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2020年02月04日

カレル・チャペクの戯曲残り(二月朔日)



 戦前に日本語に翻訳された三つ目のカレル・チャペックの戯曲は、『Věc Makropulos』である。これは、不老不死をテーマにした作品で、レオシュ・ヤナーチェクがオペラに仕立てたことでも知られる。日本ではオペラ作品の方が有名だったかもしれない。
 ロボット、もしくは人造人間同様、不老不死というのもSF的ではよく取り上げられるテーマの一つだが、この作品が戦後のSFブームの中で日本語に翻訳され出版されることはなかった。それはともかく、日本で刊行されて国会図書館に所蔵されているのは以下のものである。


@ 北村喜八訳「マクロポウロス家の秘術」(『世界戯曲全集』第22巻、近代社、1927年)
A 鈴木善太郎訳「マクロポウロス家の秘法」(『近代劇全集』38巻、第一書房、1927年)
 同じ年に同じ作家の同じ作品が別の訳者によって翻訳され別々の全集に収録されたという珍しい例になっている。『虫の生活』も両方の全集に入っているが、あれは北村訳が最初に単行本として刊行されたものが収録されたという点で違う。とまれ、同時期に同じような戯曲の全集が刊行されたということは、当時の日本社会において、特に文学の世界において戯曲、演劇というものが果たしていた役割の大きさを示しているのだろう。


B 田才益夫 訳『マクロプロス事件』(世界文学叢書1、八月舎、八月舎、1998年)
 三番目の翻訳は、ビロード革命後、1990年代の終わりまで待たなければならなかった。英語からの重訳と思われる前の二つの翻訳が「マクロポウロス」という表記を採用しているのに対して、「マクロプロス」となっているのは、チェコ語の読みにあわせたものか。「Věc」をどう訳すかというのも問題になるのだが、どの訳がいいのかはなんともいえない。直訳すると「物」とか「こと」となる。
 この本は、チェコに来る直前の出版で、当時はチェコ関係の本は買いあさっていたから手に入れて読んだ。終わり方に釈然としないものを感じて、これではSFの枠では評価しにくいんじゃないかと思った記憶がある。問題は、同時期にヤナーチェクのオペラの対訳も読んでいることで、どちらを読んでの感想だったのか判然としない。
 その後、当然といえば当然だが、田才益夫訳『チャペック戯曲全集』(八月舎、2006年)にも収録されている。
 また、海山社のHPによれば、栗栖茜訳の「マクロプロスの秘密」が、「白い病気」とともに『カレル・チャペック戯曲集』IIとして刊行準備中だという。 


 ビロード革命後に最初に翻訳されたのは、『Bílá nemoc』(1937)で、チェコ国内では、発表の同年にフゴ・ハースによって映画化されている。ハースは、戦前のチェコスロバキアを代表する俳優兼映画監督の一人だが、ユダヤ系だったために、ミュンヘン協定後にアメリカに亡命し、アメリカでも俳優や監督として活躍した人物である。
 現在までに出版された日本語訳は以下の二つ。

@ 栗栖継訳「白疫病」(『カレル・チャペック戯曲集』1、十月社、1992年)
A田才益夫 訳「白い病気」(『チャペック戯曲全集』、八月舎、2006年)
 翻訳とは直接関係しないが、十月と八月という二つの出版社の間に、何か関係があるのだろうか。チェコとのつながりで言うなら、十月はチェコスロバキアの独立した月で、八月はプラハの春の民主化運動がソ連などの軍隊の侵攻によって弾圧された月ということになる。考えすぎだろうか。海山社から栗栖茜訳の刊行準備中なのは上記の通り。

 田才益夫訳『チャペック戯曲全集』にはさらに二つの作品が収録され、『Loupežník』(1920)は、ちょっとひねって「愛の盗賊」、『Matka』(1937)はそのまま「母」と題されている。「母」のほうは、ドイツにおけるナチスの台頭を背景にした、反戦、反ファシズムの作品だというのだけど、内容は想像もつかない。
2020年2月2日23時30分。







【輸入盤】『マクロプロス事件』全曲 マルターラー演出、サロネン&ウィーン・フィル、デノケ、ヴェリ、他(2011 ステレオ) [ ヤナーチェク(1854-1928) ]












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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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