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2018年12月07日
abで始まる厄介な言葉たち〈私的チェコ語辞典〉(十二月二日)
この前取り上げた「abeceda」も語頭に「ab」が出てきたが、「b」は後ろに母音が続いていたので濁音で読まれた。それに対して今回取り上げるのは、語頭の「ab」を「アプ」と清音、もとい無声子音として発音する言葉である。この中に、なかなか覚えられない厄介な言葉がいくつかあるのだ。
まず、簡単なのから行くと、「absolvent」「absolventka」は、それぞれ、卒業生の男性形と女性形である。日本で名前を聞いたことのあるアメリカ映画「卒業」は、たしかチェコ語では「absolvent」という題名になっていたと思う。原題がどうなっているのかは知らないが、日本語だと「卒業生」よりも、「卒業」のほうが題名にはふさわしい。チェコ語にも同様の事情があるのだろう。
どちらが派生語になるのかは知らないが、卒業の動詞形は「absolvovat」で、その名詞形(いわゆる動名詞ってやつ)は「absolvovaní」ということになる。学校の卒業だけでなく研修の修了なんかもこの言葉で表せるのかな。形容詞としては、「absolvující(卒業しようとしている)」「absolvovaný(卒業した)」というのが動詞から作られる。
では名詞から作られる形容詞はというと、「absolvent」からできた「absolventský」ぐらいしか思いつかない。ただしこれは「卒業生の」という意味で、「卒業の」という意味にはならない。実は、昔、最初に見たときにこの「卒業の」ではないかと勘違いした言葉がある。それが「absolutní」なのだけど、本当に「absolutně」お馬鹿な勘違いだった。
形容詞の「absolutní」は「絶対的な」という意味で、副詞の「absolutně」は、「完全に」という意味でも使われる。そして、しばしばこれと混同してしまうのが、「absurdní(ばかばかしい)」である。意味がぜんぜん違うじゃないかとは言うなかれ、発音が似ている言葉で、かつ耳で覚えた言葉で、つづりがしっかり頭の中に入っていないために、区別がつきにくいのだ。どちらも恐らくラテン語起源の言葉で、ほかの印欧語ができれば、ありえない間違いのかもしれない。でも、英語でこの言葉は、勉強したかもしれないけど、その記憶はない。
ということで上の「absolutněお馬鹿な勘違い」は、「absolutně absurdní勘違い」と言い換えられるのだけど、並べて発音すると、音の響きがとても「absurdní」である。
なかなか覚えられない言葉としては「abstinent」も挙げておかねばなるまい。この言葉、酒抜きとか、お酒を飲まない、飲んでいないことを意味するのだけど、アルコール度数の高いお酒のアプサン(absint)とつづりと発音が似ているのである。アプサンはもともとフランスのお酒で、フランスの言葉というのはその通りだが、つづりもチェコ語化しているし、チェコ人よく飲むし、チェコ人がよく飲むお酒とよく似た言葉が、お酒を飲まないことを意味するというのが理解できなくて、
酔っ払っていないことを示す形容詞「střízlivý」もなかなか覚えられず、使えないから、問題は別のところにあるのかもしれない。反対の意味の「opilý(酔っ払った)」は何の問題もなく覚えて使えるようになったのだから。最近お酒の量が減ったとはいえ、ことはすべて酔境に及ぶべしなのである。
所定の分量に達しないので、もう一つだけ言葉を付け加えるとすれば、「abstraktní」であろうか。この言葉は抽象的なという意味を持つ形容詞である。反対の具体的なという意味の「konkrétní」は、すぐに使えるようになったのだが、抽象的なものというのは、それを現す形容詞自体も覚えにくいということだろうか。思い返すと「konkrétní」も最初は「コンクリートの」という意味の形容詞だと勘違いしたのだった。コンクリートの硬いイメージが具体的と妙にマッチしたのか、それ以来問題なく使えるようになったのだった。問題はいつも「l」か「r」かで悩むぐらいである。
今回取り上げた言葉のほとんどは、チェコ語起源の言葉ではなく、外来語である。やはりその言葉の体系からは外れるところのある外来語ってのは覚えにくいよなあというのを結論にして、無理やり今回の文章を締めることにする。
2018年12月2日23時35分。