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2018年06月11日
チェコ―ロシア(六月十日)
一月のヨーロッパ選手権で六位というチェコ代表としては過去最高に並ぶ順位を収めた男子チームだが、八日金曜日に、今度は世界選手権の出場をかけたプレーオフでロシアと対戦した。ヨーロッパ選手権を怪我で欠場したババークが復帰したのは好材料だったが、ポストのペトロフスキーと、エースキーパーのガリアが負傷で欠場するというのは大きな不安材料だった。もう一人のキーパーのムルクバもガリアに劣るというわけではないのだけど、二人同じレベルのキーパーがいるというのが大切なのである。
幸いなことに、去年代表を引退し、今シーズン限りでクラブチームの選手としても引退したシュトフルが、プルゼニュでのプレーオフ初戦限定で代表復帰してくれた。これで、先発するだろうムルクバが当たっていなかったら、シュトフルにゴールを託すことができる。二人いれば、たいていどちらかは当たる確率が高い。そしてもう一人、最近の代表で守備専門の選手として欠かせない存在になっているロボシツェのヤン・ランダも今シーズン限りで引退を決めたけれども、ロシアとのプレーオフ二試合分だけ現役を延長してくれた。
試合前は、いかにロシアが強豪チームだとは言え、かつての強さはないし、ヨーロッパ選手権で六位に入ったチームに攻撃の組み立て役のババークが復帰するのだから、接戦になることはあっても、負けることはあるまいと楽観的な予想をしていた。中継が始まってから解説でチェコ代表は世界選手権のプレーオフは苦手で、数年前にもロシアと対戦してホームで惨敗を喫したことがあるという話を聞いて心配になるのだけど、その心配が当たってしまう。
最初に得点を挙げたのはチェコだった。イーハが引退しホラークが守備中心になった後、やっと現れた大砲候補のカシュパーレクが右45度ぐらいからのロングシュートを決めた。ヨーロッパ選手権で活躍したのは知っていたけれども、チェコテレビが中継してくれなかったので実際にカシュパーレクのプレーを見るのは初めてだった。こいつ本物だわ。イーハやホラークのような重量感はないが、期待の若手から抜け出せないままに終わりそうなカサルと違って、細いなりに力強さがあるし、何よりシュートに行くときの思い切りがいい。将来が滅茶苦茶楽しみである。
それはともかく、先制した後、チェコ代表はしばらくいいところがなかった。ヨーロッパ選手権での成功が悪いほうに出たのか、軽いプレーが多く、ミスでボールを失っては速攻を食らってゴールを決められ、あっという間に1−6と5点差をつけられてしまった。キーパーのムルクバも悪い流れに巻き込まれて、試合開始からどフリーでのシュートの連発にできることは何もなかった。
最大で4−11と7点さまで広げられ、これはこの試合は勝てそうもないと見るのをやめてしまおうかとさえ思った。それでも見続けたのは、クベシュとフィリップが監督に就任して以来のチェコ代表がこういう状況から立て直して接戦に持ち込んだり逆転したりするのを、何度も見てきたからに他ならない。このチーム諦めが悪いのである。
それにしても痛かったのは、ヨーロッパ選手権のヒーロー、ズドラーハラが不調、というかつきがなかったことである。試合開始早々にシュートをはずしたり、ミスから失点の原因になったりして今日はよくなさそうだと思ったのだけど、まさか一点も取れずに終わるとは思わなかった。ホラークの攻撃参加がほとんど得点に結びつかなかったのも、点差を開かれた原因の一つになっていた。審判がホラークへのファールを取ってくれなかったってのもあるんだけど。
状況が変わったのは、前半の半ばぐらいだっただろうか。緩く軽かったチェコのディフェンスがタイトなものになり、ロシアの選手に楽にシュートを打たせなくなった。同時にキーパーがシュトフルに代わった。シュトフルは次第にロシアのシュートを止めるようになり、一時は三点差にまで詰め寄る原動力となった。これがチェコ代表の強みなのである。同じレベルのゴールキーパーを二人擁し、先発が当たっていなければ交代させ、当たっていればそのまま最後まで試合を任せることができる。
前半は、また点差を広げられて、12−17と5点差で終了した。前半の最初のほうの絶望感は消えていたとはいえ、後半で逆転するのはおろか同点に追いつくのも難しいだろうというのが正直なところだった。
後半に入ると、シュトフルが神がかってきた。開始早々から連続で何本かのシュート、フリーのシュートも止め、チェコが19−19と同点に追いつくことに成功する。その後、チェコの選手がチャンスでシュートを決め切れなかったこともあって再び、勝ち越され、一時は3点差をつけられたのだが、残り1分ぐらいのところで同点に追いついた。このまま終わっていても、前半の最初を考えたら信じられないぐらいの結果である。
残り1分ぐらいからの最後のロシアの攻撃を防いだ時点で、残り15秒。速攻がうまく行かなかった時点で、監督たちは最後のタイムアウトを取った。そこでの指示は、キーパーを引っ込めて7人で攻撃することと、残り3秒まで我慢してシュートを打つことの二つだった。残り時間が3秒であれば、キーパーにシュートを止められたとしても、それで試合終了になるという計算だったのだろう。
実際にプレーが再開され、しばらくボールを回した後に、ベチバーシュがシュートに行った時点では、まだ5秒ほど残っており、思わず早すぎるといいそうになってしまった。それにディフェンスの上に挙げた手の脇を抜けていくような結構強引なシュートで、一瞬止められると思ったのだ。実際にはキーパーからはボールの出所が見にくいシュートになったようで、チェコが逆転に成功した。そしてロシアがコート中央からプレーを再開する前に終了の笛が吹かれてチェコが一点差で勝利した。いやあ、最初を除けばいい試合だった。
チェコ代表がこの試合でリードしていたのは、試合開始直後の1−0の状態の時点の、終了直前の2秒ぐらいでしかない。それ以外の時間は、同点もほとんどなかったから、ロシアがずっとリードしていたのである。ロシアに圧倒された状態から立て直して逆転しきっちり勝利したチェコ代表は、他のスポーツも含めてチェコ代表らしからぬしぶとい、負けにくいチームになりつつあるのかもしれない。
チェコが逆転できた要因は、後半に難しい角度からゴールを決め続けたフルストカの活躍とか、ポストのシュラフタとゼマンが予想以上の活躍をしたことなどいくつかあるけれども、一番はやはりシュトフルの存在であろう。シュトフルのプレーもそうだけれども、それ以前に、ムルクバとシュトフルという二人のキーパーを準備できたことに尽きる。ムルクバも、この日は悪い流れに巻き込まれて活躍できなかったけれども、実力には疑いがないので、第二戦が行なわれるロシアでは鬱憤を晴らすような活躍をしてくれるはずである。
心配なのはシュトフルの代表復帰が一試合限定でロシアには帯同しないことである。ガリアがいけるのか、誰かキーパーを追加で招集するのか、現時点ではわからないけれども、苦労して勝ち取ったこの勝利を生かして、世界選手権への進出を決めてほしいものである。サッカーと同じでヨーロッパ選手権のほうが相性はいいのだけど、今の代表チームの体制であれば世界選手権でも何とかなるはずである。
2018年6月10日23時30分。