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2017年01月11日

ミヤバ(正月八日)



 スロバキアの西部チェコとの国境からも遠くないところにミヤバという人口一万二千人ほどの町がある。自分では行ったことはないのだが、うちのの両親が、革命前にモラビアでは手に入らなかった物を買いに出かけたことがあると言っていた。当時はチェコとスロバキアは連邦国家だったのだが、微妙に制度の運用が違っていて、チェコでは禁止されていることが、スロバキアでは禁止されていなかったり、チェコでは買えないものがスロバキアでは買えたりしたようだ。
 あれこれ話を聞いていると、どちらかと言えば、チェコ側での方が制度による締め付けが厳しく、スロバキアの方がゆるかったような印象を受ける。外から見ると、目くそ鼻くそ、いや五十歩百歩の違いにしか見えなかっただろうが、その小さな違いが実際に生活していくうえでは大きかったはずだ。

 さて、そのミヤバの町にスロバキアの一部リーグに参戦していた。過去形なのは、この町のチームが、シーズン途中でリーグ脱退を決めて実行してしまったからだ。一部リーグに参戦していたAチームは解散し、選手たちは新しいチームを探して移籍金なしで移籍できるようになったらしい。よくある運営資金切れかと思ったら、金銭的な問題によるものではなく、スロバキアサッカー界の現実に対するプロテストとしての行動だという。 チェコのサッカー界も問題だらけだけれども、さすが兄弟国、スロバキアでも大差なかったようだ。
 スロバキアのサッカー界では、ブラチスラバのチームに対するあからさまな優遇があるらしい。ブラチスラバのチームと言っても、インテルとペトルジャルカは倒産して消滅したから、スロバン・ブラチスラバしか残っていないのだけれども。このあたりは、かつてチェコでもスパルタ優遇とか、スパルタ中心だとかいって批判されていたのと軌を一にする。ただし、最近では、スパルタではなくプルゼニュが優遇されていると批判されることが多くなっている。

 ミヤバのチームは、秋のリーグ戦の最後から二試合目にスロバンと試合を行い、その試合の終了間際に選手だけでなくベンチのメンバーも巻き込んだ大乱闘事件が起こった。その場は審判が両チームの選手を一人ずつ退場にすることで収めたらしいのだが、その後のリーグの処置が問題だった。
 その後の審議で、ミヤバの選手三人に出場停止処分が下り、ジェネラルマネージャーも処罰を受け、監督も審議の対象にされたらしい。スポーツ新聞の記事ではスロバン側にどのような処分が下ったのかについては触れられていなかったが、ミヤバ側がこれだけの反発を見せているということは、一方的な処分だったのだろう。

 ミヤバのチームの関係者の話では、この件だけがリーグ脱退という重大な決意につながったのではなく、これまで積み重なってきた憤懣がこの一件で爆発したのだという。十二チームからなるスロバキアの一部リーグに残った唯一の首都のチームであるスロバン・ブラチスラバが優遇されるのは、その伝統も考えると仕方がないのかなとも思わなくもない。首都に一部のチームが一つもないのには違和感があるし。ただそれが、度を越していたのだろうか。
 確かミヤバのチェコ人選手の発言だったと思うのだが、一生懸命チーム全体で努力して下部リーグから一部リーグにまで昇格してきて、スロバキアサッカー界の現実にぶつかり、昨シーズンに三位に入ったこともあって、一種の燃え尽き症候群を起こした面もあるんじゃないのかなんて声も上がっていたけれども、何とも評価しようがない。

 とまれ、スロバキアの一部リーグでは、秋に行われたミヤバの試合はすべてなかったことにしてしまうのだという。つまり、秋にミヤバに勝って勝ち点を取ったチームは勝ち点を失うということになる。得点などの個人記録、カードの累積なんかはどうするのだろうか。この処置で適切なのだろうか。
 チェコで偽ボヘミアンズが、ボヘミアンズとの試合を拒否したときと同じように没収試合扱いにして、これから予定されている試合をすべて3-0で対戦相手の勝ちという扱いにしたほうが公平なような気がするんだけど、ルールで決まっているんだろうなあ。

 日本の東京中心主義以上にひどい、チェコのプラハ中心主義には、うんざりさせられることも多いが、スロバキアにもブラチスラバ中心主義というものがあるようだ。だから、ブラチスラバを嫌うスロバキアの人たちはチェコに流れてくるのだろうか。

1月9日15時。


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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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