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2020年02月02日
戦後の『ロボット』(正月卅日)
➂深町真理子訳「RUR」(「SFマガジン」1964年9月号。早川書房)
戦後最初の『R. U. R. 』の翻訳は、何と「SFマガジン」に掲載されている。意外と言うほどのことはないのかもしれないが、訳者の名前を見たときに驚いた。ハヤカワ文庫で海外のSFやら推理小説やらを読み漁っていたころよく目にした名前で、こんな人がチェコのチャペクを訳していたとは思いもしなかった。雑誌上では「クラシックSF」と銘打たれている。この深町訳は早川からは刊行されておらず、それがSFファンだった我が目に入ってこなかった理由であろう。
その後、早川書房と喧嘩別れしたらしい、「SFマガジン」初代編集長の福島正実が講談社から刊行していた「海外SF傑作選」のうちの一冊、『華麗なる幻想』(1997年)に「RUR-ロッサム万能ロボット会社」と改題して収録されている。問題はチェコ語版の「Rossum」を「ロッサム」と読むのか、「ロッスム」と読むのかだけど、どっちなんだろう。
C栗栖継訳「ロボット」(『世界文学全集』34、学習研究社、1978年)
4つ目の翻訳にして、初めてチェコ語からの翻訳と言いたいところだが、訳者の栗栖継は、初期にはエスペラント語版からの翻訳もしているため、この翻訳がチェコ語からの翻訳かどうかは不明。学習研究社、略して学研が『世界文学全集』なんてものに手を染めていたとは知らなかった。全部で50巻刊行したらしい。80年代ぐらいまでは「学習」と「科学」を出しているだけだと思っていた。
その後、栗栖訳は、金沢の十月社から刊行された『カレル・チャペック戯曲集』1(1992年)にも収録されているが、同じ本でも版を重ねるたびに改定の手を入れたらしい訳者のことなので、大きく改訳されていると思われる。こちらの訳は当然チェコ語版に基づいたものになっているはずである。
D千野栄一訳『ロボット 〈R. U. R. 〉』(岩波書店、1989年)
言わずと知れたチェコ文学? チェコ語学の大家の翻訳だが、今回確認して意外と刊行が遅いことに驚いた。すでにいくつかの翻訳が刊行されていたことが理由だろうか。岩波文庫の一冊として刊行され、薄い本の多い岩波文庫の中でも薄く、買うのをためらった記憶がある。前回と今回紹介した翻訳の中で、唯一、実際に手に取って購入して読んだことがあるものである。感想は、戯曲読むのはつらいわということしか覚えていない。
岩波書店は、書籍の再販制度に加わらない特殊な販売形式をとる出版社で、市場に飢餓感を出すために、「品切れ、重版未定」の状態で放置された本が多いことで悪名高いのだが(特に文庫の黄帯の古典文学なんかふざけんなと言いたくなる)、この千野訳は現在でも問題なく入手できるようである。税込みで726円、チェココルナにすると200行かないぐらいかあ。文庫だと考えると、チェコ的な金銭感覚では高いよなあ。チェコは文庫版がないから本はそれなりに高いんだけどね。でも再販制もないから、意外と安く変えることもある。
E田才益夫訳「RUR」(『チャペック戯曲全集』、八月舎、2006年)
訳者は確か演劇関係からチェコ語、チェコ文学の世界に入った方で、エッセー集などの翻訳、出版を精力的に進めている。この辺まで来ると、こちらが日本を離れてからの刊行なので、書くこともあまりない。この『戯曲全集』には、兄ヨゼフ・チャペクとの共作も含めて、多くの作品が収録されており、そのうちのいくつかはこれまで日本語に翻訳されたことのない作品である。詳しくはその作品の紹介の際に。そこまで続くかどうかはわからないけど。
F栗栖茜訳「ロボット」(『カレル・チャペック戯曲集』1、海山社、2012年)
訳者は、すでに登場した栗栖継の息子で、本業は医師。出版者の海山者は訳者の個人出版社のようなものらしい。気になるのは、父親の訳とどの程度差があるのかだけど、誰か確認してくれんかな。
全訳されたものは以上だが、戦前同様、抄訳なのか翻案なのか、抜粋なのかよくわからない形で発表されたものがある。一つ目は平凡社が刊行していた『現代人の思想』第22巻(1968年)に収録された「戯曲『ロボット製造会社R・U・R』」。訳者の表記は「鎮目恭夫編訳」となっているので、単なる全訳ではなさそうである。また、主婦の友社の『いのちを感じる心が育つおはなし』(2012年)にもチャペクの作品として「ロボット」が収録されているようだが、ページ数から考えても抜粋としか思えない。
2020年1月31日24時。