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2018年12月03日
abeceda〈私的チェコ語事典〉(十一月廿八日)
せっかく新シリーズ、もしくは新しいカテゴリーを立てたのだから、忘れないようにしばらく重点的に書くことにする。問題は「a」の次に何を選ぶか、どういう基準で言葉を選んでいくかである。ぱっと辞書『現代チェコ語日本語辞典』(大学書林)のページを開いてみても、自分自身で一度も使ったこともないような言葉も結構ある。そうなると書けることは何もないと言っていい。でも、せっかくなので、できるだけたくさんの言葉について、一つ一つにつけるコメントは短くなったとしても触れておきたい。
ということで、座右(というほどは使っていないが)の『現代チェコ語日本語辞典』の「a」から順番に目についた言葉を取り上げていくことにする。場合によっては関連する言葉も一緒に扱うことにしよう。其ほうが分量が稼げるし、多くの言葉に触れることもできる。
ローマ字のことを、カタカナでアルファベットという。これがギリシャ文字の最初の二文字アルファ(α)、ベータ(β)の組み合わせからできているというのはいいだろう。じゃあチェコ語でアルファベットを何というかというと、最初の二文字ではなく、四文字を使って「アベツェダ」となるのである。
チェコでのそれぞれの文字の読み方を示すと、「A=アー」「B=ベー」「C=ツェー」「D=デー」である。すべて短くしてつなげて格変化しやすいように、最後の「de」だけ「da」に変えたということだろうか。この言葉を知るまでは、日本語でもアルファベットと外来語を使っているから、チェコ語っぽくして「アルファべトカ(alfabetka)」になるんじゃないかと考えたこともある。また、チェコ語では文字そのものを指すときには、「アーチコ(áčko)」「ベーチコ(béčko)」というので、この二つを組み合わせて、「アーベーチコ(ábéčko)」と言ったりはしないかなんてことも考えた。どちらも大間違いで師匠には大笑いされることになったけどさ。
語学の勉強にはこのような、考えても仕方がない、四の五の言わずに覚えるしかないことは多い。この手の言葉、表現は知っていれば使えるけど、知らなきゃどうしようもない。昔英語を勉強していた頃は、それが納得できずに、あれこれ考えすぎて嫌気が差して、できるようにならなかったのだけど、チェコ語はもう考えてどうこうしようというのは最初から諦めて、とにかく知識を詰め込んだ。そして、ある程度詰め込んでから、改めて考えるようにした。それが功を奏して英語とは比べられないところまでチェコ語ができるようになったのだから、正しかったのだと思う。
ところで、「a」ではじまる言葉の中には、もう一つアルファベットと同じようなものをあらわす言葉がある。それは「a」の最後のほうにある「azbuka」という単語で、ロシア語などの東スラブの言葉で使用されているキリル文字のアルファベットを指す言葉である。これも「a」で始まるから、文字を二つ三つ組み合わせてできた言葉じゃないかと思っうのだけど、正しいかどうかはわからない。
キリル文字のキリルは、モラビアにキリスト教を伝えた兄弟ツィリルとメトデイのうち、文字を作ったとされるツィリルの名前からきている。実はツィリルが作った文字は、現在のキリル文字ではなく、昔バルカン半島で使われていたグラゴール文字だという話は黒田龍之助師の『羊皮紙に眠る文字たち』で知った。じゃあ、キリル文字を作ったのはツィリル(キリルのチェコ語形)ではなく誰なんだとか、グラゴールはなんでグラゴールなんだという疑問にまで答えが出されていたかはちょっと覚えていない。再読して確認してみよう。
キリル文字はソビエトの全盛期には、スラブとは何の関係もないモンゴルなんかでも使われて、ローマ字(ラテン文字)と世界を二分したようだが(人口から行くと漢字も入れて三分といってもいいかも)、ソ連崩壊後は、人工的にキリル文字を導入した地域では、その地域でもともと使われていた文字や、ローマ字への回帰が進んでいるようである。言葉というのは、特に近代以降の言葉というものは、文字も含めて極めて政治的な存在なのである。
2018年11月29日21時45分。