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2016年10月16日
チェコのビザ新事情(十月十三日)
先に結論から言ってしまうと、数年前に半年しか出されないことに変更されたチェコの長期滞在ビザの期間は、2016年の一月から、再び一年の期限で発行できるように法律が改正されたらしい。だから、以前、ビザの発給を拒否された件に関して、発給の是非を審査したプラハの内務省の役人を批判したけれども、問題はそちらではなく、ビザの期限が一年になったという情報をつかんでいなかった日本のチェコ大使館である。現在大使館がビザの申請者にどんな情報を出しているのかは知らないが、少なくとも今年の四月中旬の時点では、大使館のホームページのビザ申請に必要な書類を説明するところに挙げられていた必要預金残高は半年分のものであった。
一月にチェコに来て、二月にブラチスラバでビザの申請をした人が、半年ではなく、十か月分のビザをもらっていた時点で、変だとは思ったのだ。一年の予定でチェコに来てウィーンで申請をした人も、延長はいらないというようなことを言っていたのだが、何の情報も流れてこなかったので、個人の裁量で伸ばしてもらったのであって、制度が変わったなんてことはないだろうと考えていたのだ。
しかし、その後、日本でビザを受領してくる人たちは、みな、正確には、発給日の関係で354日とか、363日とか微妙な数字だけど、一年分のビザをもらってチェコに来ている。話を聞くと、特に大使館から制度が変わったという話は聞いていないようだ。前回の問題の後、関係者には、申請に際して一年分のつもりで口座にお金を入れておくように連絡をしてあったので、実害は出ていないけれども、一年こちらに来る予定で、ビザが半年分のつもりで申請していたら、また拒否される人が出ていただろう。
留学生の中には一年の予定でくる人が多く、そういう人たちは、半年のビザが切れる前に延長の手続きをしなければならない。しかし、延長すると、ビザではなく、長期滞在許可というものに切り替わってしまう。現在の長期滞在許可には、ビザとは違って、いわゆる生体認証などの登録が必要になる。高々半年の長期滞在許可のために、手の込んだ登録をすることのばかばかしさにようやく気付いたということだろうか。
日系企業の駐在の方や、医師になるために医学部で勉強している人たちであれば、半年なんてことはなく、人によっては数年チェコに滞在するのだから、コストをかけていろいろな情報を登録しておくことは意味があるだろう。しかし、半年分滞在許可を延長しても、実際には授業の関係で、そのうちの二、三か月で帰国してしまうような学生にかんしては、データを蓄積しても意味がないし、滞在許可のカードも無駄になってしまう。そのことにようやく気付いたのだろう。導入する前に気づけよという話だが、当時はまだそういうややこしいデータは不要だった。
それから、今年からチェコ大使館が留学生に勧めるようになった最初から長期滞在許可を申請するという方法の存在も関係しているかもしれない。これは2014年ぐらいから始まったのではないかと思うのだが、研究者などで一年を超えて滞在を予定している人たちが使っていた制度だった。日本国内で申請をすると、長期滞在許可を申請するために入国するビザというものが受け取れ、それを持ってチェコに来て、内務省の移民局(とでも訳しておこう)に出向いて、手続きを完了させるというものだった。日本の時点では手続きが完了していないので、内務省の事務所に出向けばそれで滞在許可がもらえるというわけではない。そこからさらに三週間ほど待つ必要があるらしい。
私の知る最初にこの制度を利用した方の話を聞いていると、どうもチェコ大使館の担当者も、通常のビザと、長期滞在許可の違いを理解していないようで、長期滞在許可も半年しか出ないという情報を伝えられたようである。2014年の段階では、ビザは半年しか出ないけれども、ビザを長期滞在許可に切り替える場合には、一年、場合によっては一年以上の許可がもらえていた。ということは、長期滞在許可を申請した場合には、一年の留学中に更新、延長の必要はないということになる。役所の側としても、一年であれば、高いコストをかけて指紋などを登録したりカードを発行したりする意味もなくはないだろう。
もう一つ気をつけなければいけないのは、大使館のほうから、内務省の事務所に三営業日以内に出頭すること、というような指示があることである。これも通常のビザと混同している証拠なのだが、長期滞在許可を申請した人がもらう入国用のビザは、全体の有効期限が確か90日で、そのうちチェコに入国してから60日間有効である。だから長期滞在許可を申請した人は、入国してから60日以内に、国内での手続きを完了しなければならない。だから三日過ぎてしまったといってあきらめたり、パニックになったりしないで、内務省の事務所に連絡を取ってみることだ。いつ来いとか、どこで手続きをすればいいかとか、少なくともプシェロフの事務所に連絡した場合には、そんな情報を教えてくれるはずである。
ただ、わからないのは、昨年の時点では、いや今年の初めの時点でも、留学生たちは、この長期滞在許可の存在を知らず、ビザが間に合いそうにない場合には、チェコに来てからブラチスラバ、ウィーンに出かけて申請する、もしくは、出発を延期してビザが発給されるのを待つという方法を取るしかなかった。それが、突然、今年の夏から、通常のビザの申請と同時進行で長期滞在許可の申請もするように勧められるようになったというから、話が見えない。そんな便利な制度があるのだったら、今年の初めから使っていてくれれば、前回のビザの発給拒否という問題は起こらなかっただろうに。
こういうときに、チェコだから仕方ないと思えるようになるのが、チェコで平穏に暮らしていくコツである。チェコでは必要のない情報はいくらでも手に入るが、自分が本当に必要な情報はなかなか手に入らない。情報が必要な人の手元に届くのはたいてい一番最後である。だから、ビザ関係の手続きでも、最終的な結果が出るまでは、何とかなるさと鷹揚に構えて、相手の不手際でうまく行かなかったときに備えて、罵詈雑言の準備をしておくぐらいの心構えでいるのが一番いいのだ。それができればチェコという魔国でも生きていけるはずである。
10月14日22時。