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2017年01月24日

ダビット・ラート、あるいはチェコの政治家の一典型2 (正月廿日)



承前
 チェコの国会議員も、日本の議員と同じで、在任中は起訴されないという特権を持っている。ただし、国会で審議して可決されれば、捜査が継続し起訴されその間は収監されることになる。以前は庇い合いで起訴を免れている間に高飛びするような輩もいたようだが、近年は国会の特別委員会で起訴が認められることが多い。
 ラート氏の場合に、特徴的だったのは特別委員会で自らを起訴の対象として国会議員としての特権を剥奪することを求めたことで、一聞潔いと評価したくなったのだが、数時間にも及ぶ自己弁護の演説の果てのことだと聞いてその気は失せた。この一見関係ないことまで取り込んで、すべてを引き伸ばすというのがその後のラート氏の戦略となる。裁判で被告になった政治家や実業家の常套手段だといえばその通りであるけれども。
 理解できないのは、保釈が認められるまでの収監されていた期間、国会議員としての仕事はまったくしていなかったにもかかわらず、議員としての給料以外に、政治家としての活動に使うことが前提になっているはずの歳費の支払いを求めて大騒ぎしていたことだ。逮捕などで政治活動をしていない国会議員に歳費を支給するかどうかは、明確に定められておらず、ラート氏の件がきっかけとなって収監中、服役中の分に関しては、支給されないというルールが作られたんじゃなかったかな。

 裁判が始まるとラート氏は、さまざまな口実で裁判の引き伸ばしを始めた。サイクリング中に自転車から落ちたとか、多少の怪我があるようには見えたが、裁判に出られないほどではないようだったし、医者がそんな仮病を使っていいのかと言いたくなるほどだった。
 弁護士が自分の求める仕事をしないと言って解任したり、解任した弁護士が自分の求める仕事をしないと裁判に訴えたり、最初に一瞬見せた潔さは何だったんだと言いたくなるような悪あがきを続けた。そのあがきもむなしく2015年に第一審の判決が下りて、懲役八年で刑務所に入ることになった。これで終わってしまったらラート氏ではないわけで、当然第二審に控訴して、さらに何年か裁判が続くことが確定した。

 刑務所の中でもおとなしくしているわけがなく、囚人の生活環境が悪く、人権侵害だと大騒ぎをしていて、懲りない人だなあと思っていたら、やっていたのはそれだけではなかったようで、控訴審でラート氏の控訴が棄却された後、突然、ラート氏の裁判で検察側の主張の根幹部分の一つとなっていた携帯電話の盗聴の記録が、彰子として認められないという判決が下りた。どういう裁判で、どんな文脈の中で出てきた決定なのかはよくわからないのだが、検察側は、今後盗聴を証拠とせずにラート氏の有罪を立証しなければならなくなったようだ。
 司法関係のことは日本語である程度噛み砕いて説明されてもよくわからないので、チェコ語でなんてちゃんと理解できるはずもないのだけど、わかった範囲で言えば、どうも盗聴の際、もしくは盗聴の結果を証拠として提出する際の手続きに不備があったということのようだ。法務省や検察の人々は不備などあるはずがないと、判決に対して不満の声を上げていたけれども、このまま行くとラート氏が無罪放免ということになる可能性もないわけではないようだ。それどころか、本人の主張どおりに冤罪ということで、国から多額の賠償金をむしりとれる可能性も出てくる。

 チェコの裁判所には、司法マフィアとも言われるような存在があって、特に経済事件なんかの判決や決定の際に、一方的な判断が下されたと批判されることもあるのだが、この件でもその手の裁判官が絡んでいるのだろうか。何年か前にどこかの地方で、裁判官が何人も摘発される事件があったような気がするけど、氷山の一角なんだろうなあ。
 ラート氏は、この事件は、ラート氏を陥れたがっていた勢力と検察の中の一派が手を組んででっち上げた事件だと主張している。それに、チェコの警察は、意外と頑張っていて、政治家の汚職を摘発することが多いのだが、昨年の夏まで警察内にあった二つの組織が、お互いに張り合うように捜査をして、相手側の人間を摘発の対象にすることがあったらしい。ただし、二つの組織の運営に問題はなかったのを、政治家の摘発が続くことにうんざりした政治家たちが、強引に一つの組織に統合してしまったという話もある。検察、警察という組織にも問題があるということか。裁判所の件も含めて、外国人にはうかがい知れぬチェコの司法の闇なのである。

 最終的に、無罪になるにせよ有罪になるにせよ、ラート氏には、最初にワインだと称した大金の出所と使用目的を明らかにする義務があるだろう。百万(ミリオン)の俗語として使われるスイカ(メロウン)とでも答えていれば、冗談にできたのだろうけど。日本でもロッキード事件だったかな、のときに受け取った賄賂のことをピーナッツと称したとかいう話があったなあ。世の東西を問わず、政治家なんてこんなものってところか。
1月23日14時。



 所要でブルノに出かけ、行き帰りの電車の中で書いていたのだが、完成直前で、タッチパネルに変な接触をしたらしく、突然ワードが終了してしまい、最後の部分が消えてしまった。思い出し思い出し再現したのだけど、何かがまただ里ないような気がしていけない。1月23日追記。

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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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