演じるのはフランス人の俳優、撮影地はバルカン半島の旧ユーゴスラビア。もう一人の主人公はアメリカ人をアメリカ人の俳優が演じ、イタリア人の俳優も出演するという何とも国際的な映画である。  映画の名前は、というよりシリーズの名前は「ビネトゥー」。アメリカの西部開拓時代のインディアンと白人の争いを背景に、アパッチ族の..
クノフリカージ(六月十六日) [2016/06/19 07:05]
 今から十五年ほど前、2000年前後にチェコに滞在していた人は、みな次の質問に悩まされたはずである。斯く言う私自身も、会う人ごとに、日本人だと知られるたびに、繰り返し質問をされ、うんざりしながら頭の中で答えを作り上げて、うんざりした口調で口に出していた。 「あのさあ、チェコの映画で見たんだけどさあ、日本語にはナダーフカってものがないって聞いたんだけど、ほんとなの?」  チェコ語の「ナダーフカ」というのは、何か不快なことが起こったときなどに、思わず口から漏れてしまう..
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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



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